Yahoo!ニュース

上海から北朝鮮女性20人が集団脱北? 「脱北」か「拉致」かで大騒ぎとなった「2016年」の再現か!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
2016年4月に脱北し、韓国に入国した北朝鮮女性従業員12人(JPニュース提供)

 中国の上海に派遣されていた北朝鮮女性労働者と担当支配人が忽然と姿を消したことで、集団脱北した可能性が取り沙汰されている。

 一行が姿を消したのは2月中旬頃で、米国の対北朝鮮向け放送局「自由アジア放送」(21日)が大連居住の消息筋の話として「上海の衣類会社で働いていた北朝鮮の縫製工らがコロナ防疫のため隔離中に集団で消息を絶つ事件が発生した」と伝えていた。

 この消息筋によると、宿舎で隔離生活をしている最中に支配人と一緒に消えた北朝鮮縫製工は約20人。失踪は雇用人である中国人会社の社長が支配人に電話しても出なかったため不審に思い、宿舎を訪れて明らかになったとのことである。

 上海で発生したこの集団脱北事件は丹東にも伝わり、「自由アジア放送」の丹東消息筋は「集団脱北は丹東駐在の北朝鮮代表部から知らされた」と語っている。

 瀋陽駐在の北朝鮮総領事館は彼女らの集団脱北を阻止するため中国の公安当局に協力を求め、行方を追っているが、1か月過ぎても探し出せないことからすでに中国を出国し、東南アジアの第三国に潜伏しているものとみられている。

 北朝鮮からの集団脱北といえば、2016年4月に中国南東部・浙江省の寧波市にある飲食店で働いていた女性ウエートレス12人が引率者の店長とともに集団で韓国に亡命し、大騒ぎになった事件を思い起こす。

 北朝鮮はそれまでは単独にせよ、家族単位にせよ、集団にせよ、よほどのことがない限り自国民の「脱北」については沈黙していた。しかし、この時は赤十字委員会を通じて引率者の男性支配人を除く「12人は誘拐、拉致された」との談話を発表し、さらに米国のCNNの記者を招き、彼女らと行動を共にせず、帰国した7人の同僚らにインタビューさせたばかりか、脱北した12人の家族らにも引き合わせ、「娘に会わせろ、返せ」と訴えさせていた。

 さらに、北朝鮮外務省は国際人権機構に対して12人の送還のための対策を講じるよう要請する一方、韓国に対しても北朝鮮赤十字社を通じて韓国の赤十字総裁に救出を要請する書簡を送りつけていた。

 これに対して韓国政府(当時は朴槿恵保守政権)は北朝鮮の主張を「国際的イメージ失墜を挽回するための単なる詭弁に過ぎない」として一切取り合わず、また、「12人の同僚らは拉致された」と証言した7人についても「彼女らも脱北することになっていた。予定が狂って、途中で気が変わって帰国してしまった」と暴露していた。

 自らの意思による「脱北」か、それとも「拉致」かで遣り合った当時の南北の言い分を整理すると、以下のようになる。

 ▲北朝鮮側の「拉致」の主張

 その一  朴槿恵政権は「制裁が効いている」「金正恩体制は揺らいでいる」ことの証として、脱北を誘導する必要性があった。

 その二  苦戦が伝えられる総選挙の対策として「脱北事件」を起こす必要があった。選挙前に大々的に発表したのに選挙後は完全黙秘してしまった。

 その三  中国から第三国経由の一泊二日のソウル入りは韓国当局の手引きがなければ不可能である。

 その四  引率者である男性支配人が金銭トラブルを抱え、韓国情報機関に抱き込まれた。

 その五  13人の共同記者会見を一度も開いてない。マスコミのインタビューにも応じてない。

 その六  12人の女性従業員は断食闘争を行っていて、一部は失神状態に陥ったと言われているのに韓国の市民社会団体の関連情報の公開や従業員に対する弁護人の接見も拒否している。

 ▲韓国側の反論

 その一  一人、二人ならいざしらず、集団拉致は不可能である。

 その二  体の自由を奪われ、船に乗せられ連行された日本人拉致と違い、第三国を経由して空路入国している。拉致ならば、途中いくらでも逃げるチャンスがあったはずだ。

 その三  韓国に入国した際にほぼ全員がマスクとサングラスをしていた。拉致され連れて来られたなら、わざわざ正体を隠す必要はない。

 その四  身なりも怪しまれず、韓国に向け出国できるよう全員が韓国人旅行者を装っていた。拉致されたならば、全員が同じような服装は不自然である。

 その五  拉致されたならば、北朝鮮当局が真っ先に中国当局に調査の依頼や原状回復を求めてしかるべきなのにそうした動きは一切ない。

 その六  帰国した7人の証言も辻褄が合わず、説得力が乏しい。

 どちらにしても今回も、南北間で自らの意思による「脱北」か、「拉致」かで一悶着ありそうだ。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

「辺真一のマル秘レポート」

税込550円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

テレビ、ラジオ、新聞、雑誌ではなかなか語ることのできない日本を取り巻く国際情勢、特に日中、日露、日韓、日朝関係を軸とするアジア情勢、さらには朝鮮半島の動向に関する知られざる情報を提供し、かつ日本の安全、平和の観点から論じます。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

辺真一の最近の記事