突然の死は血管が原因~阿藤快さんの死から考える
突然死のショック
人気俳優の阿藤快さん(69)が亡くなった。親族の方が自宅で亡くなっている阿藤さんを発見したという。
誰にもみとられることなく亡くなった阿藤さんのご冥福を心よりお祈りする。直前までドラマに出演するなどお元気だったので、ご遺族、ファンにとってはショックが大きいだろう。
実は私の実の父も、死んでいるところを発見された。第一発見者は母で、朝10時になっても起きてこないので部屋を見に行ったら、すでに冷たくなっていた。解剖していただいたところ、心臓を栄養する血管(冠動脈)が詰まって、急性心筋梗塞を起こして死んだことが分かった(写真参照)。寝ている間に発生したという。
死の前日まで普通に暮らしていたから、こういう突然の死は、病死、不慮の死といった原因に関わらず、遺族にとってはつらい。まだ病死は誰のせいでもない、と思えるので、テロや事故などの死ほどではないが、それでも、かなり動揺する。普段から「太く短く生きる」と公言していた本人にとっては、「ピンピンコロリ」の死であり、本望なのかもしれないが…
今年の9月には、プロ野球阪神タイガースの中村勝広ジェネラルマネージャー(GM)(享年66歳)が、同じく急性心筋梗塞で急死された。
今日お会いしたある方も、友人がくも膜下出血で突然亡くなったので動揺し、深い悲しみを抱かれていた。その方も言われていたが、がんのように亡くなるまでの時間が分かっていたほうが、親しい友人や遺族にとっては心の整理ができやすいのかもしれない。
突然死は血管が原因
このような突然死=急死の多くは、血管が原因だ。
私の父やタイガースの中村GMは急性心筋梗塞。心臓を栄養する太い血管が詰まってしまうことにより、心臓の筋肉に血液が届かなくなり、酸素不足、栄養不足で心臓の筋肉が死んでしまう。このため心臓が動かなくなり、死んでしまう。
阿藤さんの場合は大動脈破裂だ。大動脈瘤が以前からあったか、解離性大動脈瘤(急性大動脈解離)が起こったことが原因だろう。
大動脈瘤は動脈硬化などにより、大動脈が次第に大きくなっていくことにより起こる。解離性大動脈瘤は、主に動脈硬化が進むことにより、大動脈の壁が弱くなり、大動脈の壁が裂けてしまうことにより起こる。避けた部分に血液が流れ込む。
これらの原因により弱くなった大動脈の壁が、血液の圧力に耐えかね、破れると、大動脈から大出血を起こし、死亡する。
くも膜下出血は、脳の動脈にできた「こぶ」(動脈瘤)が突然破れることによって起こる。
突然死に「予兆」はあるか?
こうした死は突然訪れる。果たして防ぐことができるのだろうか。
実は突然死の前に「予兆」があることがある。
急性心筋梗塞が起こる前には、階段の上り下りなど、運動をしたときに、胸が締め付けられるような痛みが数分から10分程度生じる「狭心症」が起こっていることが多い。私の父は狭心症があり、胸が痛くなった時に血管を広げる薬(ニトログリセリン)を服用していた。
大動脈瘤の場合、大動脈が徐々に大きくなり、周囲の臓器を押すことで何らかの症状が出ることがある。
阿藤さんは背中を痛がっていたという。
この背中の痛みが、大動脈瘤による影響だった可能性もある。
しかし、こうした予兆がないこともある。解離性大動脈瘤は予兆のないまま突然発生することがある。また、脳動脈瘤があることに気が付けない場合も多い。
血管の健康を
突然死を防ぐためには、結局日ごろ血管が健康になる生活をするしかない。つまり、生活習慣、つまり食生活に注意し、たばこはやめ、運動をするなど、「メタボリック症候群」を防ぐ生活を送るしかない。ここでは詳しくは延べないが(詳細はこちらなど参照)、血管が健康な人は長生きするというのが、私たち病理医の実感なのだ。
また、予兆があった場合は、なるべく早く医療機関を受診することをお勧めする。予兆がないことも多いので、定期的な健康診断も重要だ。人工血管を移植するなど、重大な事態が発生する前に打てる手はある。
結局、上で述べたことはどれも常識的なことばかりで、なんだ、そんなことか、と思われたことと思う。しかし、「こうすれば健康だ!」などという安易な方法などない。もしそんなものがあれば疑ってかかるべきだ。
血管がおかしくなるまでに、長い時間がかかる。長い長い生活習慣の蓄積の先に突然死がある。遠い未来のために今行動できる人は多くない。常識的なことを行うことは簡単ではないのだ。