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荒れる春場所のV争いは誰が勝っても「初優勝」 筋書きのないドラマの行方は

飯塚さきスポーツライター/相撲ライター
写真:日刊スポーツ/アフロ

2022年大相撲春場所は、いよいよ今日で千秋楽を迎えた。横綱不在となってしまったが、今場所は特に面白い展開になっているといえるだろう。14日目の取組を振り返りながら、優勝争いの行方をまとめる。

高安に土 若隆景と琴ノ若は勝って望みつなぐ

13日目に大関・貴景勝を下し、単独トップに躍り出た高安。14日目は、対戦成績9勝16敗と分の悪い正代との対戦。一方の正代は、勝てば勝ち越しとカド番脱出がかかった大事な一番だった。

立ち合いと同時に左上手を取った高安。正代はまわしに手がかからない。高安が懸命に寄っていくが、土俵際で正代が右から執念のすくい投げを繰り出した。高安はこれに堪えられず、土俵に転がる。これで高安は2敗に後退。正代は大関の意地を見せ、自らの手でカド番から脱出した。4連敗から始まった序盤戦には考えられない結果で、あらためてその強さを見せつけた。

続く琴ノ若と御嶽海は、3敗同士の対戦。勝ったほうが優勝戦線に残るという一番だ。

立ち合いは琴ノ若が頭で当たった。と同時に、そのままの勢いで新大関を一気に土俵際へ追い込み、押し出し。実に見事な相撲で、優勝争いに琴ノ若が残った。

結びの一番は、2敗の若隆景が大関・貴景勝に挑む。過去の対戦成績は1勝5敗。格上相手にどう向かっていくかが見どころであった。

立ち合い、両者頭で当たると、大関が一気に土俵際まで追い込む。しかし、それを見事に堪えて戻る若隆景。大関はここで思わず一瞬引いてしまう。若隆景は、その隙を見逃さなかった。右の下手を差し込みながら懸命に体を寄せると、大関が力なく土俵を割った。若隆景が素晴らしい相撲で高安に肩を並べた瞬間だった。

読めない優勝争いは巴戦の可能性も

これで、2敗の若隆景と高安、そして3敗の琴ノ若による優勝争いとなった。14日目を終え、出場するなかの最高位である大関陣が一人も残っていないことは非常に残念ではあるが、3人のうちの誰が勝っても初優勝となるのは、それはそれで大変喜ばしい。全力士を応援する筆者としては、現時点で3人分の優勝原稿を用意したいくらいだ。

自力優勝の可能性がある若隆景と高安が、一歩優勢であることは間違いない。特に、絶好調の正代と当たる若隆景に比べると、すでに大関戦を終えている高安はなおさらだ。しかし、今場所は本当にどうなるかまったくわからない。二人が負けて琴ノ若が勝つと、巴戦の可能性まである。はたして、この筋書きのないドラマはどう完結するのだろうか。「初優勝」で幕引きする2022年春場所は、感涙必至となりそうだ。

<参考>優勝争いの行方

▽12勝2敗 若隆景 高安

▽11勝3敗 琴ノ若

・若隆景が正代に〇 高安が阿炎に● → 若隆景の優勝決定

・若隆景が正代に● 高安が阿炎に〇 → 高安の優勝決定

・若隆景が正代に〇 高安が阿炎に〇 → 若隆景、高安による優勝決定戦

・若隆景が正代に● 高安が阿炎に● 琴ノ若が豊昇龍に〇→ 若隆景、高安、琴ノ若による優勝決定戦

スポーツライター/相撲ライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライター・相撲ライターとして『相撲』(同社)、『Number Web』(文藝春秋)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書に『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』。

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