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イスラエル軍、ハマスによる偽情報の拡散に注意喚起「必ず情報源を確認してファクトチェックを」

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

イスラエル軍「ハマスによる根拠のない偽情報が大火のようにあっという間にSNSで拡散されています」

2023年10月7日に武装集団ハマスがイスラエルに攻撃をしてから、多くの国で反イスラエルの人々が反ユダヤ主義的な行動やデモをしている。反ユダヤ主義的な発言もインターネットの書き込み、SNSなどで多く拡散されている。偽情報も多く拡散されている。動画や画像を切り抜いたり、生成したりして偽の画像や動画も簡単に作ることができ「いかにも事実かのように見える偽情報」も多い。特にX(旧ツイッター)でリポストや「いいね」の数が多くついて拡散されていると、多くの人は偽情報と疑わずに正しい情報だと信じてしまう。

2024年1月にはイスラエル軍は、公式YouTubeでハマスによる情報操作に対する注意喚起を促していた。「戦争は戦場だけで行われるものではなく、SNSなどネット上での情報戦争も重要になってきています。ハマスによる根拠のない偽情報、フェイクニュースが激しく急激に広がる大火のようにあっという間に世界中に拡散されています」と訴えて、最後に「情報やニュースが正しいかどうか、必ずソースにあたってファクトチェックをしてください」と伝えていた。

▼YouTubeでハマスによって操作された偽情報の拡散に注意喚起をするイスラエル軍

ホロコーストも偽情報の流布から始まり、最後は600万人のユダヤ人が犠牲に

第2次世界大戦時にナチスドイツによって行われたユダヤ人の大量虐殺、いわゆるホロコーストも、最初はユダヤ人を差別、迫害する言葉の暴力と偽情報、デマから始まった。「ユダヤ人が世界を支配している」「ユダヤ人は金に汚い」といった根拠が不明なプロパガンダや悪口、操作された偽情報、陰謀論が流布されていき、次第にユダヤ人の子供たちが学校から追放され、ユダヤ人の大人が公職から追放され、黄色い星を着用させられたり夜間に外出が禁止されたりして、その後ゲットーに閉じ込められ、絶滅収容所に送られ、最後は約600万人のユダヤ人が殺害された。

当時はインターネットはもちろん、テレビもまだあまりなかったし、新聞を読める人も限られていた。そのため偽情報やフェイクであれ、情報の拡散スピードは現在に比べると、とても遅かった。だが、伝統的に根強い反ユダヤ主義の蔓延る欧州ではユダヤ人の偽情報や陰謀論、プロパガンダは職場や学校、喫茶店や公園での集い、地域コミュニティの集まりなどで口から口へと拡散されていった。ナチスドイツは情報伝達手段としてラジオを普及させようとしていたが、あらゆる家庭にラジオがあったわけではなかった。都会にある映画館ではニュース動画を流していたが、そこで報じられるニュースもナチスドイツのプロパガンダ映像が多かった(ユダヤ人はラジオを所有することも映画館に入ることも禁じられていた)。

そして現在でも欧米やアラブ諸国では反ユダヤ主義が根強く、ユダヤ人はヘイト、言葉の暴力や偽情報の犠牲になることが多い。そのためユダヤ人は偽情報の拡散、言葉の暴力、ヘイトの拡散には現在でも非常に敏感である。「ホロコーストはなかった」「ユダヤ人はそんなに殺されていない」といったホロコースト否定論者も多く、そのようなホロコースト否定に関する投稿はネットやSNSにも多く、内容が刺激的なためあっという間に拡散されている。特に若い人たちはSNSでのホロコースト否定の情報を鵜呑みにしてしまう傾向が強い。世界中のユダヤ人団体やホロコースト博物館などが正しい歴史を正確に伝えていこうと多くの情報発信をSNSでしているが、刺激的な偽情報の方が拡散されやすい。偽情報が出るたびにホロコースト博物館などがそれらを否定して、正しい情報や歴史を伝えようとしている。

ホロコーストが行われた80年以上前と違って、現在ではあっという間にあらゆる情報が正誤を問わずにインターネット、SNSで伝達される。そして偽情報で過激で単純な内容や根拠不明だが興味を引く陰謀論のような情報ほどあっという間に拡散されやすい。

▼「ソースのチェックを忘れないように」と訴えるイスラエル軍の公式SNS

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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