大谷翔平の右肘故障の原因は?上原浩治が分析&メジャーへの改革を提言
メジャーリーグ・エンゼルスで投打に活躍する大谷翔平選手が右肘靱帯を損傷し、今季の残り試合には投手として登板しないことが決まった。日米通算200勝にあと4勝に迫るパドレスのダルビッシュ有投手も右肘の炎症で15日間の負傷者リストに入った。オリオールズでは、藤浪晋太郎投手が勝ちパターンで登板する機会が増えてきたが、これも守護神で今季33セーブのフェリックス・バティスタ投手が右肘の靱帯負傷で負傷者リスト入りした影響が大きいだろう。
大谷選手、ダルビッシュ投手ともにメジャー移籍後、靱帯を再建する「トミー・ジョン手術」を経験している。大谷選手の場合は負傷した箇所が違うとされ、2度目の手術をするかなどの詳細は明かされていないが、気になるのは、メジャーの投手が肘を故障する多さだ。日本人投手も多くがメジャー移籍後、トミー・ジョン手術を受けている。日本時代の幼少期からの投げ込みを指摘する声もあるが、私は現役時代の経験からも、メジャーの「滑りやすい」ボールの影響が少なからずあると思っている。
メジャー球は、皮がツルツルしていて滑りやすく、ボールが抜けるのを避けるためにどうしても強く握ることを意識して投げなければならない。ボールを強く握った分だけ、前腕部分に余計な力が入る。医学的な見地はわからないが、私の印象としては、前腕にかかった負担が肘の故障に結びつくイメージだ。
メジャーでは21年シーズン途中、投手が強力な粘着物質を使って、ボールに不正な回転数の上昇を生んでいるとの指摘から規制と罰則が強化された。ダルビッシュ投手はこのとき、「ボールを変えることが先」と言及。私も同じ意見で過去にこのコラムにも書いた。不正投球のためであれば、規制や罰則は必要だが、滑りやすいボールをコントロールするためという目的は、投球だけでなく、けがのリスクを回避できるメリットもあるからだ。
投手側の視点だという反論があるかもしれないが、対戦する打者からみても、滑るボールが抜けて頭部や顔面に当たるリスクは避けたいだろう。
ボールが滑りやすく、ボールを滑らないようにすれば規制と罰則に阻まれる。そんな状況下で、投手が自分の握力でボールをコントロールするしかなければ、けがのリスクにつながることは容易に想像できないか。
仮にボールとけがの因果関係が薄いという結論が導かれたとしても、それを立証するためにも、いったんボールを代えてみてはどうか。MLBからすれば、メーカーとの契約などもあるだろうが、同じメーカーでも滑りにくくする工夫を促せば事足りるはずである。
滑りやすいボールには、乾燥しやすい気候も影響するという声もあるが、打球速度や投球ボールの回転数まで分析できるほど厳格なデータ管理が進むメジャーにおいて、使用するボールを湿り気のある場所で直前まで保管するなどの方法は、決して難しいとは思わない。それで、投手たちのけがのリスクが軽減されるなら対策はすぐにでも取るべきだ。
投球に関しては、「フォークは肘に負担がかかる」ということを耳にすることがある。しかし、大谷選手もダルビッシュ投手もスライダーを操る。特に最近は水平方向への変化が大きい「スイーパー」が注目され、投げる頻度も多くなっているとの報道がある。大谷選手のけがと「スイーパー」との関係を軽々には言えないが、投球フォームを見る限りは肘を下げて大きくひねっているように見える。
私自身もメジャー移籍後に右肘を負傷した経験がある。幸いにも手術はしなくて済んだが、最悪のときには、ドアノブを自分で開閉することすらできないほどの痛みがあった。注射による保存療法や、その後も周辺の筋肉を鍛えるなど、けがの再発防止には細心の注意と時間をかけた。
ダルビッシュ投手は今年2月に2028年まで6年総額1億800万ドルの契約を締結しているが、大谷選手はフリーエージェント(FA)になる今オフに見込まれる超大型契約への影響を懸念する声がある。しかし、私は投球に影響が生じたとしても、そこまで評価が下がるとは思えない。今シーズンも打者として出場を続けており、打者としての評価は揺るがない。投手としても、けがの状況にもよるだろうが、復帰したときの期待値はこれまでの実績で十分に証明できているだろう。
大谷選手やダルビッシュ投手の今後は、もちろん、本人たちの気持ちを尊重するとして、メジャーは「ボール改革に着手すべき」時期にきている。少なくとも議論はすぐにでも始めてほしい。
現在は「メジャーは滑りやすいボールが当たり前」という風潮にあるが、未来になってから「昔はめちゃくちゃ滑りやすいボールを使っていて、投手の負担が大きかった」と批判的に振り返る時代がきてもおかしくない。現在プレーしている投手たちの犠牲をこれ以上生んでほしくない。