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フジ新婚アナも反応、自民代議士「3人以上産んで育てていただきたい」発言はなぜ余計なお世話なのか

木村正人在英国際ジャーナリスト
第3子を出産したキャサリン妃(木村正人撮影)

「人さまの税金で老人ホームに行くことになる」

[ロンドン発]自民党の加藤寛治衆院議員(72)=長崎2区、当選3回=が自派の会合で「結婚披露宴で必ず3人以上の子供を産み育てていただきたいと呼び掛けている」と発言、その後、撤回しました。

加藤氏は「結婚しなければ子供が生まれないから、人さまの子供の税金で(運営される)老人ホームに行くことになる」とも説いているそうです。

スポーツ報知電子版によると、これにフジテレビの三田友梨佳アナウンサー(30)が番組で「やっぱり3人以上欲しくてもいろんな理由で現実的に産めない人だっているじゃないですか。日本が、子供が育てにくいことだっていう大前提を忘れてしまったのかな、と」と指摘しました。

また、フジテレビの新婚のアナウンサー、山崎夕貴さん(30)も別の番組で「微妙な空気が流れていると思いますけどね。新郎新婦だけじゃなくて、列席している方も。あっ、私、3人以上子供いないっていう空気になるじゃないですか」とコメントしました。

政治家なら余計な口出しをする前に、出産・育児を支援する政策を推進してほしいというのが有権者の切実な願いでしょう。しかし日本の人口減少が深刻な問題を引き起こすことも紛れもない事実なのです。

2065年、日本の人口8808万人

国立社会保障・人口問題研究所が昨年4月に公表した日本の将来推計人口によると、15年の 1 億2709 万人から出生中位推計(合計特殊出生率 1.42~1.45)で40年に 1 億 1092 万人、53年に 1 億人を割り、65年に 8808 万人になる見通しです。

人口問題は出生率と切り離せないので議論する時に注意しないと、女性の生き方というジェンダーの問題を引き起こします。かと言って慎重になりすぎてタブーにすると解決策が密室で議論されることを許してしまいます。

クリストファー・ノーラン監督の近未来映画『インターステラー』(2014年)は、異常気象による飢饉で人類が滅亡の危機にさらされているという設定でした。別の銀河にある惑星で人間の受精卵を孵化させるしか人類が生き残る道は残されていないのに、それが隠されていたのと同じです。

生物学的には女性に2人以上、できれば3人以上子供を生んでもらわないと人口減少に歯止めをかけることができません。そのためには第1子の出産年齢をできるだけ早くする必要があります。

しかし、そんなことをストレートに言うと、社会的に大問題を引き起こします。家庭を持って子供を産んで育てるかどうかは個人の自由で、国家が介入する問題ではないと考えられているからです。

戦争遂行「夫婦の出生数を平均5児に」

昭和16(1941)年1月22日に閣議決定された人口政策確立要綱で「昭和35年総人口1億(内地人)」「今後10年間で婚姻年齢を現在より約3年早めるとともに夫婦の出生数を平均5児に達すること」を目標として定めました。戦争遂行と版図拡大のためでした。

人口は経済力だけでなく、国力と不可分であり、戦争や平和とも密接に関わっています。日本では防衛力を強化することが戦争につながるという議論がよく行われますが、人口が急激に減少していく日本が戦争の原因となる可能性は限りなくゼロに近いでしょう。

他国を侵略する必要がないからです。

2004年の衆院憲法調査会。生命倫理学の草分けで、元早稲田大国際バイオエシックス・バイオ法研究所長、木村利人氏が「科学技術の進歩と憲法」をテーマに参考人として証言。その内容は衝撃的でした。木村氏は故坂本九さんが歌った「幸せなら手をたたこう」の作詞家としても知られています。

婦人参政権が認められた戦後の総選挙で39人の女性代議士が誕生し、第1号の加藤シヅエさんらの議員立法で1948年、人工中絶の違法性を阻却する優生保護法(現・母体保護法)が施行されました。アメリカで連邦最高裁判決が「中絶は女性のプライバシー権」と認めたのはその25年後です。

母体保護法に隠された狙い

木村氏は「優生保護法は、米占領治下に可能になった法律だ。米国の戦後の統治の文献などを読むと、日本にやらせてはいけないことの一つとして、人口の増加ということがあった」と指摘しました。

女性の権利を守るという触れ込みだった優生保護法には、日本の人口増加を抑制するという隠された狙いがあったというわけです。

しかし、アメリカ側から思わぬ反発が起きます。米バージニア州のカトリック信者から終戦直後、連合国軍総司令部(GHQ)のダグラス・マッカーサー最高司令官あてに「このような法律をつくったら、日本人を大量虐殺した将軍、ジェノサイド・ジェネラルと呼ばれるでしょう」と抗議の手紙が届いたのです。

マッカーサーが自分でサインした手紙には「私は、日本人をジェノサイドするつもりはない」と記され、優生保護法の成立には関係していないことを強調しています。

レイプが多発、経済的に困窮していた戦後の混乱期、優生保護法は女性の味方とされました。戦前の人口政策で「人口1億人」の達成目標年とされた1960年は67年にずれ込みました。

木村氏は「広島、長崎という、人間が、人類が絶対起こしてはならない犯罪的戦略によって日本の人口に対するアタックをした。アメリカがしたもう一つの実験は、日本に優生保護法をつくったことだ」と証言しました。

戦争の原因になる人口爆発

アメリカの人口学者は昭和初期「世界人口の危険地域」の一つとして、明治5(1872)年の約3300万人から昭和5(1930)年の約6370万人へ人口がほぼ倍増した日本を挙げ、日本は東南アジアに国内過剰人口のはけ口を求め、戦争が勃発する恐れが大きいと予言していました。

出所)内閣府資料
出所)内閣府資料

第二次大戦の敗戦国である日本やドイツ、イタリアが少子高齢化に苦しんでいるのは奇妙な一致ではなく、そこに隠された意図があるのではないでしょうか。戦後の食糧危機を和らげるために人口増加を抑制したのか、それとも二度と戦争を起こせない国にする狙いがあったのか、定かなことは分かりません。

しかし新しい生命の誕生は家族の喜びでもあると思うのです。英王位継承順位2位のウィリアム王子(35)の妻キャサリン妃(36)が4月23日、第3子(同5位)ルイ・アーサー・チャールズ王子を出産しました。病院前で取材していて単純にうれしかったです。

確かにロイヤル・ファミリーは特別なので、一般家庭で第3子をもうけるのは難しいかもしれません。そこで欧州連合(EU)28カ国と日本で子供が3人以上いる世帯の割合を調べてみました。

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EU全体の世帯数は2億2132万で子供が3人以上いるのは865万世帯(全体の3.9%)。日本は5340万世帯のうち子供3人以上世帯は206万世帯(3.87%)です。

低い日本の出生率

子供が3人以上いる世帯の割合ではカトリック国のアイルランドが最も高く10.6%、移民の多いベルギー5.8%、フランス5.7%、キプロス5.5%、イギリス5.3%と続いています。

主要国の合計特殊出生率を米中央情報局(CIA)のワールド・ファクトブックで見てみると、フランス2.07、イギリス1.88、アメリカ1.87、ドイツ1.45、イタリア1.44、日本1.41になっています。移民をほとんど入れていない日本が出生率を回復させようと思ったら相当な努力が必要です。

一、男も女も同じように参加できる社会をつくる

一、セクハラをなくす

一、男女の教育・給与格差をなくす

一、男も女も同じように育児休業をとる

一、同一労働同一賃金を実現する

一、待機児童をなくす

一、男も女も同じように家事と子育てをする

一、児童手当を充実させる

一、教育費の負担を減らす

一、仕事と人生のバランスを考える

これほど複雑で難しい問題が「3人以上の子供を産み育てていただきたい」と呼びかければ片付くと考えているとしたら、政治家失格は間違いないでしょう。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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