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会心の逆転ホームラン! 近藤誠也七段(25)王将リーグで永瀬拓矢王座(29)との1敗対決を制する

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 11月15日。東京・将棋会館において第71期ALSOK杯王将戦・挑戦者決定リーグ▲近藤誠也七段(25歳)-△永瀬拓矢王座(29歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は19時55分に終局。結果は125手で近藤七段の勝ちとなりました。

 近藤七段はこれで3勝1敗。初のタイトル挑戦に向けて、大きな大きな一番を制しました。

 11月19日には▲藤井聡太竜王(4勝0敗)-△近藤七段(3勝1敗)戦がおこなわれます。

近藤「全力でぶつかっていきたいと思います」

 もし藤井竜王勝ちならば5勝0敗で、最終戦を待たずして藤井挑戦決定。近藤七段勝ちならば両者4勝1敗で並びます。

 永瀬王座は3勝2敗。状況はかなり厳しくなりました。藤井竜王が次戦で敗れて4勝1敗となった場合には、最終戦の結果次第でプレーオフ進出の可能性が残ります。最終戦の相手は藤井竜王です。

永瀬「せいいっぱいがんばりたいと思います」

近藤七段、大ブレイクの気配

 近藤七段は所司和晴七段門下。偉大な兄弟子である渡辺明王将(名人・棋王)と同門です。渡辺王将は近藤七段の実力を見込んで、2年連続でABEMAトーナメントのチームメンバーに指名しています。今年のチーム名は「ホームラン」でした。

 本局は近藤七段先手で、戦型は角換わり腰掛銀。互いに慎重に間合いをはかりあう、息の長い序中盤が続きました。

 後手番の永瀬王座は千日手歓迎の姿勢で待っているところ。61手目、近藤七段は銀をぶつけて決断の打開に出ました。そこからは一気に激しい戦いとなります。

 進んで優位に立ったのは永瀬王座でした。自玉の上部を手厚くし、相当に負けにくい態勢を築いたようにも見えました。

 しかし近藤七段は離されないように手段を尽くします。やがて形勢は混沌。盤上には逆転ムードも漂ってきました。

 109手目。近藤七段はタダで取られるところに飛車を走ります。これが会心の逆転ホームランでした。

近藤「▲3五飛車で飛車がさばけて、いけそうかなと思いました」

 タダで取れる飛車を取れば自玉が寄ってしまう永瀬王座。取らずに辛抱を続けましたが、近藤七段の飛車が縦横にはたらき始め、押さえ込みの網が破れてしまった格好となりました。

 最後は秒読みの中、近藤七段が永瀬玉を受けなしに追い込んで終局。近藤七段が逆転で大きな一番をものにしました。

永瀬「形勢判断を間違えていたかもしれない」

 終局後、永瀬王座からはそんな反省が聞かれました。

 近藤七段の通算成績はこれで201勝89敗(勝率0.693)となりました。大変な高勝率であり、数字の上からも、近藤七段が安定した実力者であることが示されています。

 今期リーグが始まるとき、ただ一人タイトル戦出場経験のない近藤七段が「台風の目」となる可能性がささやかれていました。そしていよいよ、大ブレイクの気配が漂ってきたのかもしれません。

 熾烈なリーグもいよいよクライマックスを迎えます。11月19日、藤井竜王-近藤七段の直接対決。これを見逃す手はありません。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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