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高齢者施設における感染対策と風邪ケア、医療連携

高山義浩沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科
(写真:ロイター/アフロ)

沖縄県では、新型コロナが流行しています。県が公表している定点当たり報告数では、年齢階級別にみて80歳以上が最多となっています。

もちろん、高齢者を中心として流行するなどということはありえません。最近では、風邪症状で救急受診しても、コロナの検査を希望しない方が増えています。この傾向は若者に特にみられ、検査に自己負担が生じることが影響していると考えられます。その結果、若者の感染状況は過小評価されている可能性があります。

一方、定点医療機関で院内感染が発生すると、広範囲にわたるスクリーニング検査が行われ、有症者も無症候者も全てが患者として報告されます。これにより、高齢者の感染が過大評価される傾向があります。実際には、定点当たりの報告数は、定点医療機関の院内感染の影響を強く受けており、市中での流行を正しく反映できていません。

筆者作図
筆者作図

市中での流行は捉えにくくなりましたが、集団生活を送る場所での感染拡大は依然として続いています。とくに、ハイリスクな高齢者が生活する施設では、過密状態と重症化しやすい人々が多いことから、感染が拡大しやすく、引き続き警戒が必要です。

しかし、以前のような悲壮感は薄れてきています。オミクロン株の定着とワクチン接種の推進により、重症化したり、亡くなる方が減ってきています。施設側でも感染対策やケアのノウハウが蓄積され、BCP(事業継続計画)を迅速に発動させるなど、外部からの支援がなくても機能を維持できるようになっています。

先週、近隣の高齢者施設で集団感染が発生したため、2人の入居者について往診しました。施設の許可を得て、現場で確認した事実や気づいた点を共有します。主に、地域医療に関わる医療従事者や施設職員向けの情報ですが、高齢者を介護する家庭でも参考としていただけるかもしれません。

スタッフの感染対策について

感染者のいるエリア(レッドゾーン)で装着する個人防護具は、以前の完全装備から大幅に簡略化されています。

たとえば、私がレッドゾーンに入る際にはN95マスクを着用しましたが、施設スタッフはサージカルマスクのままでした。お聞きすると、「N95を着用するのは直接のケアにあたるときのみ」とのこと。

この施設の方針は、日本環境感染学会や欧州疾病予防管理センター(ECDC)のガイドラインに準じています。ただし、換気が適切に行われていることが前提です。この施設のレッドゾーンでは、対角線上の窓が開けられていて、風通しが良く、基本のエアロゾル対策が守られていました。室内の換気扇を常時稼働させていることもポイントですね。

また、この施設では、身体接触がある場合にのみ、スタッフにガウンの着用を求めていました。ガウンを長時間着用し続けることは、スタッフにとって大きな負担となります。このような簡素化は、スタッフのストレスを軽減しています。

グローブについても、「直後に手指衛生ができるならば不要」としているのは科学的です。その代わりとして、スタッフ全員が腰にアルコール消毒液を携帯し、ケアで接触するたびに速やかに手指衛生を行っていました。

ただ、感染者の食事介助のときも「身体接触がない」という理由でガウンを着用していなかったことに関しては、「やっぱり飛沫を浴びておられるので」とガウンを着けることを提案させていただきました。

感染者をトイレに誘導する介護スタッフ。N95マスクを着けているが軽装備(施設提供)
感染者をトイレに誘導する介護スタッフ。N95マスクを着けているが軽装備(施設提供)

入居者の行動制限について

施設で集団感染が発生しているフロアには、20名の入居者がおられます。このうち9名が感染が確認され、できるだけ個々の部屋で過ごすことが求められています。残りの11名については、共有スペースであるデイルームの利用が認められていました。ただし、個々の部屋を離れる際には、マスクを着けるよう呼びかけられています。シンプルかつ良い落としどころだと思いました。

この施設に最初にうかがったとき、感染者のトイレ使用が制限され、全員がオムツ管理となっていました。これに対して、「オムツ依存になる長期的リスクを考慮し、できるだけトイレの使用は認めて、使用後に接触面を消毒する」ことを提案しました。人手があるかどうかに関わるので、最終的な判断は施設側に委ねましたが、その後、感染者もトイレを使用する方針に変わっていました。ありがとうございます。

また、このフロアの全入居者について、レッドゾーンが解除されるまで入浴は停止され、身体清拭で対応しているとのこと。入浴時には、入居者がマスクを着用することが困難であり、また介護者側もゴーグルが曇ったり、マスクが濡れたりと、ケア中に顔に手を持っていきがちになります。感染リスクが高まるため、入浴の一時停止はやむを得ないと思いました。

感染確定者以外はデイルームで過ごすことも可能。ただし、マスク着用したうえで相互に距離をとっている(施設提供)
感染確定者以外はデイルームで過ごすことも可能。ただし、マスク着用したうえで相互に距離をとっている(施設提供)

施設機能の維持について

この施設では、感染者が複数確認された直後に、BCP(事業継続計画)が発動されました。感染症や災害が発生すると、通常の業務運営は困難になります。そのため、事前に優先すべき業務を定めておき、被害状況に応じて介護サービスを調整しながら、施設機能を維持させることが重要となります。

まず、スタッフが少数でも業務が続行できるよう、業務量を半分を目途に減らしたそうです。具体的には、介助を容易にするために丼ぶり型の食事に切り替え、体温や血圧の測定回数を減らし、入浴を身体清拭に代替するなどしました。また、レクリエーションやおやつの提供も一時的に中止しました。これらの迅速な対応は、事前に計画が立てられていたからこそ可能となります。もちろん、入居者の協力あってのことです。

感心したのは、介護スタッフが足りているように見えても、まず業務量を削減したという点です。これにより、発熱などで体調が優れないにもかかわらず、職員が遠慮して業務を続けることを防ぐことができました。「困難な状況だからこそ、休めるようにする」という考え方は、メンタル面でも職員を支えたはず。

この施設では、感染確定した9名のうち、1名が入院となりましたが、あとの8名は軽症のままに回復されています。そして、今週、無事にレッドゾーンが解除となり、施設は日常に戻っておられます。お疲れ様でした。

集団感染への対応中は、食事介助が容易になるよう丼ぶり型で提供している(施設提供)
集団感染への対応中は、食事介助が容易になるよう丼ぶり型で提供している(施設提供)

感染者への医療対応について

高齢者施設で抗原検査を実施して、コロナ陽性を確認したときは、まずはかかりつけ医に連絡をすることになっています。ただ、往診対応してくれる医師もいますが、「救急搬送したら?」と診てくれない医師もいるようです。

この施設では、風邪症状のみで救急受診させることに抵抗感があったようで、そのまま市販の感冒薬で見守っているとのことでした。それでも心配な方がいるとのことで、私が往診することになりました。

その入居者は、100歳を超える超高齢の男性でした。症状は軽症なのですが、ワクチン未接種であったため、重症化のリスクが高いと考えられました。ちなみに、沖縄県におけるオミクロン株のデータでは、90歳以上のワクチン未接種者の致死率は6.08%です(3回接種者は0.58%)。

ワクチン未接種者のコロナ感染を認めたときは、発症から1日ぐらい遅れても構いませんので、日中にかかりつけ医に相談するようにしてください。そして、かかりつけの医師は、少なくとも未接種者に対しては、軽症であっても抗ウイルス薬の処方を検討していただきたいと思います。

この男性には、私からパキロビッド(抗ウイルス薬)を処方させていただきました。その数日後に訪問したときには、元気に回復し、歩行してトイレに行くことができていました。もし入院していたら、隔離ベッドで安静を強いられて、身体機能を低下させていたかもしれません。軽症である限りは、暮らしのなかで療養されるのが一番ですね。

筆者作図
筆者作図

高齢者の風邪ケアについて

コロナだからと特別視してしまい、当たり前だった風邪ケアを忘れてしまうことがあります。でも、基本に戻りましょう。すなわち、水分と栄養をとっていただきながら、発熱や咽頭痛に対して解熱剤(アセトアミノフェン)を使用することです。

熱が出始めるとき、悪寒を訴える(または、言葉にせずとも布団に潜る、小さく縮こまる)高齢者には、衣類や布団を重ねてあげてください。寒気が続くときは、葛根湯が良いです。逆に、熱が続いて籠ってくると、暑がるようになります。高齢者は十分に汗をかけませんから、水枕を腋や鼠径部にあてたりします。

咽頭痛や鼻閉については、適度な加温と加湿でも緩和が期待できます。これからの季節、エアコンの効かせすぎや過度の除湿には注意してください。部屋の換気もほどほどにしましょう。介護者が長時間いるとき以外は、感染者の部屋を換気する必要はありません。

咳が辛そうなら鎮咳薬(メジコンなど)を使ってもいいです。ただし、生理的な咳反射を低下させて、肺炎リスクを高める可能性があるため、漫然と飲ませ続けないようにしてください。漢方なら麦門冬湯ですね。小さじ一杯のハチミツには鎮咳効果があり、糖尿病の問題がなければ試してみても良いですよ(Arch Pediatr Adolesc Med. 2007 Dec;161(12):1140-6.)。

桔梗湯には、咽頭粘膜に直接作用して痛みを軽減させる効果があります(J Complement Integr Med. 2013 Dec 20;11(1):51-4.)。このため、一気に内服するのではなく、湯に溶かして「喉を浸すように」ゆっくり飲むように勧めてください。ただ、この飲み方は、誤嚥しやすい高齢者には難しいので注意が必要です。

市販の総合感冒薬があるなら、それを内服させても構いません。ただし、使い慣れたものが良いです。抗ヒスタミン剤が含まれているものは、尿閉のリスクを考慮する必要があります。尿路感染症を繰り返している高齢者には、使用を避けるのが無難です。

尿閉リスクのない市販の総合感冒薬としては、パブロン50、改源かぜカプセル、ストナデイタイムなどがあります。小青竜湯は、鼻汁やくしゃみの症状を抑えます。漢方の総合感冒薬みたいなものです。

意識レベルが低下、水分摂取が不良(尿が出ない)、息切れで会話が続かなかったり、呼吸苦を訴えている、喀痰の量が増えてきた、パルスオキシメーターの値が低下して戻らないときは、早めにかかりつけ医に相談するか、救急受診を考えてください。また、症状が1週間継続するときや、いったん軽快したのに再増悪したときは、コロナ以外の疾患が重なってきている可能性を考えて、やはり再受診を考えます。

たしかに重症化する方は減ってきました。しかし、いまだ高齢者にとって、コロナは決して「ただの風邪」と呼べるものではありません。感染を確認した場合には、慎重に経過を見守ってください。また、血栓形成など循環器系への影響のほか、糖尿病になりやすくなるなど内分泌系への影響も報告されています。

筆者作図
筆者作図

地域で対応する往診体制へ

ところで、この経過中に、発熱している80代女性がおられました。抗原検査は陰性でしたが、施設では「見なし陽性」として隔離対応をとっていました。念のため診察させていただくと、右腎に一致して双手診陽性でした。結論から言うと、急性腎盂腎炎であり、血液培養で大腸菌が分離されました。

入院すると濃厚接触者として隔離され、身体機能が低下するリスクがあります。全身状態は安定していたことから、施設職員および本人家族と相談して、セフトリアキソン(抗菌薬)を連日点滴することにしました。幸い経過は良好で、その後の訪問時には解熱していて、食事もしっかり摂取されていました。

集団感染が発生している施設とはいえ、このように日常的な感染症が紛れ込んでいることがあります。コロナによる発熱だと思って見守っていたら、実は、より重大な感染症だった・・・ ということも考えられます。最近の超過死亡の要因かもしれません。抗原検査が陽性であれ陰性であれ、ハイリスク者の発熱については、一度は医師に診てもらうのが良いと思います。

このような対応は、地域の診療所だけでは難しいでしょう。私たち病院医師によるサポート体制も組み込みつつ、地域全体で高齢者を支える仕組みを、ぜひ地域の医師会などが主導して構築いただければと思います。もちろん、コロナに限らずの話です。

◇   ◇   ◇

今後はコロナを特別視せず、しかし、コロナで培った経験を活かしつつ、インフルエンザにも通用するユニバーサルな感染対策、風邪ケア、そして医療体制へと引き継がせていくことが必要です。これこそが、コロナを5類へと移行させた「意義」ではないでしょうか?

さらなる理解のために

1) 高山義浩. (2020). 高齢者の暮らしを守る 在宅・感染症診療. 日本医事新報社.

2) 新型コロナウイルス感染症COVID-19診療の手引き 第9.0版. (2023).

3) 医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド(第5版). (2023). 日本環境感染学会.

4) 高山義浩 他. (2023). 医療機関と高齢者施設における新型コロナウイルス対策についての見解. 第118回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード資料.

沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科

地域医療から国際保健、臨床から行政まで、まとまりなく活動。行政では、厚生労働省においてパンデミック対策や地域医療構想の策定支援に従事してきたほか、現在は規制改革推進会議(内閣府)の専門委員として制度改革に取り組んでいる。臨床では、沖縄県立中部病院において感染症診療に従事。また、同院に地域ケア科を立ち上げ、主として急性期や終末期の在宅医療に取り組んでいる。著書に『アジアスケッチ 目撃される文明・宗教・民族』(白馬社、2001年)、『地域医療と暮らしのゆくえ 超高齢社会をともに生きる』(医学書院、2016年)、『高齢者の暮らしを守る 在宅・感染症診療』(日本医事新報社、2020年)など。

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