「ムショラジ」:刑務所内ラジオ番組と受刑者の心とラジオの力
<新潟刑務所内だけで放送されているラジオ番組。いつかリスナーが誰もいなくなることを願いながら続けた20年。>
■ムショラジ~新潟刑務所 月2の特別放送~:BSN新潟放送ラジオ
初めて知りました。刑務所の中で、刑務所の囚人だけに向けたラジオ番組の存在。新潟刑務所では、600人のリスナーに向けた放送が、月2回放送されています。いつか、リスナーが誰もいなくなることを願いながら。単なる娯楽ではなく、受刑者の更生を願いながら。
全国には62の刑務所があります。その中で、10の刑務所内でラジオ番組が作られています。番組スタッフに聞いたのですが、他の、新潟刑務所のラジオ番組はとてもフレンドリーな雰囲気の番組です。
普通の人達なら誰も聞いたことがない、刑務所内ラジオ番組。その刑務所内ラジオ番組を、今回BSN新潟放送のドキュメンタリー番組が紹介してくれました(私も番組に出演し、ひとことコメントを述べています)。『ムショラジ~新潟刑務所 月2の特別放送~』です。
■新潟刑務所内ラジオ番組
ラジオパーソナリティーは地元の僧侶、アシスタントはOLさんです。21年前にこのコンビでスタートし、今回400回めの放送を迎えました。お坊さまのお話といっても、いわゆる「ありがたいお話」ではありません。上から目線でのお説教ではありません。真面目だけれど、軽妙で楽しいおしゃべりが繰り広げられます。
番組は録音ですが、編集も収録し直しもありません。番組出演者と刑務所スタッフとの信頼関係の中で製作されているのでしょう。
番組では毎回テーマを決めて、リスナー(受刑者)のみなさんから、お便りを募集します。例えば、「なぜルールを守らなければならないのか」など。400回めのテーマは「自責の念」。この回は、600人のリスナーから、97通ものお便りが来ました。
リスナーからのお便りは、反省文の作文のような形式的な内容ではありません。もっと素朴な内容です。「係りの人も驚くほどの本音を語ってる」そうです。
ラジオパーソナリティーも、本当に普通のラジオ番組のように、リスナーと同じ目線でお便りを読み、真摯な感想、意見を述べています。
ラジをの視聴は自由なのですが、変化の少ない刑務所生活の中で、みんなが番組を楽しみにしています。お便りも、たくさん届きます。
■ラジオの効果と更生
「百聞は一見にしかず」。いくら言葉で説明するよりも、写真や動画を見せた方が、一発でわかることはたくさんあります。心理学の研究によれば、人間の感覚は「視覚優位」です。目で見たものに、引っ張られます。
目で見ることは、わかりやすかったり、刺激的だったりします。でもそれだけに、見た目に惑わされて、言葉のメッセージが届かないことがあります。
客観的(犯罪心理学的)に言えば、犯罪は環境の影響が大きいと思います。けれども、犯罪者自身が「社会が悪い」「家族が悪い」と考えるだけでは、厚生が進みません。大切なことは、「内省」を深めることです。
自分は一体何をしてしまったのか。被害者はどんな傷を受けたのか。なぜこんなことをしてしまったのか。あの時、本当はどうすればよかったのか。人は、単に刑罰を受けたり説教されたりするだけでは、内省は深まりません。怒りや恨みが湧いてくるだけでは、更生はできません。悔やむだけでもだめなのです。
法律的には、刑期を終えればそれで終わりです。もう犯罪者ではありません。元犯罪者です。けれども、本人が「刑務所に入ったのだから、もういいだろう」と単純に思うだけでは不十分です。形式的な反省文を書かせるだけでは、反省文の書き方が上手くなるだけです。自分の心と本当に向き合う内省が必要です。
ラジオは、内省を深めるのに良いメディアです。一般のラジオも同じですが、ラジオは大勢の人に向けて放送されていますが、まるで個人に向けて語りかけられているように感じるメディアです。温かさと個人的つながりを感じるメディアです。
受刑者の中には、人間関係が絶たれ、誰も面接に来ない、手紙のやり取りもない人もいます。でも、このラジオ番組にはお便りを届けることができます。読んでもらえます。ラジオパーソナリティから、メッセージが届けられます。
全ての言葉は、心にメッセージが届かなければ無意味です。「勉強しましょう」「歯を磨きましょう」。その日本語は理解できても、本当にそうだなあと感じなければ、心も行動も変わらないのです。
映像のない言葉だけのラジオは、情報は限られます。でも、私たちが神仏にお祈りするとき、西洋でも東洋でも目をつぶります。立派な神社お寺教会の建物、素晴らしい彫刻や絵は、私たちを感動させ、宗教理解を助けます。でも、それでもやっぱり、お祈りする時は目をつぶります。神仏と心の交流をする時には、視覚情報を遮断するのです。
■私たちとラジオ
ラジオの効果は、もちろん刑務所だけの話ではありません。私たちの日常も同じです。ラジオは、私たちを慰め、笑わせ、元気づけてくれます。
かつてラジオは、若者にとって必携のものでした。多くの若者が、深夜放送を聞いていました。今、若者はラジオから離れています。「内省」は、今の時代に合わないのかもしれません。でも、メッセージのやり取りの中で内省を深めることは、やっぱり大切です。
実は私は、新潟刑務所を何回か訪問しています。受刑者の人にも会っています。でも、今回の放送を聞いて、受刑者からのメッセージを静かに読み上げる声を聞いて、初めて感じたことがあります。
被害者への思い、家族への思い。「懲役10年で8年経った。あと2年」、その言葉から10年の長さを私は初めて感じました。被害者が存在しているのですから、安易な同情はできません。けれども、実際に訪問してもわからない、これまで何度も見てきた刑務所ドキュメンターテレビ番組でもわからなかったことが、このラジオ番組から感じ取ることができました。
400回めの記念の回に寄せられた97通のお便り。それは、2回の放送を通して、全て読み上げられたそうです。
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*BSNラジオ特別番組『ムショラジ~新潟刑務所 月2の特別放送~』2018年5月30日(水)22:00-23:00を聞くために
「ラジコ」アプリのタイムフリーを使用すれば、視聴できます。
ムショラジ~新潟刑務所 月2の特別放送~ | BSNラジオ | 2018/05/30/水 22:00-23:00
聴取可能期限:2018年06月03日 10:53まで
<ラジコヘルプより>
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