超コワかった『恐怖新聞』。「1回読むと寿命が100日縮まる」という新聞だが、すると運命の日はいつ!?
こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今日の報告レポートは……。
暑い夏には、なぜか怖い話がつきものだけど、ワタクシがこれまででいちばん怖かったのは、つのだじろう先生が描かれたマンガ『恐怖新聞』だ。
連載されていたのは1970年代の週刊少年チャンピオンで、『がきデカ』や『ブラックジャック』や『ドカベン』を読もうとチャンピオンを買うと、恐ろしい『恐怖新聞』も載っていた。そして、怖いのになぜか読んでしまう。ひええ~っ。
主人公は鬼形礼くん(中2)。毎晩12時になると、彼の部屋に、頼んでもいない新聞が届けられる。
その紙面に書かれているのは、翌日起こる事件や事故。たとえば、鬼形くんの担任の先生が交通事故に遭って、鬼形くんは事故の目撃者になる……など。そして翌日、そのとおりのことが起こってしまう。
うむむむ、こうして思い出すだけで、もう漏らしそうだ。
◆寿命が尽きるのはいつか?
しかも、この「恐怖新聞」は、1回読むと寿命が100日縮まるという!
何もかもコワい新聞だが、ワタクシがいちばんドキドキしたのは、この設定だ。
たった1回で100日。夏休みだって30~40日なのに、その3倍とか4倍もの寿命が縮んでしまうのだ。そんな新聞、絶対読みたくない!
当然、鬼形礼くんも読まない工夫を試みるのだが、どうやっても新聞は届けられてしまい、なぜか目が吸い寄せられて、嫌でも新聞を読んでしまうのだった。今日も、明日も……。
そうなると鬼形くんの命は、いつ尽きてしまうのか? ヒジョ~に怖いけど、ここで計算してみよう。
中学2年生の彼の余命があと68年(14歳の平均余命)だとすれば、それは2万4837日。
1回読むごとに寿命が100日減っていくなら、249回読めば、寿命は完全に尽きることになる。
恐怖新聞は日刊だから、残された寿命は249日。なんと1年もない!
たとえば8月20日を起点とすれば、249日目とは、秋を過ぎ、冬を越えて、ゴールデンウイーク直前の4月26日!
うわ~っ、来年は連休が1日も味わえません~。皆さん、さようなら~。
◆雨戸を破って、新聞が届く!
この恐ろしい新聞は、どうやって届けられるのか?
作中の説明によると、どうやら霊が配達するらしいのだが、霊だからその姿は見えない。
最初の晩は、夜中の12時にパタパタパタと人の走る足音に続いて「しんぶ~ん」という声と「バサッ」と何かが置かれていった音が聞こえる。
眠れないでいた鬼形くんが「いまは…夜中の十二時…朝刊がとどくはずもない…」と不思議に思って窓を開けると、ふわ~っと風に舞うように新聞が入ってきた! むえ~っ。
こうして恐怖新聞が届くようになった鬼形くんは、もちろん対策を講じる。
翌日は固く雨戸を閉ざし、ガラス戸に鍵をかけ、カーテンを閉めて、布団に入った。これなら、新聞の受け取りを拒絶できると考えたのだ。
ところが、またしてもパタパタと足音が近づいてきたと思いきや「グワシャン!」と雨戸とガラス窓を突き破り、恐怖新聞が飛び込んできた!
どどど、どうして!?
紙でできた新聞が雨戸とガラス窓を壊して入ってくる、なんてことがあるの?
――恐怖を克服するためにも、この現象を科学的に考えてみよう。
◆新聞のスピードは時速880km!?
かつて(昭和の頃とか)雨戸は薄い木の板でできているものが多かった。ここでは、鬼形くんの部屋の雨戸が、厚さ5cm、幅15cmの杉板でできていて、30cm間隔の角材に打ち付けられていたと仮定しよう。
これを突き破るための力を計算すると、28kg。新聞がこれを上回る力を発揮できれば、雨戸を破れるはずだ。そして雨戸が破れるなら、ガラス窓を割るのは簡単だろう。
一方、新聞紙も筒状に丸めれば、かなりの強度になる。
そこで、10枚1組の新聞を折り、丸めて体重計に押しつける実験をしてみたところ、グシャッと曲がったのは45kgのとき。
雨戸を破る28kgを超えているから、つまり新聞で雨戸を突き破ることは、不可能ではないということだ。ということは、これは科学的に充分あり得る現象!?
ただし、新聞は軽い。手元の新聞を量ると200gしかない。
これほど軽いもので雨戸を突き破るには、よほどのスピードで投げる必要がある。
計算してみると、なんと時速880km!
つまり、この怪奇現象を科学的に説明すると「筒状に丸めた新聞紙を、新聞配達人(霊)が時速880kmで投げつければ、雨戸とガラスを壊して、新聞は室内に届く」となる。
おお、ここまで科学的に説明できれば、この現象は怖くもなんともない……いや、そうか!?
霊が新聞を時速880kmで投げる!?
なんだか、ますます奇怪な現象になっただけのような気がする。
しかも、いまもう一度『恐怖新聞』を読み直してみたら、雨戸を突き破った新聞は丸められてなどいない。
折りたたまれたままのカタチで、雨戸とガラスを壊し、カーテンをはねのけて、室内に飛び込んでいるではないか。ひーっ、いったいどういうことなんだっ!?
恐怖新聞はやはり恐ろしい。初めて読んでから半世紀も経つのに、怖さはまったく薄れない。まことにすごいマンガだったのだ。