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ノルウェーのファッション業界の課題、正直に話そう

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事
北欧ノルウェーのファッション関係者は、今なにを思う

北欧ファッションは今どうなっているのだろう。

今回はノルウェーに着目。8月、首都オスロではオスロ・フュージョン・フェスティバル(Oslo Fushion Festival )が開催されていた。

ファッション、アート、カルチャーを融合した新しいフェスで、ファッションウィーク(Oslo Runway)も同時におこなわれている。

業界人が集まるカンファレンスでは、現地のファッション業界と、ファッション専門のメディア関係者が感じる「ノルウェーの課題」を正直に話していた。

この国のファッション業界は規模が小さい。だから、批判的なことを言うのは勇気がいる行為だ。

では、どんなことが指摘されたのだろう。

  • ノルウェーの文化界でファッションの居場所が小さい
  • 多くの人、特に女性のファッション関係者は公の場で議論したがらない(笑われる、ハラスメントを受ける)
  • ファッション業界は小さすぎて誰もが知り合い→批判的なことを書きにくい。意見と人格の区別ができない人が多く、「私のことが嫌いなのね」となりがちでプロレベルで議論しにくい
  • 市民は文化に興味はあるけれど、ファッションへの関心低い
  • 「ファッションは読まれない」という焦りで「どうしたらクリックしてもらえるか」ばかりをメディアは考えるようになってしまう
  • 「今年の素敵なジャケット」というような身近なテーマではないと読まれない→業界の課題を指摘・するような記事や批評が少なくなる。メディアが批判的な番犬でいることができなくなる
  • ファッション業界人は批判にもっと慣れる必要がある
  • 業界に多様性が足りない。多様性があれば炎上する差別的な服装や広告を避けることができる

「確かに」と納得する指摘ばかりだった。私も感じることはあったが、このような公の場で声に出すのは関心する。

早すぎるファッションはノルウェー文化に合わない

ファッションの移り変わりが速すぎることも指摘された。

  • 服の消費が「もっと早く、もっと早く」の循環で、トレンドはトレンドになる時間さえない
  • 急スピードすぎて創造性が廃れる
  • コロナ禍で消費と生産の量もスピードも落とす必要がある、ファッションへの関心が低くなった
  • ずっと家にいたことで、手縫いする・修理する・手作りの文化が生まれてきた。これは歓迎すべきトレンドで、ノルウェーに合っているだろう

「もっとスローファッションを」というが、ノルウェーは本当に求めるようになるだろうか。まだまだこの国の道路ではファストファッションの店に勢いがある。

前から感じるが、ノルウェー独特だなと思う議論が下記だ。

「マネキン」「ワンサイズ」問題

カンファレンスで出た意見は、

  • 店頭でマネキンが並んでいる状態だと「別のサイズある?」と店員に聞いたり探さないといけない
  • ネットにはマネキンはないので「自分はトレンドの外にいる」と心配しなくていい、安心がうまれる

他にもこの国では以前から、細すぎるマネキン、男性の性器が強調されたマネキンなど、多様性とは言い難いマネキンの形が、市民にストレスと「こうでなければいけない」「私はこうではない」という焦りをうむという声がある。

また最近では若い女性をターゲットにした店では「ワンサイズ」しか売らない場合もあり、「痩せなければいけない」「大きいサイズがあるか聞くのが恥ずかしい」という思いを抱かせることも問題視されている。

もう何年も聞いている議論なので、いずれ政治家が対策に乗り出しても私は驚かないだろう。

インフルエンサー問題は社会構造の問題

  • インフルエンサーは新商品の紹介をすることでお金をもらっている。これを批判して止めたら「この先どうしたら」と生活に困る人が出てくる
  • インフルエンサー個人の問題ではなく社会構造の問題として議論されるべき

前半に出たノルウェーのファッション業界で女性が時に公の場で意見を言いたがらないという点は、この国の議論を見ていた人なら理解できるだろう。ファッション業界ではインフルエンサーやブロガーが厳しく批判されやすく、多くは若い女性だ。無言でいることを選ぶ人がいるのは不思議ではない。

一方でインフルエンサービジネスから離れるとなると、今後どう収入を得ていけばと不安を感じている人がいることは、まだ広く認識されていない。

特定のインフルエンサーの行動を責めるのではなく、構造の問題だとして話し合うべきだという認識は確かにもっと定着したほうがいいのかもしれない。

北欧ファッションを今年最も喜ばせたニュースはVOGUE

なんだか痛い指摘ばかりが並んだが、この正直さが北欧らしさでもある。

業界内の課題や影から目をそらさずに、いい方向に変えていきたいと思う人々がいることは明るい兆しともいえる。

まずは課題を認識しなければ、変化は起こしにくい。

最後に、北欧のファッション文化業界に希望をふらせた、最近の出来事を紹介しよう。

日本ではお馴染みのファッション誌『VOGUE』 だが、実は北欧版がなかった。

発刊されたばかりの『Vogue Scandinavia』はスカンジナビア3か国(デンマーク、スウェーデン、ノルウェー)だけではなく、アイスランドやフィンランドの北欧諸国を幅広くカバーしていく。

『VOGUE』 スカンジナビア版の登場で、北欧のブランドやライフスタイルが国際市場に幅広く認知され、現地にも新しい空気がうまれるだろうという期待で、業界は活気が溢れている。

Photo&Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信16年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。北欧のAI倫理とガバナンス動向。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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