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会社が従業員に「忘年会・新年会を積極的に開いて、参加するように」と呼び掛けることに潜む危険

佐々木亮弁護士・日本労働弁護団幹事長
(写真:アフロ)

 先日、ヤフートピックスに次の記事があがりました。

忘年会、新年会は「積極的に参加を」 山形県鶴岡市が職員に呼びかけ

 これは朝日新聞の記事です。山形県の鶴岡市が、コロナ禍で冷え込んでしまった飲食業界の消費を喚起する意図をもって、こうした呼びかけをした、という記事で、自粛の呼びかけばかりだった世の中で、ようやくコロナ禍から抜けてきたことを思わせる、明るいニュースの一つとして報道されているのだろうと思われます。

 たしかに、長い「自粛」の要請が続き、新規感染者数も減ってきている今、このような動きにはニュース価値があるのでしょう。

 しかし、少し冷静に考えてみると、わざわざ文書で忘年会や新年会への積極的な参加を呼び掛けることには、違和感を覚えます。皆さんも「何か変だな?」と思いませんか?

 そこで、その謎を解くべく、まずはコロナ禍という特殊状況を外し、一般論として考えてみましょう。

 ある企業で、総務部長などの上級の職位にある者が、従業員に対して、忘年会や新年会を積極的に開催し、それに参加しましょう、と社内の公式文書で呼びかけた。

 こういう状況です。

 まず、すぐに思うのは「そんなこといちいち言ってこないでいいよ」という感覚ではないでしょうか。

 これは、会社の公式行事として行われる懇親会ではなく、普通の忘年会、新年会を積極的に行うよう呼びかけてるわけですので、あたかも業務時間外の労働者の自由な時間について指示を受けたかのような気持ちになり、こうした感覚が生じるものといえます。

 忘年会や新年会は、やりたい人が自由に企画して、参加したい人だけが参加すればいいものなのです。

 次にあるのは、あまりお酒を飲まなかったり、酒席で嫌な思いをしたことがある人だったり、そもそも宴会が好きじゃないという人にとっては、「おいおい、こんなこと書かれたら断りにくくなるよ」という感覚ではないでしょうか。

 実は、これがこうした呼びかけ文書の一番の懸念点であり、危険な点です。

 会社組織などにおいては、人づきあいというものがあり、本当は断りたいけど参加せざるを得ない飲み会がかなりあるものです。そのため、酒席を好まない人やその他諸事情から飲み会に出られない人・出たくない人は、この誘いをあの手・この手でやんわりと断るのですが、こうした文書が出てしまっては、断りにくくなることは必定でしょう。

 一方、誘う側が、こうした呼びかけ文書があることで、まるでお墨付きを得たかのように、相手の事情を解さず、「積極的に参加しろというのが我が社の方針だ!」などと強引に参加を迫れば、それ自体がハラスメントになります

 以上の通り、この呼びかけ文書に対する違和感の根源は、使用者が労働者の私的な時間を使って忘年会や新年会を積極的に開くように呼び掛けるという「大きなお世話」感と、さらには上記のとおりハラスメントを誘引することへの懸念の感覚にあったことがわかります。

 もちろん冒頭の記事の鶴岡市の総務部長さんも、ハラスメントを誘引しようと思ってこうした文書を発したのではないでしょう。地元の経済を思ってのことだと思います。そこに悪意は微塵もないと思います。

 ただ、文書そのものを見ますと、コロナ禍で疲弊した市内飲食店への支援のために、職員に積極的に忘年会や新年会を行うことを、公式文書で「お願い」しているのですから、真面目な職員ほど、忘年会や新年会をやらねばならないと考えてしまい、そのことで軋轢が生じ、ハラスメントが生まれかねない点は否めません。

 せめて、同文書内に「行うにあたり、参加を強要することのないよう、職員の意思を尊重し、格段の配慮をはかること」くらいの一文がほしいところだと思います。

 忘年会や新年会は日本の風物詩ですが、仲間たちと楽しく宴会を開くことが目的ですから、それにより嫌な気持ちになる人が出てしまっては本末転倒です。先ほども書きましたが、本来は、忘年会や新年会は、やりたい人が自由に企画して、参加したい人だけが参加すればいいものです。そこを忘れないでもらいたいところです。

 なお、ここまで読んで、「あの程度の呼びかけ文くらいで考えすぎだろ」と思った場合、その感覚は要注意だと思いますよ・・・。

弁護士・日本労働弁護団幹事長

弁護士(東京弁護士会)。旬報法律事務所所属。日本労働弁護団幹事長(2022年11月に就任しました)。ブラック企業被害対策弁護団顧問(2021年11月に代表退任しました)。民事事件を中心に仕事をしています。労働事件は労働者側のみ。労働組合の顧問もやってますので、気軽にご相談ください! ここでは、労働問題に絡んだニュースや、一番身近な法律問題である「労働」について、できるだけ分かりやすく解説していきます!2021年3月、KADOKAWAから「武器としての労働法」を出版しました。

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