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主役はW杯優勝コーチ、22歳の社長と若者たち B1最短昇格へ勢いづく佐賀バルーナーズ

大島和人スポーツライター
指示を送るルイスHC(右)と通訳する保田AC(中央) (C)サガスポーツクラブ

佐賀が微差でB3首位に

新型コロナウイルス感染症の影響で、多くの競技が影響を受けている。バスケットボールも男子の全国リーグはB1からB3まですべてリーグ戦が停止中だ。

B3のレギュラーシーズンは5月3日閉幕で、予定は60試合。9月14日に開幕し、各チームは40試合を消化している。2月末時点の順位表を見ると上位は大混戦だ。

1位 佐賀バルーナーズ    30勝10敗

2位 アイシンAW

  アレイオンズ安城    29勝11敗

3位 豊田合成スコーピオンズ 29勝11敗

4位 岩手ビッグブルズ    29勝11敗

5位 トライフープ岡山    23勝17敗 

※勝率が同じ場合は当該クラブ間の対戦成績で順位を決定

つまり「4強」が1ゲーム差にひしめき合っている。

B1とB2は「公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ(Bリーグ)」が統括している。少し分かりにくいのだが、B3は実業団とプロが混ざっていて、「一般社団法人ジャパン・バスケットボールリーグ」という別組織。B2への昇格枠は今季が「0.5(1チームがB2最下位との入れ替え戦に進む)」で、来季が「1.5(自動昇格枠が設けられる)」と狭き門だ。

上を目指すクラブが増えたB3

アイシンAW、豊田合成は名前で分かるように実業団チームだ。一方で岩手ビッグブルズは2019-20シーズンにB2ライセンスの交付を受けている。佐賀バルーナーズ、トライフープ岡山もBリーグの準加盟クラブだ。昇格戦線を一言で表現すれば佐賀と岩手が激しく競り合い、岡山が追走する状態だ。

岩手はbjリーグやB2の経験を持つクラブだが、佐賀と岡山は今季から全国リーグに参入した新興勢力だ。

B3には「上昇志向」を感じるクラブが多い。5強に入っていないクラブにも興味深い動きがある。6日には横浜DeNAベイスターズの初代社長で、球団改革に手腕を振るった池田純氏の埼玉ブロンコス買収が報じられた。Jリーグの横浜F・マリノス、清水エスパルスで社長を歴任した左伴繁雄氏についても、B3ベルテックス静岡のエグゼクティブスーパーバイザー就任が発表されている。

佐賀に集う人材

佐賀は勢いと、現場のB3離れぶりが凄い。ルイス・ギル・トーレスヘッドコーチ(HC)はスペイン男子代表のアシスタントコーチ(AC)として昨年9月のワールドカップ中国大会で世界一に貢献。今も同職を兼務している。

また保田尭之ACは昨シーズンまで熊本ヴォルターズのHCを3季に渡って務めていた。2017-18シーズン、2018-19シーズンはクラブをB1昇格寸前まで導いた手腕を持ち、しかも30歳と若い。

もうひとり気になっていたのが特別指定選手としてプレーしている21歳のポイントガード(PG)の澁田怜音だ。盛岡南高3年生(2016-17シーズン)、駒澤大1年生(2017-18シーズン)の冬にも特別指定選手として岩手ビッグブルズ(当時B2)でプレーしている。高3時は17試合に出場して出場時間が11.7分、4.2得点というスタッツも残した。現在は大学3年生だが、佐賀でも主力として起用されている。

そして佐賀の竹原哲平社長は22歳。日本のプロスポーツ史上、最年少の経営者だろう。

保田ACは「学び」を求めて佐賀へ

2月24日、御殿場市体育館で静岡と佐賀の対戦があった。佐賀が静岡を98-84で下し、11連勝を飾っている。会場で保田AC、澁田選手、竹原社長に話を聞くことができた。ルイスHCはワールドカップ予選に帯同していて、この試合は二人のACが指揮を執っていた。

保田はルイスHCについてこう述べる。

「僕はそもそも彼を求めてここに来ている。B1とB2の話がある中で、B3でアシスタントコーチをすると決めたのは、もっと学んで行くべきことがあるからです」

熊本時代は攻撃力の卓越したチームを作っていた彼だが、守備に課題意識を持っていた。

「僕は昨シーズン、Bリーグの中でオフェンス効率の最も高いチームを作ることができた。でもディフェンス面でもっと改善していけるのではないか?という思いがあった。ルイスは今、スペイン代表でディフェンスのトップコーチを担っている。彼の知識が代表の中で使われて、今それを僕たちも使っている」

「世界で一番モダンな、効いているディフェンス」

保田ACは大阪外国語大でスペイン語を学び、熊本のコーチに就く前はスペインにコーチ留学をした経歴も持っている。したがってスペインのスタイルに造詣が深く、ルイスHCとは直接コミュニケーションも取れる。

24日の試合で佐賀は2-3、3-2のゾーンを使い分けて悪い流れを断ち切り、相手を突き放した。保田ACは言う。

「ゾーンの仕組み、ディフェンス(DF)のバリエーションと、ピック&ロールの守り方はスペインが今回W杯を獲得するにあたってキーだったと思うんです。世界で一番モダンな、効いているディフェンスが何なのかを学びながら、今自分がディフェンスのコーチをさせてもらっている。ここの経験を経てオフェンス、ディフェンスの両面で長けたコーチになっていける自信も持てるようになりました」

経験者のアドバイスで体制整備も

佐賀は2018年に設立されたばかりの新興クラブ。プロの体制を整えるためのアドバイスもルイスHCや保田ACの仕事だ。練習環境、遠征時の宿泊や食事などプロとしてのスタンダードがある。一方で理想と別に現実もある中で、どう他の選択肢を探るか?という柔軟性も必要になる。

保田ACは「正直B3レベルでなく、それ以上の環境だと思っています」と佐賀の体制を称賛し、さらにこう述べる。

「僕が日本の経験者で、ルイスHCは世界の経験者。環境を整備しないといけないよという部分と、世界はこのレベルでやっているという部分と、そのエッセンスをクラブが理解してくれている。それで僕たちは初めてのプロのバスケットリーグに馴染んで、今上手く結果を出し始めているのかなと思います」

澁田は名将の指導と実戦を求めて加入

澁田の獲得をルイスHCに進言したのも保田だ。

「僕が(熊本の)HC1年目と2年目に彼が特別指定で岩手にいて、アウェイで対戦させてもらった。彼がピック&ロールから3ポイントを決めてくるシーンもあった。『彼が今どうしているんだろうな』というときに、僕らもPGを探していてリストに澁田の名前があった。僕は当時の映像を引っ張り出して、今の大学のパフォーマンスも見たんですけれど、1週間足らずで練習に越させて即決しました。彼には才能もあるし、真面目な姿勢と、将来良くなるすべてを持っているに近い選手だと(ルイスHCに)断言してリクルートしました」

澁田は佐賀入りを決めた理由をこう振り返る。

「もう少し待てば(B1やB2の)可能性としてあったんですけれど、保田さんもすごく良いコーチだし、世界と戦っているルイスがいるのは大きい。色んな人の意見を聞いて『試合の中でしか学べない部分が大きい』と思いました」

澁田自身が「オフェンスは割と手応えを感じています」と口にするように、今季は20試合で平均21.8分、8.9得点と主力級のスタッツを残している。

澁田怜音選手 (C)サガスポーツクラブ
澁田怜音選手 (C)サガスポーツクラブ

エネルギーの「伝染」が生む好結果

彼はルイスHCについてこう述べる。

「戦術は僕がわからないことが多すぎるので、これがいいとか悪いとは言えないですけれど、試合前のメンタルの持っていき方が違う。ルイス自身が凄くエネルギーを持ってやっていて、それが選手やスタッフに伝染して、チームに伝染して、それでいい結果が生まれている」

佐賀のクラブカラーについてはこう評する。

「社長は気さくに話せるし、選手との距離もない。誰とでもコミュニケーションを取れるいい関係だなと思います。チームのコンセプトとして『ファミリー』を掲げていると入る前に話をされていたけれど、まさに家族と同じように扱ってくれる。練習中も選手はコーチに、コーチは選手、スタッフに対してリスペクトを持ってやれている」

目標は21−22シーズンのB1 入り

強化が進んでいる一方で、今季の平均観客数は400人台と少なく、営業面でのテコ入れは必須だ。しかしクラブはB2の先を見越して「B1への最短昇格」を目指して動いている。2023年の佐賀国体(国民スポーツ大会)に向けて、現在佐賀市内にはB1規格のアリーナも建設中だ。

竹原社長はイギリス暮らし、イタリア留学の経験を持ち、複数言語が堪能。アグレッシブな経営者であることは間違いないが、話をお聞きして浮ついた印象は一切なかった。サガン鳥栖の社長を務める父・稔氏の存在がその信用を担保している部分はあるだろうが、悪い意味での若さは感じない芯の通った大人だ。

クラブ体制の充実は急務だが、現在8名のクラブスタッフをこの5月までに12名まで増やす予定。九州のバスケ好きがクラブの門を叩き、竹原社長は連日のように面接をこなしているという。クラブという「気球」は今まさに飛翔しようとしている。

リーグ戦の再開が予定通り行くかどうか予断を許さない状況下で、未来を語ることは性急かもしれない。しかしバスケ界が発展していくためには「下からの底上げ」「全国への広がり」が欠かせない。佐賀でいま若者たちが見せている奮闘は、日本バスケの未来を感じさせる明るい兆しだ。

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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