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私的興味の夏の甲子園!(8) 20年前、「三本の矢」で準優勝の近江が二枚看板で横綱に挑む

楊順行スポーツライター
近江高校は彦根城のほど近くに位置する(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

 なんとも意外なことに、近畿勢6校がそろって初戦を突破するのは大会史上初めてなのだそうだ。

 20日、前日ノーゲームとなった近江(滋賀)と日大東北(福島)の仕切り直しの一戦は、近江が8対2と快勝。

「先発の山田(陽翔)がしっかり試合をつくってくれたのは、2年生ですが大したもの。また岩佐(直哉)も"終盤をきっちり投げてくれ"というこちらの要求に応えて、立ち上がりの6回は三者三振でしょう。ベスト8だった2018年より、ピッチャーの力は上かもしれません」

 近江・多賀章仁監督はそう振り返った。

 ちょうど20年前、01年夏には準優勝している近江。そのときは竹内和也(元西武)、島脇信也(元オリックス)、清水信之介という3人の継投が勝ちパターンで、"三本の矢"といわれたものだ。むろん、戦国大名・毛利元就が3人の息子にさとした「三矢の教え」になぞらえたものだ。その夏、滋賀大会から甲子園を含めた9勝のうち、近江に完投はひとつもない。

 チームは00年の秋、01年春と滋賀県の決勝で敗退していた。00年の秋の近畿大会初戦は、神戸国際大付(兵庫)に8回裏まで3対1とリードし、8強進出、さらに翌年のセンバツ出場に王手目前だった。だがそこから、9回表に一挙6点を失って逆転負け。「いま一歩、なにかが足りないチーム」というのが、多賀監督の歯がゆさだった。

 そこで考えついたのが、3人による継投策だ。

「3人とも、抜きん出たボールがあったわけではありません。ただ、努力だけは人一倍していました。なんとか勝たせてあげたい……と考えたのが、継投策。一人では、1試合を抑えるのは厳しいかもしれない。ピッチャーは終盤に力が落ちてくるのに対し、打者は慣れてくるわけですから。ですが、3人でリレーし、力を合わせての9回なら、なんとかなるんじゃないか……」(多賀監督)

三本の矢で、頂点まであと一歩

 迎えた夏の滋賀大会。初戦から3人の継投で玉川を1安打に抑え、3対0。続く3回戦、準々決勝も無失点でコールド勝ちするなど、決勝までをわずか3失点で勝ち上がる。そして光泉との決勝は、竹内・島脇・清水で1失点。竹内と島脇は県大会全5試合、清水は4試合に登板しての優勝だ。

 甲子園でも、三本の矢は近江の勝利に貢献する。盛岡大付(岩手)との初戦は、竹内が4回を1失点でしのぐと、島脇がやはり4回を7三振。清水は9回をぴしゃりと抑えて滋賀県勢の初戦連敗を6でストップした。塚原青雲(現松本国際・長野)との3回戦は竹内が4回を1失点、島脇は2回、清水は3回を無失点である。準々決勝は竹内が3回3失点で初めてリードを許したものの、島脇が6回のロングリリーフを自責1で踏ん張って光星学院(現八戸学院光星・青森)に逆転勝ちだ。

 松山商(愛媛)との準決勝は先発の竹内が5回を3安打1失点でしのぎ、島脇は2回を1失点。打線が3点を奪って逆転した8回裏、島脇が先頭打者を歩かせたあとにマウンドに立った清水は、1死一、三塁とピンチを招くが、後続を併殺に切り抜けている。近江は9回にも1点を加え、再登板した島脇が松山商の反撃をなんとか振り切った。近畿では最弱、といわれていた滋賀県勢が、初めて決勝進出を果たすのである。

 決勝こそ、大会最高のチーム打率(当時)を記録した日大三(西東京)に屈したものの、竹内・島脇・清水・島脇・清水とつないだ3人が許した得点は5。猛打の三高打線にとって、西東京大会を通じても、この夏の最少得点だった。

20年で高校野球は変わったか

 あれから20年。当時斬新だったからこそ"三本の矢"と呼ばれた3人の継投パターンは、センバツで準優勝した明豊(大分)など、いまではよく見られる戦術になっている。そして、本家・近江にはこの夏、山田・岩佐という二枚看板がいる。滋賀大会では、おもに山田から岩佐という継投で勝ち上がり、2人とも似たような投球回で1失点ずつ。この日に互いが記録した最速も、山田の145キロに対し岩佐が146キロと接近している。

「2人のコンビネーションがすごくよかった。次の相手は横綱。決勝戦のつもりで、臨みたいですね」

 という多賀監督。2回戦では、大阪桐蔭とぶつかる。三本の矢ならぬ、二枚看板で01年の準優勝を超えたいところだ。

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は64回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて55季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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