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「新・ガザからの報告」(17) (2024年9月27日)―後編・「ミルクや衣類がない」―

土井敏邦ジャーナリスト
(テント生活/撮影・ガザ住民)

(Q・生活はどうですか?)

 生活については、非常に悪いニュースがあります。内戦が加速しています。犯罪率は信じられないほどです。
 昨夜、ハンユニスで女性が殺されました。彼女はカラシニコフ銃で90発撃たれて殺されました。30発入りの弾倉が3個分です。30代の女性でした。正確な年齢はわかりません。数日前、ヌサイラト難民キャンプで、2人の女性が同じ方法で殺されました。車が猛スピードで走って来て、通りを歩いている人びとにカラシニコフ銃を撃ち始めます。この車に乗っている襲撃者たちは、パレスチナ社会内部、人びとの間に何らかの混乱や問題、衝突を引き起こそうとしているのです。誰がやっているのかわかりません。ほんの数週間の間に10人以上が殺されています。
 また、数日前、ハンユニスで2つのファミリー間で争いが起こり、7人が死亡しました。1週間ほど前には、麻薬の売人とハマスの戦闘員との間で衝突が起こりました。その衝突で6人が死亡しました。麻薬の売人が3人、ハマスの戦闘員が3人です。

(Q・食べ物、衛生、病気など日常生活はどうですか?)

 最近、人びとはミルク不足に苦しんでいます。ミルクが手に入りません。闇市場では、1本あたり以前の20シェケル(800円)や25シェケルではなく、200シェケル(8000円)で売られています。そのため、赤ちゃん用のミルクは手に入らず、子どもの紙オムツも市場から姿を消しています。そのため、女性たちは紙オムツの代わりに何枚かの服を使っています。

 私たちは戦争の初期に何度も経験したのと同じ苦しみを味わっています。特に、高血圧や糖尿病などの慢性疾患の薬が不足しています。
 私の母は高血圧と糖尿病の両方を患っています。父は高血圧だけです。私たちはあらゆる薬局を回ってその薬を探していますが、見つかりません。UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)の診療所ではこの薬を配布していますが、ごくわずかな量です。毎月30錠を消費する予定の場合でもUNRWAは5錠を渡すだけです。彼らは人々に血圧と糖尿病の薬を非常に少量ずつ与えるだけです。この薬を町の薬局で購入しようとしても見つかりません。

【衣類がない】

 さらに深刻な問題は衣類です。ガザ地区の中央部やハンユニスの商店には、まったく服がありません。まったくないのです。一部の悪徳業者や悪徳商人が、闇市場で少量の衣類を販売しています。彼らは、倉庫にそれらを保管しているのだと思います。
 もし子ども用のジャケットを買いたいと思ったら、160シェケル(6400円)も支払わなければなりません。赤ちゃん用の小さなジャケットに230シェケル(9200円)も支払わなければなりません。闇市場で極めて少量だけ入手できますが、その価格は信じられないほどです。

 中部地区には約100万人の難民がいます。北部や南部から避難してきた人たちです。彼らのほとんどは、戦禍の中を必死に逃げ出してきたのです。彼らは家から衣類を持って逃げる時間がありませんでした。食料や身の回りのものを持ち出す時間もありませんでした。ですから、ほとんどの人は予備の服を持たずにガザ地区中部に避難したのです。

 ジャバリア難民キャンプの知り合いが、数日前、私に余分な服を譲ってくれないか尋ねてきました。彼はこう言うのです。

 「ジャバリアを離れてから今に至るまで、私はシャツもズボンも着替えていない。11ヵ月間、同じ服を着ています。11か月間、同じ服を着続けているんです。夜に裸になって、妻にその服を洗ってくれるように頼む。そして朝になると、また着るために、その服を何時間も日光に当てて乾かします」

 これはジャバリアから避難してきたこの男性だけの問題ではなく、集団的な問題なのです。多くの人が予備の服を持たずにここに来ました。残念ながら彼らはこの中部地区で新しい服を買う金がありません。

(食料配給に集まる避難民たち/撮影・ガザ住民)
(食料配給に集まる避難民たち/撮影・ガザ住民)

【エジプト側からの食料搬入は遮断】

(Q・水や食料についてはどうですか?)

 水問題は現在、いくらか改善されました。1ガロン(約4リットル)の水を買う場合、以前は3シェケル(120円)支払っていましたが、今は2シェケルで、以前より安くなっています。しかも以前より水が手に入りやすくなっています。いくつかの国際機関が塩分除去施設を提供してくれたからです。この設備が海水を真水にしてくれます。この塩分除去施設は2か所にあります。1つはデイルバラの海岸、もう1つはハンユニスの海岸にあります。
 
ヨーロッパや一部の外国のNGOや協会、人道的団体が力を貸してくれていました。彼らは時折、必要な燃料を供給しています。なぜなら、機械が作動するにはディーゼル燃料が必要だからです。

 逆に、食料状況は最近良くありません。またしても価格が高騰しています。

 以前は、貨物機がパラシュートで食料を投下していました。この活動は2ヵ月前に停止しました。現在、貨物機から投下される食料はありません。
 また、国境のフィラデルフィー回廊へのイスラエル軍の侵攻により、エジプトからの物資の流れが遮断されています。
 
現在、エジプトからの食料や物資は入手できません。なぜなら、イスラエル軍がエジプトとの国境を占領しているからです。そのため、食料の量は十分ではなく、もちろんその影響は価格に表れます。市場に出回る量が少ないため、価格は直接的に上昇しています。

 現在、私たちはヨルダン川西岸、特にナブルス市やヘブロン市から入ってくる物資に完全に頼っています。私たちが消費している食料のほとんどはヨルダン川西岸から入ってきており、場合によってはイスラエルの食料もあります。
 冷凍魚や食用油、その他の品目は、イスラエルの業者から直接入ってきています。つまり、主な供給源はヨルダン川西岸で、副次的な供給源はイスラエル市場です。

【精神状態が犯罪率の急増に】

(Q・心理・精神面についてはどうですか?)

 住民の心理状態は酷い状況です。そのことを忘れてはいけません。

 現在の信じられないほどの犯罪率の背景にある原因には、この心理的な状況が何らかの役割を果たしていると私は思います。この悲惨な現実に人びとは心理的に適応できていないと思います。彼らは苦しんでいます。多くが心理的障害を抱えています。これが犯罪率の上昇を助長していると私は思います。


人びとはフラストレーションや絶望を感じています。10日後にはガザ戦争の1周年を迎えます。人々にとって非常に過酷な状況です。ガザ戦争から間もなく1周年を迎える時期に、人びとがどれほどフラストレーションを感じているか、想像もできないでしょう。この1周年の到来は、人びとの心理に非常に悪い影響を与えています。

 彼らは、ホームレス状態が長引くのではないかと恐れています。おそらくレバノンへの攻撃が終われば、イスラエル軍はガザに戻ってくるでしょう。そして、私たちをエジプトに追い出し、私たちをディアスポラ状態にするかもしれません。ですから、1周年を迎えることによる影響は非常に深刻で、人びとは苛立ちを募らせています。

 5日前、ガザ地区では激しい雨が降りました。避難民テントは水に浸かり、テントの屋根や壁からテント内に水が入ってきて、地面からも水が湧き出て、テント内は泥水の状態です。住民はただ泥水に沈んでいきます。
 人びとはソーシャルメディアで叫んでいました。雨が止むように神に祈り、若者たちが神にこう叫ぶ動画をたくさん見ました。

「神よ、私たちをこれ以上苦しめないでください!

私たちに慈悲をかけください!

この雨を止めてください!

そうでないと私たちは泥水に沈んでいきます」

 イスラエル軍は昨日、イスラム聖戦のリーダーを暗殺しました。彼はデイルバラ町のアル・アクサ殉教者病院の庭に隠れていました。イスラエル軍は毎日の攻撃を止めていません。彼らは集中的に活動し、ハマスやイスラム聖戦の戦闘員を日々暗殺しています。(続く)

ジャーナリスト

1953年、佐賀県生まれ。1985年より30数年、断続的にパレスチナ・イスラエルの現地取材。2009年4月、ドキュメンタリー映像シリーズ『届かぬ声―パレスチナ・占領と生きる人びと』全4部作を完成、その4部の『沈黙を破る』は、2009年11月、第9回石橋湛山記念・早稲田ジャーナリズム大賞。2016年に『ガザに生きる』(全5部作)で大同生命地域研究特別賞を受賞。主な書著に『アメリカのユダヤ人』(岩波新書)、『「和平合意」とパレスチナ』(朝日選書)、『パレスチナの声、イスラエルの声』『沈黙を破る』(以上、岩波書店)など多数。

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