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中国人経営者が稲盛和夫氏を尊敬する理由 著書は書店に平積み、ベストセラーに

中島恵ジャーナリスト
(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

8月30日、京セラの創業者で、日本を代表する経営者のひとりである稲盛和夫氏死去のニュースは中国でも速報された。稲盛氏の経営哲学などを学ぶ勉強会、盛和塾は中国に約1万5000人以上の会員がおり、全国各地に支部がある。

アリババ創業者のジャック・マー氏、ファーウェイCEOの任正非氏なども稲盛氏を尊敬し、交流していたことで知られる。稲盛氏の経営哲学は、なぜここまで中国人経営者の心に刺さったのか?

中国でも訃報が大きく報じられる

稲盛氏死去のニュースは「環球時報」など主要メディアで速報された。中国のSNS、微博(ウェイボー)では、同日午後4時(日本時間)時点で検索ランキングのトップとなり、コメント欄には「偉大な企業家」「日本の経営の神様、安らかに」など追悼の言葉が多数書き込まれた。

検索サイト「百度」では「稲盛和夫氏死去。2社の世界500強企業を創設した」という記事が紹介されていた。

中国でとくに有名なのが稲盛氏の著書(翻訳書)だ。中でも2004年に発行された『生き方』(中国語タイトル:『活法』)は約550万部を超える大ベストセラーで、現在でも、中国の大手書店に行けば、たいていどこでも平積みされているといっていいほどの人気ぶりだ。

中国の書店で売れている稲盛和夫氏の著書のひとつ(筆者撮影)
中国の書店で売れている稲盛和夫氏の著書のひとつ(筆者撮影)

稲盛氏の著書は世界中で翻訳されているが、翻訳書の大半を占めている国が中国と言われ、その人気ぶりは日本に匹敵するといってもいいほどだ。

中国各地にある盛和塾

1983年に若手経営者の勉強会として発足した盛和塾も、日本では稲盛氏が高齢であることを理由に2019年に終了したが、中国ではその後も拡大を続け、会員数は約1万5000人に上る。

中国でも稲盛氏の経営哲学や人生哲学を学びたいという経営者が多く、各地で発表会、総会、支部会などの活動が盛んに行われている。参加者の多くは中小企業、中堅企業の経営者や、その幹部たちだ。

筆者も2017年、広東省を訪れた際、盛和塾の勉強会を見学したことがあるが、30~50代の若手経営者が会議室に70~80人ほど集まり、稲盛氏の著書をバイブルとして、朝から夕方まで熱心にディスカッションしたり、発表したりしていて、その熱量の多さに圧倒された。

利他の精神に感銘を受けた

当時、その勉強会に参加していたアパレル企業の40代の経営者は「経済成長の波に乗り、ある程度までは躍進できたのですが、その後、業績が上がらなくなった時期がありました。自分は人間的に何かが欠けているのか、会社を成長させていくにはどうしたらいいのかと悩んでいたとき、稲盛先生のご本、そして、盛和塾の存在を知りました。

稲盛先生の『利他』の精神や『敬天愛人』という考え方に感銘を受け、自分自身の人間性をもっと高めていくことが大切だと考えさせられました」と語っていた。

日本と比べ、中国の経営者は若い。著名なジャック・マー氏もまだ50代後半だが、多くの企業の経営者が50代以下で、経営者の先輩は少ない。日本のように長く続いている老舗企業も少なく、経験が浅い経営者が多い。

30代で成功を手にした経営者も多いが、生き馬の目を抜く中国では、ある程度成功を収めても、その後行き詰まったり、経営が急速に悪化したりすることも珍しくない。そんなとき、お手本となったのが、中国の国学、仏教の教えなどにも通じる稲盛氏の考え方だった。だからこそ、稲盛氏の経営哲学は彼らの心に刺さったのだろう。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「日本のなかの中国」「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミア)、「中国人のお金の使い道」(PHP新書)、「中国人は見ている。」「日本の『中国人』社会」「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国を取材。

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