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シリアに勝利も。見失うべきではない世界との距離

小宮良之スポーツライター・小説家
ブラジルW杯でコロンビアに大敗。世界との距離感を突きつけられた。(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

「世界の強豪と戦う姿をイメージし、選手をスカウティングしよう」

アルベルト・ザッケローニ監督はスタッフに対し、「想像力」を求めていた。イタリア人監督は最後の最後でらしさの幻想に溺れ、十全に選手の能力を発揮させられなかったが、選手スカウティングや日本人が最も力を出せる戦い方の追求には頷けるものがあった。追求の果てに視野が狭くなり、欧州組を強情に信用し過ぎた(欧州のクラブでプレーしている選手の方が実力を測りやすいという点で)とも言えるのだが―。

一つ言えるのは、アジアで実力を測るのは難しいということだろう。

コロンビアに勝てるのか?

ロシアW杯アジア2次予選、日本はシリアを中立地のオマーンで0-3で下し、グループ首位に躍り出ている。

日本は前半、アグレッシブな前線からの守備に苦しみ、最終ラインからのビルドアップもままならなかった。センターバックが無理矢理にボールを持ち出そうと、軽躁にも中央をドリブルし、守備ゾーンの中に突っ込む形でボールを奪われるなど、危機的シーンも少なくなかった。センターバックコンビはお互いの距離が近すぎて相手のプレスに簡単にはまり、ボランチ二人との連係も乏しく、容易に自陣から出られない時間が続いた。

後半に入ると、日本が出足で優る。シリアの足が疲労で止まったこともあり、高い位置でボールを奪い、つなげる時間が増えた。長谷部誠が自陣深くから岡崎慎司に長いボールを送り、この抜けだしでPKを奪い、本田圭佑が落ち着いて蹴り込んだ。先制後は余裕が生まれ、トップ下の香川真司が躍動、そのアシストで岡崎が追加点を挙げている。最後は本田が残したボールを、交代出場の宇佐美貴史が突き刺し、振り切った。

<前半は暑さと相手の猛気に苦しんだが、後半は修正を施し、実力の違いを見せた>

そんな戦評になるだろうか。

たしかに、ヴァイド・ハリルホジッチ監督の色は見えた。長谷部、山口蛍のボランチがボールを奪った瞬間に縦へ速く、裏への攻撃を強く意識しており、事実、彼らを起点に決定機を作っている。ザッケローニ時代にはつなぐことに没頭してしまった反省があり、マイナス点ではない。岡崎や本田のボールを引き出すランニングの質は高く、連係面も高まりつつあるだけに、指揮官の功名と言えるだろう。

<守りを固めるアジア勢よりも、前に出てくる欧州や南米の強豪に対して有効な攻撃なのでは>

その仮定も成り立つ。

しかしながら、サッカー弱小国、しかも政情不安に見舞われる国を相手に、前半は五分の内容だった。いくつかのビルドアップのミスはあまりに稚拙で、攻撃に出た瞬間に入れ替わられており、もし相手が世界のトップ30だったら、いくつかのゴールを叩き込まれていただろう。すなわち、世界を相手にしても有効に働く攻撃を見せられたが、ぞっとするミスやその時間帯があったということだ。

想像力を働かせた場合、シリアは現在行われているEURO2016予選で、一つの勝ち点も奪えない実力である。もちろん、サッカーは相手が弱くても大量得点が奪えるわけではないし、10点取ったら強い、というのも安易である。しかし真の強豪は90分の中で、弱い相手が何度か反撃の姿勢を取ったとき、そのたびに短い時間で収束させる手立てを知っている。翻って日本は、前半45分間も敵の戦い方に対処できなかった。推測でしかないが、EURO予選を本大会まで勝ち抜く力もないだろう。

「後半、シリアの体力が落ちるのを予測し、よく我慢をした」という論評は的外れではないが、世界との距離感を想定した場合、45分間も流れを変えられなかった方が深刻と言える。

もちろん、プロの勝負は一戦必勝。言い換えれば、90分間のゲームで勝ったわけだから、ネガティブに捉えるべきでもない。岡崎、本田、香川、長谷部らは随所で力の違いを見せていた。とりわけ、岡崎はプレミアリーグ、レスター・シティで試合を重ねて、腰の強さや間合いがさらに鍛えられ、PKを誘うランニングや香川へのパスの反応は迅速果敢、"予知"にさえ近かった。

ただ、彼らが世界と対等に戦えることはザッケローニ時代から実証済み、今に始まったことではない。

ブラジルW杯、ザックJAPANが沈んだコロンビア戦。局面では、日本は実力伯仲の戦いをした。不用意なタックルでPKを取られて先制された後も、本田→岡崎のラインで同点に追いついている。しかし後半になって試合の流れを奪われたとき、敵の勢いを削ぎ、もしくは奪うような老獪さはなかった。立ち竦むような守備でまんまと裏を取られ、不安定な左サイドを蹂躙され、一気に瓦解した。

ハリルJAPANがあのコロンビア戦を戦ったとして―。現状では、似たような現象が起こることは想像に難くない。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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