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「名古屋=行きたくない街No1」のはずが観光客過去最多。風評と実態のギャップの「なぜ」?

大竹敏之名古屋ネタライター
国宝犬山城、名古屋港水族館、八丁味噌、紅葉など多様な愛知の観光コンテンツ

愛知県の観光客は8年間で4割増

愛知県の2019年の観光入込客数が前年比5%アップの1億1854万人と、統計開始以来過去最多を記録しました。統計開始当初の2011年の8433万人と比べると、8年間で約40%の伸長となります。

県庁所在地である名古屋市の調査では「行きたくない街No1」とされながら、地域全体の来訪者は着実に上向きに推移していました。一般には「愛知=名古屋(圏)」のイメージが定着していて、愛知県の観光客が増えているということは、すなわち中心である名古屋も同様の傾向にあることは間違いありません。人気がないと言われながらも訪れる人は増えている。この風評と実態のギャップは一体どういうことなのでしょう?

名古屋市のアンケート調査が招いた「名古屋=魅力がない」

名古屋が「魅力がない街」「行きたくない街」全国ワーストの汚名を着せられることになったのは、名古屋市が2016・18年に行った「都市ブランド・イメージ調査」が発端でした。同調査で名古屋市は「最も魅力的な街」「遊びに行きたいと思う」の項目でダントツの最下位。これがセンセーショナルに報道されたことで、「名古屋=魅力がない・行きたくない街」のイメージが広まってしまったのです。

都市ブランド・イメージ調査「魅力(8都市の中で最も魅力的な都市、最も魅力に欠ける都市)」(2018年 名古屋市観光文化交流局調べ)
都市ブランド・イメージ調査「魅力(8都市の中で最も魅力的な都市、最も魅力に欠ける都市)」(2018年 名古屋市観光文化交流局調べ)
同 「訪問意向(各都市に買い物や遊びに行きたいと思いますか?)」
同 「訪問意向(各都市に買い物や遊びに行きたいと思いますか?)」

しかし、この調査結果と報道されたイメージは必ずしも合致しないことは、当サイトでくり返し取り上げてきました。簡単に言えば、この調査は国内の主要8都市のみを対象に観光的視点に重点を置いて行われたものであり、その中で名古屋は観光都市としてはまだまだと評価されただけで、決して“全国ワースト”ではないのです。詳しくは下記の過去記事をご参照ください。

□「実は全国ワーストではなかった!?『魅力がない街・名古屋』のからくり」

ネガティブ報道と裏腹に上昇傾向にあった愛知の観光

名古屋市では、先のアンケート結果をあえて自虐的に広報したことで注目度が高まりプラス効果に働いた、と解釈するむきもあります。しかし、アンケートとは関係なく、地域の観光は近年上昇傾向にあったというのが県のとらえ方。昨年の観光客数の伸長の要因を愛知県の担当者はこう分析します。

愛知県豊橋市の「道の駅とよはし」。農業体験など買う・食べる以外の要素も充実し、人気を集めている
愛知県豊橋市の「道の駅とよはし」。農業体験など買う・食べる以外の要素も充実し、人気を集めている

2019年は中部国際空港のフライト・オブ・ドリームスと愛知県国際展示場アイチ・スカイ・エキスポ、道の駅とよはしのオープン、愛知県美術館、豊田市美術館のリニューアルオープンと集客力のある施設のオープンが相次いだ。加えて2017年からのJRの愛知ディスティネーションキャンペーンの効果で、県外だけでなく県内の観光客の動きも活発だった。インバウンド需要も拡大して、中部国際空港のフライト便数も近年増え続け、昨年は第二ターミナル(LCCターミナル)の開業もあり過去最多。観光客の入込が国内外ともに好調だったことで、ここ数年来の上昇傾向が継続されたという印象です」(愛知県観光コンベンション局・渡邉亨介さん)

「魅力がない」がコロナ後の観光スタイルのヒントにも

そして、名古屋=不人気とされるアンケート結果によって、地元の観光関係者にとって次のような作用が働いたといいます。

「あのアンケート結果はいい“気づき”になった、ととらえています。東京のスカイツリー、京都の金閣寺、静岡の富士山など、写真1枚でどこか分かるというアイコンが愛知には不足している。武将やモノづくり、名古屋めしなど魅力あるコンテンツはあるが、説明しないと魅力が伝わらないものばかり。まだまだ伝え方が足りないのだとあらためて気づかされました」と渡邉さん。

さて、右肩上がりだった愛知・名古屋の観光ですが、今年はコロナショックで状況が一変。昨年までの好況を喜んでいられる事態ではなくなってしまいました。観光産業はとりわけ打撃が深刻な分野で、この地域でも過去にない大きな落ち込みは避けられません。

再び地域の観光を盛り上げていくためには何が必要か? そのカギとなるのが、まさに「魅力がない街」アンケートをきっかけとした“気づき”だといいます。

「魅力が伝えきれていない、という気づきと同時に、歴史や食などそれぞれの分野に興味のある人にしっかり伝えれば満足度が高まるとも確信できた。そこで、今後推進していきたいのが"あいち「ツウ」リズム"です」(渡邉さん)

テーマごとにディープに提案する"あいち「ツウ」リズム"

愛知の多様な魅力を横断的に提案する
愛知の多様な魅力を横断的に提案する"あいち「ツウ」リズム"

"あいち「ツウ」リズム"とは、「武将・城郭」「のりもの」「醸造・うまみ」「山村・離島」など愛知ならではの多様な地域資源を「ツウ」な魅力として、各テーマに関心の高い層へと発信・提案していく観光のスタイル。テーマを切り口にすることで自治体の境界線を越えたコースなども提案でき、感動レベルの旅を提供できる、さらにはコロナ後のニューノーマル型観光としても有効だといいます。

ツウをテーマにすることでターゲットがしぼり込まれるため対象が少人数となり、また行先も各所に広がる。必然的に“密”を避けられ、分散型になるのです」(渡邉さん)

名古屋・愛知のアフターコロナの観光は、同時にアフター“魅力がない街”の観光スタイルともいえます。何もないと思われがちな地域にもディープな魅力はあるもの。それを掘り起こして結ぶことで、関心のある人の満足度を高めようとする「ツウ」リズムは、全国のローカルのこれからの観光スタイルとしても広く活用できるのではないでしょうか。

名古屋ネタライター

名古屋在住のフリーライター。名古屋メシと中日ドラゴンズをこよなく愛する。最新刊は『間違いだらけの名古屋めし』。2017年発行の『なごやじまん』は、当サイトに寄稿した「なぜ週刊ポスト『名古屋ぎらい』特集は組まれたのか?」をきっかけに書籍化したもの。著書は他に『サンデージャーナルのデータで解析!名古屋・愛知』『名古屋の酒場』『名古屋の喫茶店 完全版』『名古屋めし』『名古屋メン』『名古屋の商店街』『東海の和菓子名店』等がある。コンクリート造型師、浅野祥雲の研究をライフワークとし、“日本唯一の浅野祥雲研究家”を自称。作品の修復活動も主宰する。『コンクリート魂 浅野祥雲大全』はその研究の集大成的1冊。

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