Yahoo!ニュース

【夏映画の結果】国内興収、総合は平均クリアでも期待ハズレの作品多く…。全米は「悲劇」の夏に

斉藤博昭映画ジャーナリスト
今年のサマームービーでトップに立つ可能性がある、『ミニオンズ』新作

一年の興行収入のカギを握る、7〜8月公開のサマームービー。9月も2週目を迎え、その結果がほぼ判明したが、今年は日本も、全米も、「地味」な印象になったのは否めない。

まず日本国内だが、例年のように、その年のメガヒット作として記憶される作品が夏に登場したか……という点では少し物足りない。

サマームービーのトップになりそうなのは『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』と『怪盗グルーのミニオン大脱走』で、ともに興収70億円前後。悪くない数字だ。とくに『怪盗グルー』は過去のシリーズから大きく数字を伸ばしている。

しかし、ここ数年のサマームービーと比べると……

2016年

君の名は。』→252億円

シン・ゴジラ』→82.5億円

2015年

ジュラシック・ワールド』→95.3億円

2014年

STAND BY ME ドラえもん』→83.8億円

2013年

風立ちぬ』→120.2億円

ものすごい数字が並ぶ(2012年の『BRAVE HEARTS 海猿』が73.3億円と、今年に近い数字)。過去4年のサマームービーは、その年を代表するヒット作になったが、今年はそこまで行ってないという印象が強い。

公開前には高い期待を寄せられた作品もあった。“ポスト・ジブリ”の『メアリと魔法の花』や、“ポスト君の名は”と言われた『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』、そしてファン待望の実写化『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』あたりだ。『メアリ』は30億円以上を超え、『打ち上げ花火』もそのあたりまで行きそうだが、ともにポテンシャルを考えると成功とは言いがたい。『ジョジョ』に関しては、残念の一言である。

それでも『銀魂』、『劇場版ポケットモンスター キミにきめた!』、『スパイダーマン:ホームカミング』、『君の膵臓をたべたい』、『関ヶ原』、『忍びの国』が、25〜40億円あたりで団子状態なので、全体の数字は「平年並み」に落ち着きそう。上位2本が70億円で、以下8本が平均30億円とすると、トップテンの合計が380億円。同じ条件で、7〜8月公開の各年のベストテン興収を合計すると……

2016年 616.1億円

2015年 462.6億円

2014年 392億円

2013年 382.5億円

2012年 335億円

2016年は『君の名は。』で突出したが、2012〜14年と今年はほぼ同レベル。ただ、繰り返すが、もっと数字を伸ばせる作品があったので、映画業界としては2015年くらいの数字に到達したかったはずである。

ここ数年で最も低調だった、アメリカの夏

一方で、ハリウッドの今年の夏は、はっきり言って惨憺たる状況だった。

象徴的なのが、8月の最後2週と9月の第1週で、ここで3週連続1位となったのが『ヒットマンズ・ボディガード』(日本では現在、NETFLIXで配信中)。「V3」といえば聞こえはいいが、3週連続1位なのに3週の興収トータルが5500万ドル。作品からしたら順当な数字ではあるが、超大作とはいえない、小粒のアクションコメディ(主演がライアン・レイノルズ&サミュエル・L・ジャクソン)が1位をキープするという、ちょっと異様な状況になったのである。

この夏、北米では『ワンダーウーマン』が4億1000万ドル、『スパイダーマン:ホームカミング』が3億2600万ドル、『怪盗グルーのミニオン大脱走』が2億5900万ドル、『ダンケルク』が1億8100万ドルという数字を叩き出したとはいえ。ここ数年の数字と比べると明らかに低調。8月は、「今世紀最低」という数字の週が続出し、総合でも2010年以降でワーストの夏になってしまった。

先週末末公開の、スティーヴン・キング原作の『IT/イット“それ”が見えたら、終わり。』は、初日で5000万ドルを超え、週末で1億ドルを軽々と突破してきたので、秋からの盛り返しに期待がかかるが、果たしてどうなるか。『ジャスティス・リーグ』や『ブレードランナー 2049』のような超期待作も控えるなか、この夏、『ベイビー・ドライバー』や『ダンケルク』が当初の予想を超えてすんなり1億ドルを突破したように、サプライズのメガヒット作品が多数出てくることが望ましい。

『怪盗グルーのミニオン大脱走』

全国公開中 配給/東宝東和

(c) Universal Studios

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、スクリーン、キネマ旬報、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。連絡先 irishgreenday@gmail.com

斉藤博昭の最近の記事