100年以上にわたる日本の乳児・新生児の死亡率の実情をさぐる(2022年公開版)
乳幼児の死亡率の動向
経済のよさや公衆衛生、医療技術の進歩など、社会全体にとって弱者が過ごしやすいか否かを推し量る物差しの一つとなるのが、体力が十分でない幼い子供がどれだけ生存できるかの割合。日本におけるその実情を、厚生労働省が定期的に調査・結果の発表を行っている人口動態統計の公開値を基に、新生児(産まれた日を零日とした場合、生後零日から28日未満)や乳児(生後1年未満。乳児に新生児は含まれる)の死亡率の変移から確認する。
まずは乳児の死亡数・死亡率の推移。これを1899年以降継続して直近分の2021年分まで、そして太平洋戦争後に限って再構築したもの、計2つをグラフ化する。
今回のデータ収録範囲でもっとも大きな値を示しているのが、1918年、スペイン風邪(インフルエンザ)が流行した時期。世界中で猛威をふるったインフルエンザにより、日本でも多数の人が感染、死亡者が出た。現在と比べれば医療技術・衛生環境に劣る当時は、体力の少ない乳児のリスクも高く、実に18.9%もの死亡率を示している。100人の乳児出生に対し、19人近くが亡くなる(もちろん起因はスペイン風邪だけではないが)計算。直近における2021年の0.17%を知っていると、信じられない値ではある。
これらの結果からは日本では20世紀初頭まで死亡率・死亡数が高止まりしていたこと、そして少しずつ、しかし確実にリスク軽減を果たし、1960~1970年代の高度成長期を経て、一定水準の低さにまで到達したこと、さらにそれ以降も引き続き、確実に安全化・低リスク化を推し進めていることが手に取るように分かる。
リスクがより高い新生児では
「技術の発展とともに、劇的に現れる低リスク化」は、よりリスクが高い時期を対象とした新生児でも同様の動きであることが確認できる。こちらも直近の2021年分までを反映している。
「新生児」の対象期間は「乳児」の1/12(「28日≒1か月」と「12か月」から算出)。にもかかわらず、スペイン風邪の事例の吹き出しに記述されている数字を見れば分かるように、死亡者数・率は半数近い値を示している(14万5710÷33万7919≒0.43で約43%)。この時期の新生児・乳幼児、特に新生児がいかに高いリスクを背負っているかがうかがえる。
その新生児の死亡率・死亡数も年とともに確実に減少。昨今ではほとんど直線、ゼロに近い値にまで減っているのが分かる。ちなみに直近の2021年においては0.08%(実人数658人)でしかない。
取得可能なデータのうち、もっとも古い1899年と、直近の2021年のものを併記すると次の通り。
乳幼児死亡率……15.38%/0.17%
新生児死亡率……7.79%/0.08%
※(1899年/2021年)
それぞれ約1/90、約1/97にまで減少している。現場で働く医療関係者の努力、医療保健科学の進歩、そして公衆衛生概念の普及浸透が、これだけの成果を生み出している。
わらべ歌の「通りゃんせ」のフレーズにある「七つのお祝いに お札を納めに参ります」は、当時では乳幼児の死亡率が高く、7歳まで生き延びることが今と比べて難しいため、無事に成長してその歳まで生きながらえたことを祝う儀式を表している…とする解釈がある。日本でもほんの数十年前までは上記グラフにある通り、乳児・新生児の時点で世を去らねばならない命が多数存在していた事実を、今回のグラフとともに知らねばならない。
そして数多の環境整備・各方面の努力によって現状が支えられていることを、改めて認識するべきである。「当たり前だ」「何をいまさら」とする意見もあるだろう。しかし、不確かな知識のみ、あるいは現実と物語の区別をつけずに物事を主張する人が見受けられる昨今だからこそ、その認識が求められているのではないだろうか。
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(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。
(注)「(大)震災」は特記や詳細表記のない限り、東日本大震災を意味します。
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