「離婚調停」でメンタルを病まないためにすべきこと【弁護士が解説】
1 はじめに
「もうこれ以上この人とはやっていけない!絶対に離婚する!」と決意しても、相手が離婚に同意しないかぎり、協議離婚は成立しません。夫婦間の協議が進まない場合、次の段階として相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に「離婚調停」を申立てることになります。
日本は「調停前置主義」を採用しているため、「離婚訴訟」を起こす前に、家庭裁判所の「離婚調停」で話し合っておくことが必要なのです。
ただし、ひとくちに「離婚調停」と言っても、1回で終了する場合もあれば、1年以上続けていても解決しないケースもあるなど、「思っていた以上に大変だった」という感想を持たれる方や、最悪の場合にはメンタルを病まれる方も珍しくありません。
私は兵庫県西宮市で家事事件を専門に扱う法律事務所を経営する弁護士ですが、離婚調停が苦痛だったり、メンタルを病んだりする原因は、主に次のようなことに集約されると考えています。
① 調停に提出する書面の作成が苦痛で ある。
② 調停委員との関係が悪い。
③ 調停がいつ終了するのかわからず不安である。
そこで、今回は「離婚調停でメンタルを病まないためにすべきこと」を中心に、離婚調停での注意事項などを実務的な観点からアドバイスしていきたいと思います。
2 離婚調停でメンタルをやまないために注意すべきこととは
①調停に提出する書面の作成について
無事に調停が成立した【A子さん 40代】にお話しを聞いてみました。
『調停で一番辛かったのは、調停に提出する書面を作成することでした。相手が離婚を拒否していたので、調停委員から、なぜ相手と一緒に生活できないと思ったのか、そのきっかけとなった相手の言動を書面にして提出してくださいと言われました。実際に書面を作成する時には、相手から受けたモラハラ的な言動や辛い事実などを細部まで思い出さないといけません。思い出したくもない記憶がフラッシュバックしてきて、これが本当にきつかったです。また、相手からの主張書面を読むのも、調停委員から相手の主張を聞かされるのも苦痛でした。途中からは、相手から書面が届いても封を開けずに無視してしまいました。』
A子さんは、調停の途中から弁護士に依頼されました。
弁護士に依頼した後は、自分で書面を作成することもなくなったため、気分的にかなり楽になったとのことです。
調停では、「準備書面」や「主張書面」と言われる書面の提出を求められることがあります。口頭で言ってもいいのですが、やはり書面にするとわかりやすいため、「結婚当初~仲が悪くなったきっかけや原因~別居に至る経緯」などを時系列で提出することが有効です。
アドバイスとしては、常日頃から日記やメモをつけておき、調停で書面の作成を求められた際は、そのデータをまとめるだけにしておくとよいでしょう。日付を記載すると説得力が増しますので、意識して記録しておくとさらに良いと思います。
離婚調停に臨む場合には、急に書面の作成を求められても対応できるように、あらかじめコツコツと準備をしておくことをおすすめします。弁護士の無料法律相談を利用されてもいいでしょう。
②調停委員との関係について
【B男さん 30代】は、次のようなことに悩んでおられました。
子供に会わせてほしくて面会交流の調停を申し立てたのですが、調停委員はあからさまに妻の味方をしていて、自分は一方的に責められるばかりです。この前は調停委員から説教をされただけで時間が終わってしまいました。理不尽な扱いを受けているようで、調停に行くのが苦痛です。
離婚調停では相手ではなく、常に調停委員2名と話をします。
調停委員は、男性1名と女性1名で構成されており、裁判所から選任されている方々です(調停委員2名に裁判官1名の合計3名で調停委員会が作られるのですが、裁判官は基本的に調停室にはいません)
調停委員があなたの主張を相手に伝え、また相手の言い分をあなたに伝えてくれるのです。
離婚調停において「調停委員」といかに接するかは非常に重要なキーポイントとなります。
私の経験上、先入観を持って判断をする調停委員も残念ながらいらっしゃることは事実です。もしかするとB男さんは残念な調停委員に当たってしまったのかもしれません。
ですが、ほとんどの調停委員は公平の見地から双方の主張を聞いてくれます。
調停委員との関係をよくするための第一のポイントとしては、「決して感情的にならないこと」です。
相手の悪口を言うのはまったく得策ではありません。
弁護士に依頼している場合は、調停の前に弁護士と打ち合わせができますが、一人で戦われる場合にはこの点に特に注意が必要です。
冷静に事実を述べているつもりでも、当事者である以上つい「いかに自分が酷い目にあったか」「相手がいかに酷い奴か」を力説してしまいがちです。
感情を入れずにできるだけ淡々と事実だけを述べるようにしましょう。
一方、「これだけは許せない!」と言う部分に関しては、できるだけ詳細に具体的なエピソードと一緒に主張すればよいと思います(ただし、許せないエピソードは1つ、多くても3つ程度に収めておくことをおすすめします)。
次に、私がこれまで実務経験で得た、是非心に留めていただきたい第二のポイントをご紹介しましょう。
それは自分の意見を主張する際には「自分が苦しいから」とか「自分は被害者だ」という視点ではなく、常に「社会的正義」「公平」「子供の福祉」という視点から話をするように心がけることです。
調停委員が夫と妻それぞれの主張を聞いた上で、例えば夫の主張の方が「子供の福祉」に適っているし、「実質的に公平だ」と思ってくれれば妻側を説得してくれます。
相手の悪口を言ったり泣き喚いたり、不満や愚痴ばかりを言っていては、調停委員を説得することは難しくなります。
それでもやはり理不尽な扱いを受けていると感じるときには、率直にその旨を調停委員に伝えてみたり、書記官に相談してみたりするとよいでしょう。
③調停の期間について
【C子さん 50代】の悩みは次のようなことです。
1年以上、調停を続けています。相手が約束していた書面を出してこなかったり、欠席したりして、なかなか前に進んでいません。夫は離婚自体には同意しており、財産分与の話が争点になっているのですが、私に財産を渡すのが嫌なのか、わざと遅らせているような気がします…。私も仕事をしているのですが、平日にわざわざ仕事を休んで裁判所に行ったのに、相手が来ていないと腹立たしいやら情けないやらで…。このまま調停を続けていいのか、訴訟に移行すべきかどうか真剣に悩んでいます。
相手が約束の日までに書面を出してこなかったり、当日欠席したりすると、調停の期日は空転し、話し合いは次回に持ち越しということになります。
仕事を休んだりして、わざわざ都合をつけて出席した側は、いいようのない虚しさや苛立ちが募ります。
弁護士に依頼している場合は、弁護士のみ出席するという方法も取ることができますが、ご自身で対応している場合にはやはり調停に出席する必要があります。
相手の態度があまりに不誠実な場合は、調停委員や裁判所から注意をしてもらうとよいでしょう。それでも改められない場合は、訴訟も視野に入れる必要があります。
ただし、訴訟になると時間や費用もかかることになりかねないため、訴訟に移行するタイミングは弁護士等の専門家に相談することをおすすめします。
3 おわりに
離婚調停が成立すれば、お互いの署名・捺印などすることなく離婚が成立します。離婚調停でも、離婚届にお互いの署名・捺印が必要だと思われている方が多いのですが、「お互いの署名・捺印は不要」です。
裁判官が調停条項を読み上げてお互い承諾すれば離婚は成立しますので、ある意味離婚調停は楽チンなのです。
あとは調停成立日を含めた10日以内に、調停調書を持参して市役所に届け出をすればいいだけです。
夫婦間で協議を続けていてもなかなかまとまらない、話し合いが平行線で全く進展しないという場合には、タイミングを見て離婚調停に切り替えることを検討する必要があります。
タイミングについては弁護士等の専門家に相談されると良いでしょう。
一人でお悩みになるより専門家に相談することでだいぶ気持ちは軽くなると思います。
今回の記事をぜひ参考にしていただき、メンタルを病むことなく、離婚調停を無事に乗り切っていただくことを願っています。
以 上