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【落合博満の視点vol.13】フリー打撃で右打ちはするな――コロナ禍の個別練習で意識したいこと

横尾弘一野球ジャーナリスト
「ティー打撃では、何よりトスを正面から上げること」と落合博満は語る。

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で緊急事態宣言が発出されてから、野球界では実戦はおろか、チーム全体の練習も自粛している。投手なら走り込みや投球練習、野手はトレーニングやマシン相手の打撃練習を個別にこなしているようだ。つまり、冬場の自主トレに取り組んでいるようなものなのだが、こうした練習で大切なことは何か。落合博満は、あくまで基本に立ち返ることだと説く。

「練習とは、徹底して基本動作を体に染み込ませるもの。それに対して実戦では、どんな形でも結果を残さなければいけない。だから、実戦的な動きはシート打撃や紅白戦など、実戦形式の練習の中で覚えるべきだろう」

 どういうことか。例えば、フリー打撃では技術向上のほかにボールの見方、タイミングの取り方を身につける。ゆえに、センターを中心に打ち返すこと意識し、自分のフォームを固めていく。

 時折、右打者がランエンドヒットの際に一塁走者の背中を目がけて強いゴロを打ち返せるよう、普段よりボールを引きつけて右方向に打球を集めている練習を目にする。落合は、こうした実戦を意識した練習を否定はしない。

「ただ、フリー打撃は理に適ったフォームを固めたり、試合前にフォームが崩れていないか確認するもの。どんなボールでも右方向に打とうとすれば、意図して崩したフォームで打つ場合もあるでしょう。それはフリー打撃よりも、実戦形式の練習の中で取り組んだほうがいいと思う。フリー打撃は、あくまでも正しいフォームで取り組み、その打ち方の再現性を高めていかなければいけない」

 また、ティー打撃でも悪いクセを矯正したり、下半身を使ってスイングすることを意識させるため、工夫を凝らした形で取り組んでいる場合がある。

「どんな形でも意味がないとは言わない。でも、斜め前からトスされたボールを打っていれば、気づかぬうちに外から引っ張り込むようなスイング軌道になってしまう。だから、トスは正面から上げてやるか、スタンドに置くティーにしなければ効果は出ないでしょう」

練習の仕上げにノックを打つ

 このように、基本動作と応用動作をしっかり分けて身につけるべきだと説く落合は、現状のように個別練習で技術を磨き上げるには、「ノックをすればいいと思う」と言う。

「ボール籠1つでも2つでもいいから、自分のバットで外野に向かってノックを打つ。目一杯の力を使わなくてもいい。右打ちなら左手にバットを持ち、右手をクロスさせるようにトスを上げて打つ。この動作を繰り返すことによって、重心を移しながらトップからミートポイントへ無駄なく振り出すことを覚えられる。毎日の練習の仕上げに取り組めば、1週間、10日後にはフリー打撃の打球が変わってくると思う」

 思い通りに動けないストレスはあるだろうが、それでもコツコツとスキルアップしなければならない若手選手にとっては、落合式の基本に立ち返った練習法を試してみてもいいのではないか。

(写真提供/小学館グランドスラム)

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

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