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リニア中央新幹線に影響必至、静岡県知事選きょう告示 選挙戦の構図と最新情勢は?

大濱崎卓真選挙コンサルタント・政治アナリスト
リニア中央新幹線の工事問題は静岡県知事選挙の焦点になっている(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

 任期満了に伴う静岡県知事選(6月3日告示、6月20日投開票)が今日告示されます。

 静岡県知事選挙は、現職の川勝平太知事に対して、前国土交通副大臣の岩井茂樹前参院議員が挑む事実上の一騎打ちの構図となっていますが、リニア中央新幹線の工事に関連して水資源問題と絡めてルート変更を求める川勝知事の動きなどがあり、全国的な注目を集めています。川勝平太知事が再選されれば、JR東海や国と静岡県との工事交渉は難航が予想され、リニア中央新幹線の工期が更に延びる可能性もある一方、自民党候補の岩井前参院議員が当選した場合には、政府与党が推進しているリニア中央新幹線のルート問題などをどのように解決させるのかに関心が高まると言えるでしょう。

 私が代表を務める選挙コンサルティング会社「ジャッグジャパン」では、5月28日〜30日にかけて、静岡県知事選挙に関する情勢調査を独自に行いました。調査結果や取材をもとにした告示時点での情勢についてお伝えします。

選挙戦の構図と選挙戦全体の情勢

 4期目をめざす川勝平太知事(72)と前国土交通副大臣の岩井茂樹前参院議員(52)との実質的な一騎打ちの構図です。静岡県知事選挙は2013年、2017年と自民党本部や県連所属各支部が支持・推薦した政治的キャリアの無い候補がいずれも川勝氏に敗れており、与党自民党としては県選出の岩井前参院議員の出馬で、この構図を打破したい考えです。迎え撃つ川勝平太知事は3期12年の実績を訴えることとなりますが、一方で高齢や多選の弊害といった課題も指摘されています。

 ジャッグジャパンが5月28日〜30日に独自に行った情勢調査(インターネットパネル調査、N=3,217)では、現職の川勝平太氏が、新人の岩井茂樹氏に対して優勢です。川勝氏は衆院静岡3区、7区で岩井氏を大きくリードしている一方、岩井氏は1区、6区で急追する展開です。詳細について、みていきます。

政党別や選挙区別などでの分析

 自民党支持者では、岩井氏が川勝氏に対しやや先行しています。公明党支持者は岩井氏川勝氏との間で拮抗していますが、態度未決定者が半数程度です。川勝氏は立憲・共産・国民支持者を固めつつあります。無党派層でも川勝氏がリードしていますが、まだ6割近くが投票先未定です。与野党対立構図ではあるものの、岩井氏が与党支持者に今後どれだけ浸透するかが鍵となるでしょう。一方川勝氏陣営は、無党派層にどれだけ終盤で支持を広げられるかが課題となります。

 川勝氏は衆院静岡3区、7区で岩井氏を大きくリードしている一方、岩井氏は1区、6区で急追する展開です。ただし5区、8区では態度未決定者が5割を超えるなど、多くの態度未決定者が残っている状況でもあり、終盤戦に向けて情勢が変わる可能性もあります。

リニア工事の意見は県民の中でも割れている

出典:ジャッグジャパン株式会社(インターネットパネル調査),2021年5月28日〜30日実施
出典:ジャッグジャパン株式会社(インターネットパネル調査),2021年5月28日〜30日実施

 リニア工事については「当初の予定通りに建設工事を進めるべきだ」(24.2%)、「当初のルートを変更して建設工事を進めるべきだ」(22.9%)、「工事を中止し、計画を白紙にすべきだ」(15.5%)、「まだ決めていない・わからない」(37.3%)と意見が割れました。川勝氏支持者ではルート変更や計画中止を望む者が多い一方、岩井氏支持者の過半数は当初の予定通りに建設工事を進めるべきと答えました。

 選挙区別にみると、「当初の予定通りに建設工事を進めるべきだ」と答えた人の割合が特に高かったのは6区、8区、「当初のルートを変更して建設工事を進めるべきだ」を上回ったのは、(6区、8区のほかに)1区、5区でした。また、1区、2区では「工事を中止し、計画を白紙にすべきだ」の割合が2割弱に達するなど、リニア中央新幹線の工事に否定的な意見が多くみられます。

 支持政党別でみると、「当初の予定通りに建設工事を進めるべきだ」と答える割合が最も多かったのは、自民党支持者と日本維新の会支持者でした。「当初のルートを変更して建設工事を進めるべきだ」と答える割合が最も多かったのは、立憲民主党・公明党・国民民主党・社民党の各支持者です。「工事を中止し、計画を白紙にすべきだ」と答える割合が最も多かったのは、日本共産党支持者でした。また、特に無党派層では「当初のルートを変更して建設工事を進めるべきだ」という意見が最も多く、「当初の予定通りに建設工事を進めるべきだ」という意見と「工事を中止し、計画を白紙にすべきだ」という意見が同程度でした。

 年代でみると、30歳代までは「当初の予定通りに建設工事を進めるべきだ」と回答する人の割合が「当初のルートを変更して建設工事を進めるべきだ」を上回っていますが、40歳代・50歳代ではほぼ同じ割合となり、60歳代以上では「当初のルートを変更して建設工事を進めるべきだ」が「当初の予定通りに建設工事を進めるべきだ」を上回る結果となりました。若い世代ではリニア中央新幹線に対する期待が高い一方、高齢の世代ではルート変更を強く求める傾向があると言えます。

終盤戦に向けて各陣営のてこ入れは

 現職の川勝氏は、野党支持者だけでなく与党支持者をどれだけ切り崩すことができるかが終盤戦の見どころとなるでしょう。静岡県は東西に長い自治体であり、選挙では地域差の出やすい自治体でもありますが、やはりこの知事選においても地域差がみられるので、全県横断的な支持を集められるかどうかが課題となるでしょう。

 一方、新人の岩井氏は、リニア中央新幹線の工事問題の焦点化を避けながら、与党の集票力を自身の票に繋げる動きを展開しています。与党(自民・公明)支持者の結束を固めつつ、今年秋までには行われる衆院選への影響も考えながらの選挙戦となる見込みです。緊急事態宣言が知事選投開票日である6月20日まで延長されるなか、与党系議員などの応援などといったてこ入れがあるのかどうかも注目です。

■ 調査実施日:2021年5月28日〜30日

■ 調査手法:インターネットパネル調査(マーケティングアプリケーションズ「サーベロイド」で静岡県在住の方を対象に実施)

■ サンプル数:3,217件

■ 実施主体:ジャッグジャパン株式会社

  ※本調査はジャッグジャパン株式会社の自主調査であり、調査実施主体のジャッグジャパン株式会社と記事内の各陣営との間には、利害関係はありません。

選挙コンサルタント・政治アナリスト

1988年生まれ。青山学院高等部卒業、青山学院大学経営学部中退。2010年に選挙コンサルティングのジャッグジャパン株式会社を設立、現在代表取締役。不偏不党の選挙コンサルタントとして衆参国政選挙や首長・地方議会議員選挙をはじめ、日本全国の選挙に政党党派問わず関わるほか、政治活動を支援するクラウド型名簿地図アプリサービスの提供や、「選挙を科学する」をテーマとした研究・講演・寄稿等を行う。『都道府県別新型コロナウイルス感染者数マップ』で2020年度地理情報システム学会賞(実践部門)受賞。2021年度経営情報学会代議員。日本選挙学会会員。

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