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欧州王者登場! ジャパンはサモア代表戦見据える…ワールドカップ取材日記3【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
ワールドカップ3大会連続出場を果たした大野。(写真:FAR EAST PRESS/アフロ)

ラグビーワールドカップのイングランド大会が9月18日~10月31日まであり、ニュージーランド代表が2大会連続3回目の優勝を果たした。日本代表は予選プール敗退も、国内史上初の1大会複数勝となる3勝を挙げ、話題をさらった。

以下、日本テレビのラグビーワールドカップ2015特設サイトでの取材日記を抜粋(3)。

【9月27日】

ウェンブリーパークへ向かう地下鉄(アンダーグラウンドとか、チューブと呼ばれています)の車中には、緑のジャージィを各々のデイリーファッションに落とし込んだ人がたくさんいました。2季連続のヨーロッパ王者、アイルランド代表の応援です。予選プールDの第2戦として、欧州屈指のレスリング系チーム、ルーマニア代表を迎え撃ちます。

真っ赤な座席とグリーンの芝のコントラスト。荘厳。

メディアセンターと併設のメディアラウンジでは、ジャパンと同じ予選プールBの試合がテレビで流れていました。リーズはエランドロードでの、アメリカ代表対スコットランド代表戦。ジャパンはスコットランド代表にすでに敗れ、アメリカ代表と10月11日のプール最終戦(グロスター・キングスホルムスタジアム)で激突します。

中3日でプレーするスコットランド代表は、やはりスクラムハーフのグレイグ・レイドローキャプテンを軸に緩急をつけた試合運びを展開。もっとも、対するアメリカ代表は接点で激しい。ビッグタックルもあります。日本国内のラグビーウォッチャーの多くは、北米諸国からの勝利は確実との観方をする傾向があります。ただしワールドカップの歴史上、それがその通りになったことはありません。結局、スコットランド代表が39―16で試合を制しました。

荷物をたたんで外へ出て、取材する試合のキックオフを迎えます。同じ英国圏とあって、スタンドには多くのアイルランド代表サポーターが押し寄せていました。少しでもいいプレーがあれば観客総立ち。大波を背に受け、アイルランド代表は持ち味を発揮します。相手だって得意なはずのラインアウトからのモールとスクラムでは、ぐいぐいと押し込む。グラウンド左右いっぱいに人員を配置し、接点周りに人が集まる傾向のルーマニア守備陣をきりきり舞いさせます。11番をつけたキース・アールズ選手。位置取りと決定力が見事。

空いているプレスシートにアイルランド代表ファンの酔客がなだれ込んだところで、ノーサイド。44―10。

【9月28日】

午前中、ウォリックスクール。日本代表がサモア代表戦に向けて練習しています。合間、合間で立川理道選手が声を出しています。大会直前には不安な気持ちもあったようですが、荒木香織メンタルコーチとの対話から不安要素とその解決法をメモにしてまとめ、以後、楽しんでいる様子です。夢中なのです。

――ここまで、いかがですか。

「ワールドカップ…。ここまで、長かったのかも、あっという間だったのかもわからない」

この日の取材エリアには、スティーブン・ボースヴィックフォワードコーチも現れました。

今大会でのジャパンのラインアウトは、この人が支えていると言っても過言ではありません。2メートル級の相手を向こうに、やや体格差に劣るジャパンが9割超の成功率をキープ…。その裏に「スティーブのプラン」があると言うのは、トンプソン ルーク選手(試合でラインアウトをリードする関西弁の使い手)でした。

元イングランド代表主将ロックのボースヴィックコーチは、「現役時代から分析は好きだった」と言います。

「当時から、いまほどではありませんが試合のラインアウトのビデオをたくさん観ていました」

相手の守備傾向を把握し、その裏を突きやすい人数配列と投入位置を事前にプレゼンするのだそうです。それをトンプソン選手ら「ラインアウトリーダーグループ」が把握。試合当日まで動きをチェックする…という流れです。

ダルマゾコーチの談話などを合わせ、各媒体に「サモア代表戦の鍵はセットプレー」といった趣旨の原稿を送付。ようやく、ウォリックでの暮らしに慣れつつあります。シャワーのお湯が出るか否かは「運」次第なのですが。

【9月29日】

この日もウォリックスクールで日本代表を取材。冒頭の練習公開時間は、体育館にて。

スティーブン・ボースヴィックFWコーチは、フォワードのモールの組み方を徹底確認します。「守備役」が横から邪魔しても崩れないよう、「攻撃側」はまとまって前進。組み合う人同士で「右! 右!」などと声を掛け合いながら、「守備側」の選手がいない場所へ塊を動かすのです。そう。モールは繊細な力勝負なのです。

この日、何と、スコットランド代表戦で負傷欠場したアマナキ・レレイ・マフィ選手が練習に復帰していました。

取材現場でも注目度ナンバーワン。

「X線で検査をしたら『骨はセーフ』だと。いつもポジティブに考えている。痛いのは痛いけど、絶対にできる、と。クリスチャンだから、いつも神様にお願いしている。絶対にできる、と」

実は、「器質的…」のリリースが出た日に、海外移籍報道が出ています(日本では朝日新聞が最初に報道)。それに関連する質問は、終盤に。「びっくりした」と本人。

「まだオフィシャルじゃないから、チームの名前は言えない。たぶん、これからだと思う。いまはとりあえずジャパンのゲームにフォーカスする」

【9月30日】

この日は、ジャパンの宿泊するウォリックのホテルへ行きました。選手2名が共同取材に応じる、というものです。タクシー移動。こういう時は、同業の記者の方に同乗させていただくことが多くございます。

取材部屋にはワールドカップのバックボードがあって、その前にテレビカメラ数台がセットされ、その左右に我々のような記者が連なります。この日現れた1人が、大野均選手でした。37歳、最年長、福島県郡山市出身。周りから聞かれる前に、2011年の東日本大震災にまつわる話をなさいました。

「今年8月。ワールドカップ前に、と郡山に帰ったんです。車の外から仮設住宅が見えて。まだまだこういう現状があるのだと。どのスポーツでも、日本代表という存在は元気を与えなきゃいけない。それをラグビーではなかなかできていなくて。いま、これまでラグビーを取り上げてもらえなかったようなテレビ番組でも、話題にしてもらえている。このブームを一過性にしないためには、次のサモア代表戦に勝つしかない」

会見終了直後、チーム広報の方が記者を集めます。話題は「決勝トーナメントに進めない場合の記者会見の段取り」についてでした。

折しも、日本ではボーナスポイントの話題が『Yahoo! トピックス』に載っていました。ワールドカップの予選プールは勝ち点制になっていて、勝ちが4点、負けが0点、引き分けが1点。4トライ以上の獲得や7点差以内の負けの場合は、ボーナスポイントとしてそれぞれ1点が加算されます。

…で、この計算上、日本代表(当時)は、この先ボーナスポイントを得て2連勝(3勝1敗)しても総勝ち点は14。

一方、ジャパンが破った南アフリカ代表は最大17まで延びる可能性があって、ジャパンが屈したスコットランド代表は南アフリカ代表にだけ敗れて3勝1敗で終えた場合、最大の勝ち点は17となるのです(南アフリカ代表戦で4トライ以上を挙げ、7点差以内で負けた場合)。

そのためジャパンは、10月3日のサモア代表戦と11日のアメリカ代表戦に勝っても、決勝トーナメントに進めない可能性がありました。予選プールが5チーム制になった2003年大会以降、3勝を挙げながら予選敗退した例はありませんでした。

もっとも、この手の質問には「コントロールできないことは関与しません」とエディー・ジョーンズヘッドコーチはピシャリ。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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