会社の上司が部下に対して「ツイッターをやめろ」は許されるか?
こんにちは。
お盆も終わり、ようやく秋の気配を感じることができるようになってきました。
皆さま、いかがお過ごしでしょうか。
さて、法曹界ではこんなニュースが話題になっています。
これに対して、岡口裁判官が手続きをリアルタイムで公表しております。
裁判官も市民的自由を当然に有していることを考えると、こんな理由で懲戒を申立てられるのはさすがにおかしいでしょ、という個人的な感想はありますが、今回のこの記事の本題はここではありません。
テーマは、この岡口裁判官が提出した陳述書が掲載されている記事の中の、その陳述書にある次のくだりです。
上司が「ツイッターを直ちにやめろ」は許されるのか?
これは岡口裁判官が、東京高等裁判所長官に呼び出されて、その場で言われたこととして記載しています。
陳述書によれば、かなりしつこく言われている様子がわかります。
もちろん、このようなやり取りが本当にあったのかは分かりません。
ここでは一般論として、そもそも会社の上司が部下に対して「ツイッターを今すぐ止めろ」ということが許されるのか?について解説したいと思います。
労働者は奴隷じゃない
まず、労働者と使用者の関係は、労働契約によって成立しています。
しかし、労働者は奴隷ではありませんので、すべてを使用者に差し出すわけではありません。
労働者が使用者に提供するのは、「労働」だけです。
これに対し、使用者が「賃金」を払う、というのが労働契約の基本です。
したがって、労働者のプライバシー(私的な領域)は、労働者の自由です。
ところが、昨今、ブラック企業をはじめとするひどい会社では、労働者のプライバシーに立ち入る例があります。
しかし、これは立派なパワーハラスメントです。
パワハラ6類型
現在、パワーハラスメントは、非常に多くなっており、労働局に寄せられる相談数ではトップを独走している状態です(6年連続トップで、H29年度は7万件を超えています)。
そうしたこともあって、厚生労働省は、パワーハラスメントを6類型にまとめています。
その中に、個人のプライバシーを侵害するパワハラという類型があり、それを個の侵害と呼んでいます。
労働者のプライバシーについて、会社や上司に干渉される理由がないのに、会社や上司としての立場を利用して干渉してくる行為、これが個の侵害です。
典型的には、上司という地位を利用して、部下の携帯電話の中に保存されている画像を見せるように強要したり、部下の交際相手とのLINEでのやり取りを見せるように強要するなどがあります。
そして、ツイッターやFacebook、インスタグラムなどのSNSを私的に楽しんで利用していることについて、合理的な理由もないのに、止めろというのも明らかに個の侵害に当たります。
例外もある
もっとも、例外はあります。
たとえば、ツイッターで、悪意をもって会社の営業を妨害するようなツイートをしたり、会社の商品について誤ったことをツイートするなどすれば、会社や上司がその投稿を削除するように求めることは問題ないでしょう。
ただし、こうした場合でも、ツイッター自体を止めろとまで要求することはできないと思われます。
こうした要求ができるのは、上記のような削除が必要な投稿を反復継続して行い、何度注意しても繰り返すような極限的な場合くらいだと思われます。
今すぐツイッター止めろは言い過ぎ
最近は、SNSでのつながりも一つの重要な人間関係の形成の場となっています。
これを、会社や上司が命令して止めさせるというのは、地域社会からいなくなれ、というのと同じことを意味します。
その意味では、ツイッターを今すぐに止めなさい、という要求は、行き過ぎたもので、個の侵害にあたり、パワーハラスメントと評価されると言えます。
もし、あなたがこのような理不尽な要求をされた場合には、それはパワーハラスメントであるということを覚えておいてください。
そして、必要なときは、労働組合や行政機関(労働局の相談コーナーや地方自治体の相談所)、弁護士などに相談することをお勧めします。
けっして一人で抱え込まないことが、パワーハラスメントに対する有効な対策となります。