ノート(10) 数々の被疑者を取り調べてきた特捜検事が取調べを受ける時
~葛藤編(7)
逮捕当日(続)
取調べ室
警察と違い、検察庁には「取調べ室」という特別な部屋がない。捜査を担当する検察官は、事件記録を読み込んだり、起訴状や決裁書類などを作ったり、関係者に電話をかけるといった日々の業務を行う通常の執務室で、そのまま被疑者や参考人の取調べを行っている。
ただ、検察には他の検察官の取調べを絶対に邪魔してはならないという暗黙のルールがある。悩んだ末に意を決して自白しようとした瞬間、誰かが執務室にやってきたり、電話で取調べが中断すると、再び被疑者が殻に閉じこもってしまう可能性もあるからだ。
そこで、執務室の外には取調べ中であることを示すランプが設置されており、点灯中はその執務室に入ってはならないとされている。
他の執務室に電話をかける際も、まず冒頭で「お調べ中ですか」と尋ね、電話に出た検察事務官が「はい」と答えれば、「失礼しました」と言ってそのまま電話を切るという慣例だ。
室内の状況
執務室の構造は、どこの検察庁でも基本的に同じだ。部屋は縦6m、横3m程度の縦長で、奥に窓が、手前に出入口扉が設置されている。室内はスチール製のロッカーやキャビネットで取り囲まれており、中には法律書や大量の事件記録、書類のコピーなどが収納されている。
ただ、花を生けた花瓶を執務机の上に置いていたところ、被疑者がこれを割って凶器とし、逃走を図ったケースもあったので、室内には余計なものを置くべきではないとされている。
執務机を挟んで奥側に検察官が、手前側に被疑者や参考人が、検察官から見て右手、被疑者らから見て左手に「立会(たちあい)」と呼ばれる検察事務官が、それぞれ座る。
検察官の執務机と立会事務官の執務机の間にレーザープリンターが設置され、それぞれの執務机に置かれたパソコンと接続されている。
警察官や他の検察官らと打合せをしたり、弁護人と面談をする際は、出入口扉近くに置かれた応接セットや会議机を使う。
大規模庁だと、部屋不足などの事情から通常の3倍ほどの大部屋を3~5名程度の検察官でシェアし、パーテーションで仕切るといったケースもある。
しかし、横の声が丸聞こえで事件関係者のプライバシーも守られないので、捜査や取調べを担当する検察官には個室が割り当てられるというのが原則だ。
日輪を背に
検察官が窓を背にして座るのには理由がある。被疑者らの表情が見えやすい一方、逆に彼らからは検察官の表情が逆光で見えにくく、その心証を読み取られにくくなるからだ。
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