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A級順位戦「ラス前」一斉対局。羽生九段ら、残留争いの行方は

遠山雄亮将棋プロ棋士 六段
A級以上の在籍を27期以上続ける羽生善治九段(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

 1月29日(水)に第78期A級順位戦8回戦一斉対局が行われる。

 ここまで全勝の渡辺明三冠がすでに挑戦権を獲得しており、焦点は熾烈を極める残留争いだ。

条件の整理

 降級は2名。同星の場合は前期成績による順位によって決められる。

 現在3勝4敗以下の棋士は下記6名だ。(カッコ内は今期の順位)

  1. 久保利明九段(6) 1勝6敗
  2. 木村一基王位(10) 3勝4敗
  3. 稲葉陽八段 (8) 3勝4敗
  4. 糸谷哲郎八段(4) 3勝4敗
  5. 羽生善治九段(2) 3勝4敗
  6. 佐藤天彦九段(1) 3勝4敗

 一番降級に近いのは久保九段だ。3勝勢と星2つ離れており、自身が残り2戦を勝ったうえで、木村王位と稲葉八段が連敗したときのみ残留となる。

 振り飛車党の期待を一身に背負う久保九段だが、非常に厳しい状況だ。

 8回戦では木村王位と羽生九段の直接対決がある。

 羽生九段は勝てば残留決定だ。

 木村王位は順位が一番下ということもあり、自身が負けて佐藤(天)九段と糸谷八段と稲葉八段の3名全員が勝つと降級が決まってしまう。

 木村王位としては落とせない一局だ。

筆者撮影:木村王位就位式
筆者撮影:木村王位就位式

現在の調子

 佐藤(天)九段は今期成績が5割を切っており、前名人としては不満の残る成績だろう。

 順位がいいため、8回戦に勝てば残留が決まる。ただし相手は王将挑戦中の広瀬章人八段と強敵だ。

 最終戦は稲葉八段との直接対決となる。3年前に名人位を争った二人が残留争いの直接対決をするところに競争の厳しさを感じる。

 羽生九段は、先週行われた7回戦の久保九段戦では逆転勝ちで残留に向けて大きな1勝をあげた。

 ここにきて調子を上げている印象だ。木村王位との一戦を先手番で迎えるのも大きい。

 しかしながら、木村王位には昨年、大きなところで痛い黒星を喫している。

 羽生九段が降級するとなれば歴史に残る事件だが、戦国模様の将棋界では何が起こっても不思議ではない。

 木村王位は王位獲得後、調子を崩している。

 ただ、7回戦の三浦弘行九段戦では不利な将棋をひっくり返して大きな1勝をあげた。

 厳しい状況ではあるが、「百折不撓」で直接対決を制することができるか。

 糸谷八段は連勝と連敗を繰り返しており、調子の波が激しい。

 年末年始にかけて5連勝していたが、現在は3連敗中と調子は下降気味だ。

 3勝4敗勢の中で順位は上位のほうだが、8回戦では全勝の渡辺三冠を後手番で迎える。

 得意の一手損角換わりで対抗することが予想される。

 稲葉八段は王位戦でリーグ入りを決めるなど、一時期の不調を脱して3年前に名人へ挑戦した頃の輝きを取り戻しつつある。

 先手番で迎える佐藤康光九段との一戦に勝てば残留へ近づく。

勝負の行方

 順位戦は終局が遅いため、全局終了が0時を過ぎることは間違いない。

 対局者もファンも、胃の痛い時間が続く。

 8回戦を終えると、状況はまたガラッと変わってきそうだ。

 最終9回戦は2月27日(木)に行われる。

 果たしてどのような結末を迎えるだろうか。

将棋プロ棋士 六段

1979年東京都生まれ。将棋のプロ棋士。棋士会副会長。2005年、四段(プロ入り)。2018年、六段。2021年竜王戦で2組に昇級するなど、現役のプロ棋士として活躍。普及にも熱心で、ABEMAでのわかりやすい解説も好評だ。2022年9月に初段を目指す級位者向けの上達書「イチから学ぶ将棋のロジック」を上梓。他にも「ゼロからはじめる 大人のための将棋入門」「将棋・ひと目の歩の手筋」「将棋・ひと目の詰み」など著書多数。文春オンラインでも「将棋棋士・遠山雄亮の眼」連載中。2019年3月まで『モバイル編集長』として、将棋連盟のアプリ・AI・Web・ITの運営にも携わっていた。

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