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コロナ禍の「学校教育」と家庭の負担 主要政党の主張を比較

石井しこう不登校ジャーナリスト
国会議事堂(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

 第49回衆議院議員選挙の投開票日が近づいてきました(2021年10月31日・投開票)。私が編集長を務める『不登校新聞』では、主要9政党にアンケート調査を行ないました。質問は「不登校」「ひきこもり」「子ども庁の創設」「子どもの自殺」「コロナ禍の学びのあり方について」です。今日は「コロナ禍の学びのあり方」に対する各党の回答を紹介・解説したいと思います。というのも選挙の参考になるのはもちろんですが、何十年も変わらなかった義務教育が変わろうとしていることがわかるからです。記事の最後尾には各党の回答全文を掲載します。

オンライン授業の必要性は全党一致

 回答を比較すると小・中学校でのオンライン授業の必要性を全政党が主張していました。世間ではリモートワークが広がるなかで、オンライン授業の実施が「変化だ」と感じる人も少ないかもしれません。しかしこれは歴史的な変化です。日本の義務教育は一貫して学校に通うことを前提にしていました。

評論家・荻上チキさん(『不登校新聞』撮影)
評論家・荻上チキさん(『不登校新聞』撮影)

 評論家・荻上チキさんは「この国は『通学中心主義』になっていて通学以外の形で教育機会を提供するということが弱い」と批判しています(2017年)。オンライン授業が広がることで夢が広がると私は思っています。オンライン授業が広まれば、平日の授業は休んで遊園地へ行き、週末に授業の録画を見てすませることも可能です。友だちとケンカしたので数日だけは家でオンライン授業を見て距離をとるなんてことも可能です。もっと重要なのは、いじめや病気など、さまざまな事情で「今は学校へ行けない」という人にもう一つの道を示すことができるからです。

 そんなオンライン授業について与野党はどのように捉えているのか。自民の回答は、現政権での方向性を示すものでしたから一部を抜粋します。

「コロナ禍にあっても、新しい時代の学びを支える教育環境を整備し、誰一人取り残すことなく子どもたちの学びを保障しなければなりません。学校での感染症対策を徹底しつつ、GIGAスクール構想で整備したICT環境を最大限活用してオンライン学習を推進するとともに、教員加配や学習指導員などの必要な教職員や経費の確保を着実に進めます」(『不登校新聞』衆院選2021より)

 現政権は「すべての子どもの学びの保障」を目指して推進する気です。公明の回答を見ると、もうすこし踏み込んで「発展性」にも期待していました。つまりコロナ対策だけにとどまらず、オンライン授業により「事情を抱えて学校に通えない子」への対応も期待できる、と。このような発展性に期待していたのは公明だけでなく、野党のれいわやN党なども同様でした。

現状では家庭や学校で負担が大きく

 政治の世界ではオンライン授業を「推す流れ」になっていますが、教育現場ではオンライン教育を快く受けとめていない人も多いです。オンライン用の環境整備や教員研究が進んでおらず、現場の負担が大きいからです。家庭の負担も大きいです。昨年は小学生に対してもオンライン授業が行なわれましたが、親が時間を割いてフォローしていました。教員や家庭の負担について言及した党は、公明、立憲、社民、れいわでしたが、この問題が現状では一番大きな問題でしょう。

 また、オンライン授業には別の懸念もあります。先生と子ども、子どもどうしが「出会えない苦しさ」です。コロナ禍で最もつらかったのは「友だちと会えなかったこと」(高校1年生・女子)という声がありました。修学旅行などの学校行事や部活が規制され、子どもたちのなかにストレスが溜まっているのでしょう。「これほど不安定な子どもたちを見たことがない。オンラインでは心のケアができない」とある中学校の先生は話していました。この点の懸念をにおわせたのが共産、社民の回答でした。社民は「直接ふれ合って学び育つことは重要」などと回答しており、オンライン授業を進める一方で「子どもの心にも目を向けるように」という意思を示していました。

オンライン授業、整備の必要性は

 一方、残念だったのは「前例」を活かすアイディアが回答には見受けられなかったことです。予備校や通信制高校では20年以上前からオンライン授業を実践しています。通信教育を専門にする民間企業もあります。離れたところにいる子どもをどうサポートできるのか。成功も失敗も重ねてきた前例は、いまこそ公教育のなかで活かされるべきです。同時にオンライン授業ではありませんが、不登校の子を支えてきたフリースクールや親の会のノウハウも活かされるべきでしょう。学校に通わない子がどんな不安を持ち、家庭にはどんな負担があるのか。フリースクールなどには蓄積があります。

 教育学者・内田良さんは昨年の第1波終了後、オンライン授業の整備の必要性をこう語っていました。

教育学者・内田良さん(撮影者提供)
教育学者・内田良さん(撮影者提供)

 「この先も新型コロナの第2波、第3波があるかもしれません。あるいは別の感染症が発生する可能性もあります。台風などの自然災害や季節性インフルエンザなどもあります。けれども、オンライン授業が整備されていれば、何かあったらいつでも『ステイホームでいいよ』と言えます」(2020年7月・不登校新聞)

サブチャンネルづくりを

『不登校新聞』編集長・石井志昂(不登校新聞・撮影)
『不登校新聞』編集長・石井志昂(不登校新聞・撮影)

 最後に私見をまとめます。私は20年間、不登校を取材してきました。ほとんどの不登校の子たちが苦しみますが、その由来は一つです。義務教育のかたちを「学校へ行くことだけ」に縛っていることです。「学校へ行くだけ」に縛るから、いじめがあっても行けない人が問題視されるのです。不登校だけでなく、さまざまな事情を抱えている人のためにも、この国の義務教育は「学校に通う」というメインチャンネルと、学校に通わないでも学べるという「サブチャンネル」が必要です。将来的には、メインチャンネルとサブチャンネルを行ったり来たりできる環境整備が必要です。各党がオンライン授業の必要性を認識しいま、「公教育のサブチャンネルづくり」を目指す時期に来たのではないでしょうか。

コロナ禍における学びのあり方/各政党の回答全文

選挙ポスター掲示板(イメージ写真・写真AC)
選挙ポスター掲示板(イメージ写真・写真AC)

【自民】コロナ禍にあっても、新しい時代の学びを支える教育環境を整備し、誰一人取り残すことなく子どもたちの学びを保障しなければなりません。学校での感染症対策を徹底しつつ、GIGAスクール構想で整備したICT環境を最大限活用してオンライン学習を推進するとともに、教員加配や学習指導員などの必要な教職員や経費の確保を着実に進めます。やむを得ず臨時休業を行なわなければならない場合も、学習指導の考え方を明確化したうえで、分散登校の活用や時間割編成の工夫などを行なっていきます。

【公明】コロナ禍において、不登校や病気療養などの事情を抱えて学校に通えない子どもたちが希望すれば学べるよう、個々の状況に応じた教育が求められています。そのために、たとえばGIGAスクール構想により、1人1台タブレット等が整備されている状況を踏まえ、ICTを活用した学習を推進するなど、学びの機会を確保することが重要と考えます。また、感染症など非常時に登校できなくても継続した学習ができるよう、タブレットなどを活用したオンライン授業の実施を推進します。

【立憲】端末やネットワーク環境の整備が進んでいますが、実際のオンライン授業の方法や内容は、学校や教職員によって差があるのが現状です。子どもや家庭の負担にも配慮しつつ、オンライン教育などへ対応するための学習支援員の増員などの支援体制の強化を行ないます。また、オンライン授業の内容については、国が一定のガイドラインを示すなど、教育効果の確保をすべきだと考えています。

【国民】国民民主党は一斉休校の混乱をくり返さず、学びを継続する、子どもコロナ三策を発表しました。そのなかでも経済・社会活動との両立として下記を提案しています。(1)オンライン授業の支援等、(2)学童保育等の支援体制の強化、(3)子どもに寄り添う保護者の支援、(4)コロナ世代の子どもたちを長期で見守る体制。一斉休校による学びの空白や、1年半以上に及ぶマスク学校生活による子どもたちの心身の影響を経年にわたって調査し、対策を講じます。

【共産】コロナによる子どものストレスは今なお継続しています。そのもとでの学びは、子どもの思いを受けとめ、行事などの時間も充分とり、柔軟に進めることが大切です。学びの質は、深い教材研究や、子どもと教員との生きたやりとりにあります。ICTはそれを豊かにする方向で活用すべきです。また、感染回避などの事情で登校しない選択をしている子どもたちが、授業にオンライン参加できるようになりました。私たちは、そのための条件整備とそれを基本的に出席扱いできるようにすることを求めています。

【維新】コロナ禍を機に、GIGAスクール構想における一人一台端末が前倒しになった影響は大きい。ICTを活用して教育コンテンツの充実化やきめ細かな端末活用を進める。デジタル教科書の利用やつまずいた箇所の再学習など生徒の学習データの活用の図り、学習についていけない生徒を減らす。不登校の生徒に対する新しい教育手段としても活用する。

【社民】子どもたち一人ひとりの表出(言動や表情)を教職員が受けとめ、専門性に基づく適切な問いで応答することの積み重ねが教育だと考えます。ICTを活用する場合もこの積み重ねが継続できるかたちでの活用が条件になると考えます。コロナ禍に伴いリモートを導入するならば、家庭の経済状況によって格差が生じないようにする必要があります。子どもたちが仲間といっしょに直接ふれ合って学び育つことは重要であることを踏まえなければならいないと考えます。

【N党】オンライン・オフラインそれぞれの特徴を活かしながら、それぞれの特性を活かし子どもにとって必要な学びを提供すべきと考えます。そのうえで必要に応じてパソコンやタブレットの配布、インターネット環境の整っていない家庭へWi-FiルーターやモバイルWi-Fi機器の無料貸し出しなど、オンライン授業を行なえるような仕組みを検討すべきと考えます。

【れいわ】1人1台端末によるオンラインによる遠隔授業は、ポストコロナにおいても、移動に制限がある子、難病で体調の変化が大きい子、入院中の子、あるいはいじめや人間関係が苦手で登校できない子などにとって有効と考えます。また、対面でのICTを使った授業は、聴覚障害者などの個別化されたニーズに対応しやすいというメリットもあります。その一方で、子どもたちどうし、教員と子どもたちが直に知識や意見を交わし合う、集団のダイナミズムが活かされる今までの授業のあり方は大切なものと考えます。ICTやデジタル教材はツールにすぎず、ようは教員がそれらを使ってどのような授業展開をするか、学びを保障するかが議論すべきところと考えます。そのためにも、新しい授業スタイルを模索しなくてはならない現場の教員の負担を減らし、とまどいや反発を解消していくための自治体、国の支援策が必要と考えます。

※各項目200文字程度での回答を依頼し、回答全文を掲載。漢字仮名づかいのみ筆者が校正。2021年10月25日公表の『不登校新聞』より抜粋

不登校ジャーナリスト

1982年東京都生まれ。中学校受験を機に学校生活が徐々にあわなくなり、教員、校則、いじめなどにより、中学2年生から不登校。同年、フリースクールへ入会。NPO法人で、不登校の子どもや若者、親など400名以上に取材を行なうほか、女優・樹木希林氏や社会学者・小熊英二氏など幅広いジャンルの識者にも不登校をテーマに取材を重ねてきた。著書に『「学校に行きたくない」と子どもが言ったとき親ができること』(ポプラ社)『フリースクールを考えたら最初に読む本』(主婦の友社)。

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