Yahoo!ニュース

藤井聡太竜王のA級昇級はどうなる?全クラス佳境へー第80期順位戦B級1組~C級2組は残り2戦ー

遠山雄亮将棋プロ棋士 六段
藤井聡太竜王はA級昇級まであと一歩に迫っている(写真:森田直樹/アフロ)

 第80期名人戦・順位戦は、B級1組~C級2組の各クラスで残り2戦となっている。

 藤井聡太竜王(19)はB級1組で2敗目を喫してA級昇級へ足踏みとなった。

 B級2組ではタイトル獲得経験もある実力者の中村太地七段(33)が全クラス通じて最速で昇級を決めた。

 C級1組とC級2組では上位陣が星を伸ばしてハイレベルな争いが続いている。

 各クラスの現状と今後の注目ポイントをまとめた。

B級1組

記事中の画像作成:筆者
記事中の画像作成:筆者

 11回戦で、トップを走っていた藤井竜王が千田翔太七段(27)との直接対決に敗れた。

 まだ首位に変わりないが、順位下位ということもあって後続との差がかなり縮まった印象だ。

 千田七段は価値ある1勝で2番手に浮上した。次戦は抜け番となる。

 そして稲葉陽八段(33)が自力(※)になった。残り2戦を連勝すれば千田七段を抜いて昇級となる(前期成績に基づく順位が稲葉八段のほうが上のため)。

 開幕から7連勝していた佐々木勇気七段(27)は、ここにきて3連敗。昇級がかなり厳しい状況だ。最終戦に藤井竜王との直接対決を残しているのでわずかな可能性にかけるよりない。

 4敗の棋士がいないため、昇級争いはこの4名に絞られている。

 なお12回戦で藤井竜王が勝って稲葉八段が敗れると、藤井竜王の昇級が決まる。

 木村一基九段(48)など星が伸びていなかった棋士が揃って白星をあげて、残留争いも混沌としてきた。

 12回戦は2月3日(木)に一斉に行われる。

 藤井竜王ー阿久津主税八段(39)と松尾歩八段(41)ー稲葉八段が昇級争いと残留争いに絡む同士の対戦で大きな勝負となる。

※自力とは、自分が残りの対局にすべて勝てば他局の結果にかかわらず昇級が決まる状況をさす

B級2組

B級2組以下は昇級3名となる
B級2組以下は昇級3名となる

 中村(太)七段が8戦全勝で2戦を残して昇級を決めた。インタビューでも今期は順位戦への思いが強かったと語っており、実力と気持ちが噛み合ったことでこの成績につながったのだろう。

 澤田真吾七段(30)も昇級へ大きく前進した。残り2戦で1勝すれば昇級が決まる。

 ただ、残りの相手との対戦成績が芳しくない(どちらの棋士とも過去0勝3敗)ため、まだ茨の道が続いている。

 そして残り1枠の争いが熾烈だ。2敗最上位で名人2期の実績を誇る丸山忠久九段(51)が自力の権利を持つ。

 残りの2戦は星が伸びていない棋士が相手だが、降級点がかかって必死という意味もある。決して簡単な戦いにはならない。

 2敗勢は表にあげた4名だ。10回戦で鈴木大介九段(47)と増田康宏六段(24)の直接対決があるため、丸山九段が勝っても昇級は決まらない。

 降級点争いでは、谷川浩司九段(59)、藤井猛九段(51)、そして前期B級1組から降級したばかりの深浦康市九段(49)もピンチを迎えている。

 10回戦は2月2日(水)に一斉に行われる。

C級1組

6勝2敗の棋士は他に2名いる
6勝2敗の棋士は他に2名いる

 上位陣が軒並み星を伸ばす中、出口若武五段(26)が2敗目を喫して大きく後退した。

 首位の及川拓馬七段(34)は苦戦を跳ね返して貴重な一勝をあげた。残り2戦で1勝すれば昇級が決まる有利な位置につけている。

 そして飯島栄治八段(42)が昇級圏内に浮上して、2番手の大橋貴洸六段(29)と共に自力の権利を得ている。

 上位3名とも残り2戦に難敵が待ち受けており、すんなりとは決まらない可能性も十分にある。

 もつれてくると面白い存在になるのが6番手につける宮本広志五段(35)だ。

 10回戦では同じく2敗の高橋道雄九段(61)、最終戦では2番手の大橋六段と対戦する。連勝すれば最低でも4番手まで浮上するため、上位陣の誰かが1敗でもすれば3位までに入って逆転昇級となる。

 2敗勢はこの表以外に2名いるが、直接対決の関係で可能性があるのは宮本五段までだろう。しかし順位戦は何が起きても不思議はない。一戦を終えるとさらに混沌としてくるかもしれない。

 10回戦は2月8日(火)に一斉に行われる。

C級2組

C級2組は53名の大所帯だ
C級2組は53名の大所帯だ

 全勝だった服部慎一郎四段(22)が直接対決に敗れて初黒星がついた。勝った渡辺和史四段(27)は3番手に浮上している。

 服部四段もまだ2番手につけて自力の権利を持っている。

 唯一の全勝者である西田拓也五段(30)は直接対決を迎える。相手は1敗の本田奎五段(24)だ。西田五段は勝てば昇級決定となるが、負けると他局の結果次第では昇級圏外となる。

 本田五段は勝てば昇級圏内に浮上し、最終戦は自力となる。棋士1年目でタイトル挑戦を果たした実力者が悲願の昇級を目指す。

 藤井竜王と同学年で、今期の勝率でも藤井竜王とトップを争う伊藤匠四段(19)も1敗で追走する。好成績ながら順位下位のため現状は自力ではない(残り2戦に勝っても他局の結果次第で昇級できない)。

 1敗でも昇級できない可能性もあるほど、ハイレベルな争いだ。

 表にあるメンバー以外は2敗以下となるため、実質的にこの5名の争いか。ただ最後まで何が起こるかわからないのが順位戦の醍醐味でもある。

 今期は成績不振者が多いため順位中位の3勝なら降級点を逃れそうだ。

 昇級争いもそうだが、順位が大きく影響してくるのが順位戦ならでは。昇降級に絡まない一戦であっても、来期の順位のために各棋士は必死に戦うのだ。

 C級2組は2月3日(木)と10日(木)に分けて10回戦が消化される。

 各クラス残り2戦、まさに佳境を迎えている。

 観る側としては一番面白いところと言えるだろう。ぜひご注目いただきたい。

将棋プロ棋士 六段

1979年東京都生まれ。将棋のプロ棋士。棋士会副会長。2005年、四段(プロ入り)。2018年、六段。2021年竜王戦で2組に昇級するなど、現役のプロ棋士として活躍。普及にも熱心で、ABEMAでのわかりやすい解説も好評だ。2022年9月に初段を目指す級位者向けの上達書「イチから学ぶ将棋のロジック」を上梓。他にも「ゼロからはじめる 大人のための将棋入門」「将棋・ひと目の歩の手筋」「将棋・ひと目の詰み」など著書多数。文春オンラインでも「将棋棋士・遠山雄亮の眼」連載中。2019年3月まで『モバイル編集長』として、将棋連盟のアプリ・AI・Web・ITの運営にも携わっていた。

遠山雄亮の最近の記事