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国連事務総長 自律型殺傷兵器に反対「データがどのように集められ、誰に、何のために使われているか不明」

佐藤仁学術研究員・著述家
国連事務総長(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

「私たちのデータや情報が商業目的、特定の企業のために使われていることだけはわかっています」

国連総会の一般討論演説が2021年9月21日に始まり、グテーレス事務総長が冒頭演説を行った。グテーレス事務総長は新型コロナのパンデミックや気候変動などを例にあげて「世界がこれほど分断されたことはない」と訴えた。そして「6つの渓谷(Great Divides/Grand Canyons)」があると主張して、平和、気候変動、経済格差、ジェンダー格差、世代間格差、デジタル技術の危機の6つの分野での早期の解消が必要であることを訴えていた。

そしてデジタル技術の危機(Digital technology dangers)についてグテーレス事務総長はインターネットに接続できる人たちとできない人たちの情報取得や就労に関するデジタル格差の危機を訴えていた。また、データの不正な利用方法についても「インターネットの接続によって、あらゆる情報やデータが大量に集まっています。しかし、それらの情報やデータがどのように集められて、誰によって、何のために使われているのかがわかりません。ただし私たちのデータや情報が商業目的、特定の企業のために使われていることだけはわかっています」と語っていた。

そしてグテーレス事務総長は、AI技術の発展による自律型殺傷兵器の禁止を訴えて、このような技術発展に伴う重要な課題はもっとたくさん議論する必要がありますと訴えていた。AI技術もあらゆるデータや情報が収集されて、機械学習を通じて強化されていく。グテーレス事務総長が商業目的として企業に使用されているデータ以外に「情報やデータがどのように集められて、誰によって、何のために使われているのかがわかりません」と懸念を示していたが、収集されたデータや情報によって強化されたAI技術も兵器にたくさん活用されている。

グテーレス事務総長は以前から自律型殺傷兵器の開発と使用には反対を訴えている。AI技術の軍事分野での活用で、自律型の兵器の開発は進んできている。人間の判断を介さないでAI技術を搭載した兵器自身が判断して標的に攻撃を行うことが非倫理的であると国際NGOや世界の30か国が自律型殺傷兵器の開発と使用に反対を訴えている。

グテーレス事務総長が反対を訴えても、安全保障理事会の常任理事国5か国のうちアメリカ政府、ロシア政府、イギリス政府、フランス政府は自律型殺傷兵器の開発にも使用にも反対していない。中国政府は自律型殺傷兵器の使用には反対を表明しているが、開発することには反対していない。むしろAI技術を積極的に軍事活用することによって大国としての軍事分野での優位性を確立して、他国に対して抑止力を効かせようとしている。

▼グテーレス事務総長の冒頭演説

写真:代表撮影/ロイター/アフロ

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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