Yahoo!ニュース

こんまり現象はエイズ患者をも救う? 配信から1ヵ月で人々の意識がどう変わったか

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
セカンドハンドストアのイメージ写真(写真:ロイター/アフロ)

こんまりさんこと近藤麻理恵さんが、世界中で大ブレイクするきっかけになった番組『Tidying Up with Marie Kondo』(タイディングアップ・ウィズ・マリエ・コンドウ)。Netflixで配信され1ヵ月が経った。

この間人々の意識はどう変わったか?ニューヨークで話を聞いてみた。

訪れたのは、ニューヨークのブルックリンにある「Grand Street Local」のオーナー、ジェナ&ジョン・フェルドマン夫妻。同店はナイキなど、1940~90年代の希少な古着やシューズ、雑貨を取り扱っている。

ブルックリンにあるGrand Street Local。ブルックリンは古着やヴィンテージの店が多い。(c) Kasumi Abe
ブルックリンにあるGrand Street Local。ブルックリンは古着やヴィンテージの店が多い。(c) Kasumi Abe

まずこんまりさんの認知度について、「マリエコンドウのショウはもちろん知っています。私たち夫婦だけでなく知り合いもみんな、この番組を観ているわ!」とジェナさん。

毎日たくさんの人が不要になったヴィンテージを売りに来る。(c) Kasumi Abe
毎日たくさんの人が不要になったヴィンテージを売りに来る。(c) Kasumi Abe

ヴィンテージストアという性質上、番組開始以降、売りに来る人の数や売り上げに劇的な変化はまだないとしながら、

「たくさんの知り合いが番組に影響を受け、洋服の整理をして(古着屋などに)寄付しています。私たち夫婦もあと2ヵ月で第一子が生まれるので多少の整理をしてみたのですが、ヴィンテージの『コレクター』として、処分することは決して簡単ではありません

「ただしあの番組が、私たちの(自宅にある)ヴィンテージコレクションを見つめ直すきっかけになったのは確かです。私たちにとってもはや'sparking joy' しなくなったものもあったので店で売り始めました」

「あとは、洋服のたたみ方が大いに参考になったわ。ひと目で何があるかを確認できるようになったのは、(たたむのが苦手な)夫にとって特に画期的な方法でした!」

インタビューに答えてくれたジェナ&ジョン・フェルドマン夫妻。(c) Kasumi Abe
インタビューに答えてくれたジェナ&ジョン・フェルドマン夫妻。(c) Kasumi Abe

ブルックリンの人気セカンドハンドストア、Beacon's Closetでも、『コンドウ効果』を感じていると言う。店の創業オーナー、キャリー・ピーターソンさん曰く、「売りに来る人は昨年の1、2月と比べて30%増加しました」とうれしい悲鳴をあげている。

Beacon's Closet (c) Carly Rabalais
Beacon's Closet (c) Carly Rabalais
Beacon's Closet (c) Carly Rabalais
Beacon's Closet (c) Carly Rabalais

ニューヨークはコンドウしているか?

地元紙『am New York』も、Netflixのこんまり番組が開始して以来、リサイクルショップや古着屋で寄付が激増中だと報じた。

「ニューヨークは’コンドウ’しているか?」(Has New York City been Kondo’d?)という書き出しで、Lisa L. Colangelo記者はこんまりさんのことを

ペティート(小柄)でニコニコしているコンドウを観る楽しみをアメリカのファミリーにもたらし、お片付けに目覚めさせた。ちらかっている家を見せるだけのリアリティー番組とは違い、コンドウの番組はそれだけでジャッジしない、ポジティブなバイヴ(雰囲気)を持っている。

出典:am New York

と高評価。

またこれら不用品の寄付が、特にスリフトストアやグリーンマーケットの古着リサイクルコーナーで増えている背景を踏まえ、このようにレポートしている。

実際のところ、洋服を寄付している人々のうち何人がこの番組に影響を受けたのかは不明だが、人々がトラックいっぱい分の衣類や本をクローゼットから引っ張り出しスリフトストアに持って来ているのは確かだ。ブルックリンのスリフトストア「Out of the Closet」では以前、寄付される量は1人につきせいぜい1〜2袋分だったが、番組の影響で今ではユーホウルが横付けされる状態に。

出典:am New York

(*注: Thrift store: スリフトストアとは、古着などを寄付によって集め再販し、その収益を慈善活動や寄付に充てる形態の店。U-Haul: ユーホウルとは自力で引っ越しするときに借りる軽トラ)

このOut of the Closetではここ数週間、店舗スペースが寄付された大量の衣類などで埋め尽くされ、一時は寄付を遠慮する事態にまでなったと報じられた。

エイズ患者やHIV感染者をも救う

Out of the Closetは、エイズ医療財団(AHF: AIDS Healthcare Foundation)が運営しているスリフトストア。アメリカにあるスリフトストアは基本的に慈善団体のため、一部のスリフトストアではエイズ医療財団などと提携し、店内で無料のHIV検査を提供したり、エイズ患者やHIV感染者を救うべく、収益の一部を財団に寄付したりしている。

ブルックリンの別のスリフトストア「Housing Works」も、エイズ患者やHIV感染者、ホームレスなどをサポートする非営利団体。ここにもこんまりさんに影響を受けたとする顧客が来店し、寄付が増えているとか。

「エイズ患者やホームレスを助けるというミッションのための資金集めに役立っている」という感謝のコメントも、店のスタッフから聞こえている。

(Text and Photos by Kasumi Abe) 無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

安部かすみの最近の記事