Yahoo!ニュース

香川が“オプション”に過ぎない現状。EL準々決勝ドルトムント対リヴァプールの第一戦は1-1

清水英斗サッカーライター
ヨーロッパリーグ準々決勝ドルトムント対リヴァプール(写真:ロイター/アフロ)

UEFAヨーロッパリーグ準々決勝ドルトムント対リヴァプール、ファーストレグ(第一戦)は1-1の引き分けに終わった。香川真司はベンチ入りするも、出場機会は訪れず。

序盤はホームチームが優勢に試合を進めた。4-3-3を敷くドルトムントの攻撃は、アンカーのユリアン・ヴァイグルが中心となって組み立てる。

特徴的なポイントは、両サイドの作り方が非対称であること。左サイドバックのマルセル・シュメルツアーは高い位置を取るが、右サイドバックのルカシュ・ピシュチェクは低い位置に留まり、カウンターに備えるリスクマネージメントを重視。

それに伴い、左ウイングのマルコ・ロイスはシュメルツアーに押し出されるように中央へ入るが、右ウイングのエリック・ドゥルムは、ピシュチェクが上がって来ないので、サイドに留まる。近頃のドルトムントはほとんどの試合で、この左右非対称の仕組みを採用している。

そうやってサイドに選手を張り付かせて中盤にスペースを作り、右インサイドハーフのヘンリク・ムヒタリアン、左インサイドハーフのゴンサロ・カストロが、リヴァプールのボランチの脇で縦パスを呼び込む。序盤はこの2人が起点となり、多くのチャンスを作っていく。

ところが、先制したのはリヴァプールだった。

それまではドルトムントが落ち着いてゲームを支配したが、前半30分頃からカウンターの応酬になり、オープンに殴り合う時間帯が訪れた。ドルトムントがチャンスを作るが、リヴァプールも反撃する。

すると前半36分、リヴァプールは左サイドからの浮き球を、ジェームズ・ミルナーがヘディングで競り合いながら前へ送り、相手の高い最終ラインの裏へ抜け出したディボック・オリギが、先制ゴールを挙げた。

ドルトムントの問題点はいくつかあり、まず、アンカーのヴァイグルの両脇でスペースが空いていたこと。オープンに殴り合う時間帯のため、インサイドハーフのカストロがカバーに間に合わず、ここでミルナーにヘディングを許した。

さらに続く問題として、この空いたミルナーに、ドルトムントのセンターバック、マッツ・フンメルスとスヴェン・ベンダーの両方が釣られたことが挙げられる。オリギはその背後をねらい、賢く飛び出した。

このシーンをどちらのミスとするかは、チームの約束事にもよるが、守備のセオリーで言えば、逆サイド側のフンメルスがバランスを崩して飛び出したことが問題だろう。自分のサイドであるベンダーが前に出てミルナーと競り合い、その両後ろでフンメルスとピシュチェクが構える形を作れば、何の問題もないシーンだった。

もうひとつ付け加えると、本来ならば、こういうシーンをカバーできてこそ、右サイドバックに守備重視でピシュチェクを起用した価値がある。実際、ピシュチェクは飛び出すオリギにしっかりと付いて行った。しかし、オリギはピシュチェクのマークを身体ではじき飛ばし、間合いを作ってシュートを決めた。ここは相手が一枚上だった。

香川をチョイスしなかった、トゥヘル采配

0-1でハーフタイムを迎えたドルトムント。ここから面白くなったのは、トーマス・トゥヘルの采配だ。

本職がサイドバックのドゥルムは、ボールを持ってもあまり相手の脅威にならない。リーグ前節のブレーメン戦のように、ドゥルムを下げてムヒタリアンを右ウイングに移し、香川をインサイドハーフに投入して攻撃力を高める。1点をリードされた展開ならば、これは有力な選択肢だ。

ところが、トゥヘルはそれを選ばなかった。

前半の終わりに負傷の様子も見られたドゥルムに代わり、投入したのは香川ではなく、ヌリ・シャヒンだ。4-3-3を、4-2-3-1に変更し、前述したヴァイグルの両脇のスペースが空く戦術的な問題を、シャヒンとヴァイグルのダブルボランチで解消することを優先した。ムヒタリアンが右サイド、カストロがトップ下となる。

ところが、ピシュチェクが後ろに重心を残す上に、その前でダブルボランチまで構える形で、攻撃はお尻が重たくなり、前半に比べると縦パスを入れる回数が激減。後ろでパスを回し続けるか、あるいは外からムヒタリアンがクロスを上げて跳ね返される展開が続き、前半とは打って変わった単調な試合になった。

この試合は、2戦合計180分の“前半”である。トゥヘルは香川を入れて逆転をねらうことよりも、アウェーゴールをこれ以上許さないことを優先したと言える。ドルトムントは後半3分、CKからフンメルスがヘディングでゴールを挙げ、うまく同点に追いついたが、リスク排除の意識が強く感じられる采配だった。

それは同時に、守備やリスクマネージメントを重視する状況では、香川の出番がないことを意味する。カストロは守備を含めたバランサーであり、多くのポジションをこなす。香川とは異なるタイプだ。

トゥヘルが指揮するドルトムントにおいて、今の香川は、攻撃時のオプションに過ぎない。守備的に戦うときは構想外だ。それが改めて浮き彫りになる試合だった。

2枚目の交代カードにも注目したが、後半31分の采配は、ベンダーに代えてソクラテス・パパスタソプーロスと、オーバメヤンに代えてクリスティアン・プリシッチの2枚替え。

1トップにロイスが移り、ムヒタリアンがロイスの位置へ。そして、右サイドにプリシッチが入った。パパスタソプーロスの交代は、後手を踏んでいたオリギに対する守備の手当てとしても、3枚目の交代カードでも、香川ではなくプリシッチを選んだ。

ムヒタリアンを右サイドに残し、香川を中央に入れる選択肢もあるが、トゥヘルはそれを選ばなかった。プリシッチと比べて香川がどうこうではなく、ムヒタリアンを中央で生かしたい、ということだろう。それほど、このアルメニア代表MFは調子が良い。その場合はバランサーのカストロと並べる布陣になり、香川とムヒタリアンを中央で並べる選択肢はない。

結局のところ、香川が攻撃の“オプション”ではなく、どんな状況でも出場するためには、オーバメヤン、ロイス、ムヒタリアンの3人を上回るパフォーマンスを見せるか、あるいはカストロやヴァイグル、シャヒンのように低い位置でも、様々なポジションでもプレーできる汎用性を見せるか、どちらかしかない。

27歳の香川は今、とても重要な岐路に立っている。

トゥヘルが出場機会を与えないとか、ドルトムントから移籍を考えるとか、そういう話ではない。はた目でも、トゥヘルの采配には合理性がある。レベルを落として中堅以下のクラブへ移籍すれば、香川はレギュラーでやれるに違いないが、ビッグクラブを求めれば、今と同じ状況に陥る可能性は高い。

この状況から逃げることは、ビッグクラブでの活躍を諦めることを意味する。まさしく“岐路”だ。

サッカーライター

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。新著『サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点』『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』。既刊は「サッカーDF&GK練習メニュー100」「居酒屋サッカー論」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材に出かけた際には現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが最大の楽しみとなっている。

清水英斗の最近の記事