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別れた元カレと同棲は続けて…。恋愛会話劇に主演の植田雅が「後先より今の気持ちが第一」と決意した日

斉藤貴志芸能ライター/編集者
『階段の先には踊り場がある』より

別れた後も同棲を続ける大学生らのリアルな恋愛模様を描いた映画『階段の先には踊り場がある』が公開された。舞踊を学んで留学を目指しつつ、元カレへの想いに葛藤する役で主演したのが、新人女優の植田雅。会話劇の抑えた演技の中に生々しい感情がのぞき、強い印象を残す。大分から夢を叶えるために上京した21歳。今、思い描いているものは?

人見知りを直すために無理やりダンスを始めて

――『階段の先には踊り場がある』で演じたゆっこは芸大の舞踊科の学生ですが、植田さんもダンスをやっていたんですよね?

植田 ジャンルはまったく違ってヒップホップ系でしたけど、小1から習ってました。

――どんなきっかけで始めたんですか?

植田 私がすごい人見知りで、お母さんが人前に立つことに慣れさせようと、無理やり始めた形でした(笑)。最初は毎週木曜のレッスンに行くのが地獄でしたけど、どんどんハマって。中学ではいったんやめて、高1でまた本格的に練習したくなって、大分から福岡のスクールまで2時間かけて通っていました。

――高校生活はどんな感じでした?

植田 ダンス中心の生活で、学校終わりで福岡に行ったりしていたので、部活にも入らず、文化祭や体育祭にもあまり出てなかったんです。友だちとのコミュニケーションに時間を割けなかったので、広く浅くより狭く深くという関係を築いていました。

――植田さんが芸能界に入って、クラスの人たちはビックリしているような?

植田 高校時代にライブでバックダンサーをしていて、たまたま観に来ていた友だちとステージから目が合って。ダンスを習っていることを言ってなかったので、驚かれました。「こんなことをしていたんだ」って、学校に一気に広まりました。

レプロエンタテインメント提供
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掛け合いをしたら役の気持ちがわかって

――演技にはいつから興味を持ったんですか?

植田 高校を卒業する前くらいです。通っていたダンススクールにお芝居のコースもあって、オーディションを受ける機会をいただきました。最初はダンスを始めたときのように、とりあえずやってみようと。演技レッスンとか受けたことがなかったので、台本をもらって自分で台詞を練習して、「何だこれ?」と思いました(笑)。

――自分と違う人物になるのに違和感があったり?

植田 その役がなよなよした弱々しい女子高生で、口調も普段の自分と違っていたので、「私、何をしているんだろう?」という感覚でした。台詞に「こう言えばいいのに」とか、つい自分の感情が入ってしまって。でも、発表するときに相手役の方との掛け合いで言葉を受けたら、「こういう気持ちになるんだ」とわかったんです。それが楽しくて、ハマってしまいました。

――ドラマとか観てはいたんですか?

植田 大好きでした。『リッチマン、プアウーマン』とか『マザー・ゲーム』とか、観るのを楽しみに1週間頑張る感じでした。今思うと、女優さんに興味はあったんでしょうね。でも、当時はダンス以外で人前に出るのは抵抗があって、自分がやろうとは全然思っていませんでした。

――今の事務所にはどんな経緯で入ったんですか?

植田 高校を卒業してから何をするか考えて、ダンスと迷ったんですけど、そのときにはもう、お芝居を好きな気持ちが強くなっていて。事務所のオーディションに応募して、面接して入らせてもらいました。

『階段の先には踊り場がある』より
『階段の先には踊り場がある』より

白黒ハッキリさせたくても「言えないな」と

――ゆっこは胸の内にはいろいろありつつ、表面的には淡々としている役でした。

植田 そうですね。私自身はわりと白黒ハッキリしていて、「こうしたい」と言うタイプなんです。監督と読み合わせをしていて「もっと気持ちを抑えて」「感情を出さないで」と何度も言われました。でも、私も恋愛関係では、ゆっこみたいに言えなくなることはあります。

――ゆっこの心境はわかると。

植田 1人で脚本を読んでいると、「何でこう言わないんだろう?」「どうして感情を出さないんだろう?」という疑問は常にあって。それは現場に入るまで消えなかったんですけど、いざ(同棲している)先輩役の平井(亜門)さんと掛け合いをすると、「言えないわ」となりました。

――初めて演技をしたときと同じように。

植田 そうです。そこでやっと「ゆっこはこういう気持ちだったんだ」と理解しました。共感できることは多かったですね。

――先輩と別れたあとも同棲を続けているのも、理解できました?

植田 わかります。ゆっこは先輩に恋心だけでなく、人間として好きな部分もあったので。先輩が出て行きたくないなら、いてもいいよって感じですね。

――ゆっこの友だちで先輩とバイト仲間になった多部ちゃんは「この状態がわからない」と言ってました。

植田 私もゆっことしてでなく、第三者の目で見ると、ちょっと理解できません(笑)。ゆっこが自分の友だちなら、口出しします。

台詞をタメ口から敬語に変えてもらいました

――この映画は会話劇ということで、話し方にも気を配りました?

植田 最初の脚本では、ゆっこは先輩に対してタメ口だったんです。でも、私は敬語のほうがやりやすいと気づいて、読み合わせをしていく中で語尾とかを変えてもらったんです。そっちのほうがゆっこっぽくてハマるね、ということになりました。あとは、相手の言動に対するリアクションが大きくなるのを抑えました。

――植田さんは声も良いですよね。

植田 よく言っていただきます。自分ではスクリーンから聞こえてくる声が思っていた自分の声と違って、まだちょっと受け入れられない感じです(笑)。

――ゆっこと先輩が映画を観ながら、「多部ちゃんのことが好きなんですか?」などと話すシーンが10分くらい続きました。あそこは長回しだったんですよね?

植田 そうです。撮影前に平井さんと何度も台詞を合わせて、一番大変なシーンでした。本番は集中力も要るので「一発で撮ろう」という空気になって、2~3テイクでOKになりました。

――全部脚本通りで、アドリブはなく?

植田 平井さんが最後のほうに手を握ってきたのは、アドリブです。あそこの台詞も台本にはなかったんですけど、急に入れ込んできて(笑)。台詞を噛んだり間違えたりしたらどうするんだろうと、冷や冷やしましたけど、そういうことも面白かったです。

『階段の先には踊り場がある』より
『階段の先には踊り場がある』より

心の中で常に「ズルいな」と思っていて(笑)

――ゆっこは「先輩に嫌わられないように、好きと言わなかった」とも話してました。

植田 理解できなくはないですけど、先輩はズルいと思っていました(笑)。人に好かれようとはしてなくて、自分がしたいようにしているだけなのに、人から好かれるタイプですよね。何か魅力的で惹かれてしまう。ゆっこは先輩に対して、あまり怒ったりはしませんけど、心の中では常に「ズルいな」というのがありました(笑)。

――そうした会話はリアルに感じました?

植田 私自身、あまり恋愛経験がなくて、濃い男女の会話をしたことがないんです。だから、よくあることかはわかりません。でも、白黒ハッキリしないのが恋愛ですよね(笑)。お互いの気持ちがうまく通じ合わないのは、リアルだなと思いました。

――ダンサーとしての将来に繋がるアメリカ留学の試験に受かったとしても、「先輩といたいから行かない」という心情は理解できました?

梅田 ゆっこのそのときの感情で言っている部分はあると思いますけど、それくらいゆっこにとって先輩は大きい存在なんだと、あの台詞でわかりました。後先よりも今の自分の気持ちを第一に考えるところは私に似ています。今は先輩を好きだからそうしたいのは、理解できます。

『階段の先には踊り場がある』より
『階段の先には踊り場がある』より

芸能界に反対する親に泣くしかなくて

――植田さんもそういう人生の岐路に立った経験はありますか?

植田 高校を卒業するタイミングでは、すごく悩みました。でも、先のことを考えすぎても、何が起こるかわからないじゃないですか。やりたいことをやれるときにやろうと、この世界に飛び込みました。親に反対されて、説得するのが本当に大変でしたけど。

――涙ながらに訴えたような?

植田 親の前で泣いたのは子どもの頃以来で、久しぶりに感情をぶちまけました。でも、泣きながら訴えたというより、家族会議を何回も何回もしても説得できなかったので、最後は泣くしかなくて。言葉が出なくて、涙しか出なかった感じです。それで、両親も折れてくれました。

――ご両親は芸能界は厳しい世界ということで、心配されていて?

植田 大分から出たことがない両親で、私がいきなり「上京したい」と言って、ビックリさせてしまったのも良くなかったと思います。オーディションを受けたことも、お母さんには言ってましたけど、お父さんには受かったら話すつもりでした。もうちょっと前から相談しておけば、良かったかもしれません。

――自分の中では迷いはなかったんですか?

植田 いえ、悩みました。そんなに反対されると思ってなくて、お父さんを説得できる言葉が出てこなかったので、自分でも「私は本当にやりたいのかな?」と何度か考えました。でも、最後は感情が溢れて「絶対にやってやるぞ!」という気持ちになりました。

街で役っぽい人を探して観察します

――『階段の先には踊り場がある』では、ゆっこを演じるうえで悩んだことはありませんでした?

植田 会話劇がメインで、作品の雰囲気がどんな感じになるのか、ずっと考えていました。私がよく観る映画は起承転結があって、わかりやすい王道のラブストーリーが多かったので、こういうリアルな作品の世界観を掴むのは、ちょっと大変でした。

――映画はよく観るんですか?

植田 お仕事を始めてから観るようになりました。『愛がなんだ』みたいな日常を切り取った作品や今回のようなリアルな作品も観て、面白さを知りました。最近は韓国映画をよく観ています。韓国の女優さんはお芝居だけでなく、姿や雰囲気からも人を魅了する力が大きいと思うので。

――特に惹かれる韓国の女優さんというと?

植田 ハン・ヒョジュさんが好きです。寝ると毎日違う姿になる男性と恋をする『ビューティ・インサイド』とかで観て、まなざしとか空気感とか素敵だなと思います。

――ラブストーリーで好きだったのは?

植田 純粋な女の子のヒロインが好きで、『ホットロード』は何回も観ました。でも、『タイタニック』のようなアンハッピーエンドが好きなんです(笑)。

――日常生活で女優として意識するようになったこともありますか?

植田 レッスンやオーディションでも、脚本を読んで役がどういう人か具体的にわからないときは、電車でそれっぽい人の前に座って観察します。街を散歩して、ゆっこっぽい人を探したりもしました。

純粋な気持ちのまま初心も野心も忘れずに

――上京して3年で、東京暮らしにはもう慣れました?

植田 慣れました。大分では田んぼと畑ばかりの街に住んでいて、電車は1時間に1本だったので、東京の駅では次々に来るのに感動しました(笑)。

――オフの日は何をしていることが多いですか?

植田 家の掃除をしたり、映画館に行ったり、陽が落ちてくる時間帯が好きなので散歩に出たり。派手なことはしていません(笑)。

――『階段の先には踊り場がある』では、ゆっこがカップヌードルのBIGを食べているシーンがありました。ああいうのを食べたりは?

植田 あれは監督の知り合いの方の家を借りて撮影していて、家主さんが買ってきてくれたんです。普通のサイズかと思ったら、まさかのBIGで(笑)、そのまま使いました。私は普段は普通のを買います(笑)。

――主演映画も2本目で、夢が広がる感じですか?

植田 大分から何も知らずに出てきたときは、すごく夢を持っていたんですけど、東京に来て、逆に現実を見ました。オーディションに行くと、輝いている人がこんなにいるんだと思って。

――でも、植田さんには大分で育ったからこその良さもあるのでは?

植田 いろいろなことに感動できます。最近も美術館にゴッホ展を観に行って、感動しました。あんな素晴らしい絵を見たのは初めてで、会場もすごく大きくて。これからも、すごい世界にいることに慣れず、純粋な気持ちのままでいられたら。ドラマの主演とかやりたいことはいろいろあるので、初心も野心も忘れずにいこうと思います。

Profile

植田雅(うえだ・みやび)

2000年6月11日生まれ、大分県出身。

2020年に映画『別に、友達とかじゃない』で初主演。2021年に常滑市ショートムービー『泣きたいのに泣けない私』に出演。公開中の映画『階段の先には踊り場がある』に主演。

『階段の先には踊り場がある』

監督・脚本/木村聡志 出演/植田雅、平井亜門、手島実優、細川岳、朝木ちひろほか

池袋シネマ・ロサにて公開中

公式HP

(C)LesPros entertainment
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芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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