奇跡の9連休!年末年始に言ってはいけない「言葉」とは?熟年離婚に至る夫婦の共通点を弁護士が解説
1 はじめに
もうすぐお正月休み。
今年の年末年始は奇跡の9連休とも言われており、例年にない長い休みを楽しみにされている方も多いと思います。
ところが実は、こういった連休の中での些細なやりとりから離婚に発展するケースも多いのです。
私は兵庫県西宮市で家事事件を中心とする法律事務所を経営する弁護士ですが、多くの離婚相談を受ける中、「離婚の直接のきっかけになった出来事」についてお聞きすることがあります。
もちろん答えは人それぞれなのですが、こと女性に関しては、夫から放たれた何気ない一言や、悪気のない行動がどうしても許せず、離婚の決意をするきっかけになったと訴えられることが珍しくありません。
一方、離婚を切り出される男性側にしてみれば、「そんなこと言ったっけ?」と狐につままれるような気持ちになることも…。
現在、「熟年離婚」は年々増加中です。
一般的に婚姻期間が20年以上の夫婦が離婚することを「熟年離婚」と呼んでいますが、昭和60年(1985年)には12,3%だった熟年離婚率は、平成17年(2005年)には15,4%となり、令和3年(2021)年には21,1%まで上昇しています。
人生100年時代の現代、子育て後に熟年離婚を選択する夫婦は、今後ますます増加することが予測されます。
特に現場感覚からすると、熟年離婚は、女性側から切り出されることが多いように感じます。
誤解を恐れずに言えば、熟年離婚を切り出されて「損」をするのは大抵の場合、男性側。
なぜ「損」をするのかは後でご説明するとして、今回は、万が一にも奇跡の9連休の間に「離婚」という事態に発展しないように、年末年始に気をつけたい言葉、NG行動についてご説明したいと思います。
2 専業主婦A子さんのケース
早速ですが、昨年末にご相談に来られたA子さんのケースをご紹介しましょう。A子さんは50代の専業主婦。昨年、一人息子の就職が決まり一人暮らしを始めたため、夫婦二人で暮らしています。
ようやく子育てが終わり、久しぶりに夫婦だけで年末年始を過ごすことになりました。のんびり旅行でもしようかと楽しみにしていたのです。
ところが、年末年始の予定を決めようと夫に相談したところ、「面倒くさい!」、「疲れた~」を連発。あろうことか、「暇なら、掃除でもすれば?」…と。
専業主婦に休みはないし、掃除なら毎日していると腹が立ちました。
思えば、夫は私のことを気にかけてくれたことはありません。
私がなんでもするのがあたりまえのように思っていて、「俺が苦労して稼いだ金」「俺が稼いだ金で建てた家」が口癖です。
子供も独立しましたし、熟年離婚を真剣に考えています。
結局、A子さんは、なんと正月三が日に夫に離婚を切り出し、双方弁護士を立てて争う事態に発展してしまいました。
3 年末年始に気をつけたい言葉、NG行動とは?
なぜ、年末年始は特に言動に気をつけるべきなのでしょうか。
それはやはり、休暇前の気のゆるみから相手の気持ちに配慮しない言動をしてしまったり、実家に帰省して気が大きくなってしまいがちだからです。
A子さんの夫の言動にもみられるように、年末年始は「これから休みだ!」と安心するため、普段は言わなかった「不満」「愚痴」「文句」を言ってしまいがちです。
例えば、「ああ、疲れた~」とか「今年は(俺は)大変だったな…」等々。
その言葉自体には問題はありませんが、忘れてはいけないのは妻も同じ状況であるということ。
「自分ばかりが働いている」「自分だけが苦労している」「お金を稼いでいるのは自分」という気持ちが根底にあると、つい「しんどいのは自分だけ」と言った言動をしてしまうことがありますが、妻側は内心カチンと来ているので注意しましょう。
妻の立場にも思いをはせ、「今年1年お疲れさま」とか「お互いよく頑張ったね」と言った妻も労わる言葉に返還するといいでしょう。
また、妻の慰労をせずに自分だけ飲みに行ったり、遊びに行ったりするのも注意が必要です。
酷い方になると、妻が帰省中に友人たちを家に招き入れ、どんちゃん騒ぎをしたケースもあります。帰省から帰った妻は、部屋の惨状を見て数カ月間口をきかなかったとか…。
専業主婦には、基本的に「忘年会」がありません。年末年始に家族で食事に行ったり遊びに行ったりすることを楽しみにして、日々の家事や育児を頑張っている女性もたくさんいらっしゃいます。妻への配慮を忘れないことが大切です。
あと忘れてはいけないのは、年末年始でクローズアップされる「帰省問題」。
どちらの実家に帰省するのか、先にするか後にするかという問題も、当事者からするとかなり深刻です。
義実家にいやいや帰省し、ただでさえ居場所がなくて苦痛なのに、夫から「料理も作らなくていいし、のんびり楽をしているね」と嫌味を言われたり…。
さらには、何日も義親族の集まりの洗い物や雑用をさせられた…等々。
いずれも、その後、離婚したり、離婚協議中の妻側のエピソードです。
帰省中の妻へのフォローは必須と言えるでしょう。
4 終わりに
夫側からすると、仕事でも気を遣い、せっかくの長期休暇でも家庭で妻や子供に気を遣い、気を抜くところがない、ストレスが溜まって大変だ、なぜそんなに夫側だけが負担をしないといけないのか⁈とご立腹なさる方もいらっしゃるでしょう。
冒頭で「熟年離婚は男性側に不利」と言いましたが、まさにそのことが理由なのです。熟年離婚は男性側には厳しい現実になりがちなのです。
熟年離婚は男性側が不利になる要素がたくさんあります。
1 妻の年収が夫より低い場合、別居をすると「婚姻費用(=生活費)」を毎月支払う必要が出てきます。毎月の婚姻費用の支払いが経済的に負担となる男性は少なくありません。婚姻費用は妻が一方的に出て行ったとしても、免れるのは基本的に難しいです。婚姻費用の支払いは離婚をするか別居を解消するまで続きますが、支払いを怠ると給与を差押えられることもあるため、注意が必要です。
2 財産分与は、夫婦共有財産の2分の1となります。退職金や企業年金、財形貯蓄、株式も原則として財産分与の対象となります。
3 得てして子供は母親側につきがちなので、気を付けないと寂しい老後や孤独死が待っているということにもなりかねません。
4 年金の分割割合は2分の1でほぼ決まってしまいますので、ご自身の年金は離婚すると少なくなります。
5 持ち家も財産分与の対象となるため、状況次第では自宅に住めなくなったり、売却して手放す羽目になりかねません。さらにオーバーローン(住宅の評価額よりもローン額が大きいこと)の場合は、売るに売れず、処分に困ってしまうこともあります。
怖がらせるわけではありませんが、熟年になればなるほど夫側に離婚するメリットが少なくなってくることも、また事実なのです。
そこで、年末年始の休暇こそ、ぜひ1年無事に過ごせたことを夫婦で喜び合い、お互いを労り合う時間を持たれることをおすすめします。
一言、優しい言葉をかけてもらっただけで、1年の苦労が報われたと言う女性もたくさんいます。
それさえ難しいという方は…せめて、不用意な発言で妻を怒らせないように、自分勝手な言動をしたせいで年末年始に離婚協議が始まると言った事態にならないように、年末年始の長期休暇中は細心の注意を払っていただきたいと思います。