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民法改正!女性の再婚「100日間禁止」ルールが廃止された理由は?【弁護士が解説】

後藤千絵フェリーチェ法律事務所 弁護士
(写真:イメージマート)

1 はじめに

明治時代から続いていた「女性の再婚禁止期間」は、平成28年に6カ月から100日に短縮されましたが、このたび、完全に廃止されることとなりました。

写真:イメージマート

再婚禁止期間を廃止する民法の改正案が、令和4年12月10日国会で成立したのです。

公布の日から起算して1年6カ月を超えない範囲内において政令で定める日から施行されます。

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00315.html

再婚禁止期間とは、離婚後、再婚を禁止されている期間のことです。「待婚期間」とも呼ばれています。

この制限は、あくまで女性限定です。

なぜ、女性限定?と思われるかもしれませんが、離婚後すぐに女性が再婚して出産した場合、子供の父親は前夫か現在の夫かといった争いを避けるために規定されていました。

離婚後、すぐに再婚して妊娠したようなケースでは、子供の父親がどちらかすぐに推定できない場合があるためです。

民法772条1項では、妻が「結婚期間中」に妊娠した場合、法律上、その子は夫の子と推定されると規定されています。

同2項では、「婚姻の成立の日から200日が経過した後」もしくは「離婚後300日以内」に生まれた子供もまた、婚姻中に妊娠した子として推定されるとあります。

民法上は「結婚後200日以降は現在の夫の子」「離婚後300日以内は前夫の子」と推定すると規定されているのです。

このため、離婚後すぐに再婚した場合、元夫の子と推定される期間と現在の夫の子と推定される期間が100日間重なってしまいます。

つまり両方の条件を満たす子が存在してしまうのです。

こうした混乱を避けるために、100日間の再婚禁止期間が規定されていました。

(※一定の条件があれば例外的に再婚が禁止されない場合があります。)

ただし、現在は医学が発達し、DNA鑑定などにより親子の証明をできる精度が高まりましたし、妊娠中かどうかも高精度でわかります。

女性だけに再婚禁止期間が設けられているのは不合理ですし、そもそも再婚禁止期間が必要かどうかは議論の分かれるところです。現に、先進国の多くでは、再婚禁止期間は廃止されています。

そんな批判も高まってきた中、国会で再婚禁止期間が撤廃されることが決定したのです。

実質的な男女平等にむけて、わが国も一歩を踏み出したと評価できると思います。

2 無国籍児童問題

写真:アフロ

前述のとおり、改正前の民法では、女性が離婚後300日以内に出産した場合、「前夫の子」と推定されていました。

この規定があるために女性が離婚後「再婚」して300日以内に再婚後の男性の子どもを出産した場合でも、「前夫の子」と推定されてしまいます。

このため、離婚後「再婚」し、現夫の子を300日以内に出産した女性が、前夫の子と推定されるのを避けるため、出生届を出さないという事例が多発していたと言われています。

前夫がⅮⅤ夫だった例もあり、子が前夫の子と推定されると前夫と縁が切れなくなるなど、切実な問題がありました。

とは言え、子の出生届を出さないと、子が無戸籍になってしまいます。

これは、「無国籍児童問題」と呼ばれ、行政サービスをすぐに受けられなかったりするなど、「子の福祉」に反するとして問題視されていました。

ですが、今回、再婚禁止期間の撤廃に伴い、この点も改正されることになりました。

改正民法では、離婚後300日以内であっても、女性が別の男性と「再婚」さえしていれば、子どもを再婚相手の子と推定することができるようになったのです。

3 まとめ

写真:アフロ

離婚後の再婚禁止期間は、生まれてくる子供がトラブルに巻き込まれないために必要であることから規定されましたが、規定されたのは明治時代。

ようやく離婚が成立したので早く新たなスタートを切りたい、離婚のときには再婚なんて考えられないと思っていたけれど、やっぱり再婚できたらしたいと願う現代女性には、足枷となっていたのも事実です。

パートナーとのカタチは人それぞれです。

従来の枠組みにとらわれることなく、多様性のある現代社会に沿った法改正が今後もされることを望みます。

フェリーチェ法律事務所 弁護士

京都生まれ。大阪大学文学部卒業後、大手損害保険会社に入社するも、5年で退職。大手予備校での講師職を経て、30歳を過ぎてから法律の道に進むことを決意。派遣社員やアルバイトなどさまざまな職業に就きながら勉強を続け、2008年に弁護士になる。荒木法律事務所を経て、2017年にスタッフ全員が女性であるフェリーチェ法律事務所設立。離婚・DV・慰謝料・財産分与・親権・養育費・面会交流・相続問題など、家族の事案をもっとも得意とする。なかでも、離婚は女性を中心に、年間300件、のべ3,000人の相談に乗っている。

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