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爪をむしったり剥がしたりする衝動が止まらない?爪強迫症(オニコチロマニア)の症状と治療法

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

【オニコチロマニアとは?爪をむしったり剥がしたりする衝動性障害】

オニコチロマニアは、自分の爪を過剰にむしったり剥がしたりする衝動的な行為を繰り返す習慣性障害です。手や道具を使って爪に損傷を与え、ひどい場合は爪が完全に剥がれてしまうこともあります。

国際疾病分類(ICD-10)では、オニコチロマニアは身体に反復的に行為を向けてしまう強迫性障害の一種に分類されています。皮膚科と精神科の両方にまたがる心身症の一つと言えるでしょう。

爪をいじる癖は一般的によく見られますが、オニコチロマニアの場合は習慣的な行為によって日常生活に支障をきたすほど重症化します。自分の意思ではコントロールできない強い衝動に駆られ、爪に深刻なダメージを与えてしまうのです。

【診断が難しい多彩な症状、精神疾患との関連性も】

オニコチロマニアの症状は多岐にわたり、臨床像も非特異的で不規則なことが多いため、診断が非常に難しい皮膚疾患の一つです。爪の周囲の皮膚にも炎症や潰瘍などを伴うこともあり、接触皮膚炎や有棘細胞癌、爪の乾癬など他の爪の疾患と紛らわしいケースもあります。

さらに、患者が爪をいじる行為を否定することも診断を困難にしています。最近ではダーモスコピーを用いることで、オニコチロマニアに特徴的な所見を捉えられるようになりましたが、やはり臨床症状と病理組織像を総合的に判断することが肝要です。

加えて、オニコチロマニアは、鬱病などの精神疾患に付随して現れることが多いのも特徴です。爪をいじる行動が、隠れた精神疾患のサインとなっている可能性があるのです。逆に、精神疾患の患者さんを注意深く診察すると、オニコチロマニアなどの心身症を併発していることが明らかになるかもしれません。

【治療は皮膚科と精神科の連携が鍵】

オニコチロマニアの治療法として、爪に不快な味の マニキュアを塗る、絆創膏やテープで爪を保護する、認知行動療法を行う、向精神薬を処方する、などの方法があります

しかし最も重要なのは、皮膚科医が精神疾患の可能性を念頭に置き、必要に応じて精神科医に相談することです。オニコチロマニアは皮膚科と精神科の領域にまたがる疾患であり、両者が連携して総合的にアプローチすることが求められます。

精神疾患が背景にあれば、その治療によって爪をいじる行動も改善する可能性が高いからです。爪の癖を直接コントロールするだけでなく、根本的な原因に目を向けることが肝心なのです。

オニコチロマニアはまだ研究が進んでいない領域であり、発症メカニズムや治療法についてはさらなる解明が待たれます。皮膚の異常が、心の問題を反映しているかもしれない。そんな複雑で興味深い疾患と言えるでしょう。

参考文献:

Skin Appendage Disord. 2019 Feb;5(2):104-107. doi: 10.1159/000489941. Epub 2018 Jun 25.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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