書店「苦境」に経産大臣の車座ヒアリングや議連総会などの動きが…ただ現状は深刻だ
経産大臣と書店関係者の車座ヒアリング
4月17日、都内の大垣書店麻布台ヒルズ店で、齋藤健・経済産業大臣と書店関係者の車座ヒアリングが行われた。書店関係の出席者は、金高堂書店(高知県)亥角政春社長、啓林堂書店(奈良県)林田幸一社長、久美堂(東京都町田市)井之上健浩社長、大垣書店(京都府)大垣守弘会長、出版文化産業振興財団(JPIC)近藤敏貴理事長、日本書店商業組合連合会(日書連)矢幡秀治会長だった。
経産省に「文化創造基盤としての書店振興プロジェクトチーム」が立ち上がったことは既に報じられていたが、最初の目に見える活動として設けられたのがこの車座ヒアリングだ。大臣や書店関係者が車座になって意見交換したのだが、新聞・テレビを始め多くの報道陣がつめかけた。
それらマスコミの報道によって、書店をめぐる深刻な現状が多くの市民に知られるひとつのきっかけになったという意味では大きな意味はあると思うが、報道が断片的であるため、何が問題になってどういう議論がなされたのかわかりにくい面もある。そこで一連の経緯について、多少詳しい報告をしておくことにした。
冒頭、齋藤大臣が口火を切る形で行われた挨拶はこういう内容だった。集まってくれた参会者にお礼を言った後、大臣はこう切り出した。
《我々が本に出合う方法は3種類ありまして、一つは図書館ですね、もう一つはネットで知る、そしてもう一つは本屋さんですが、それぞれ持ち味が違っています。やはり本屋さんに行っていろんな本を見ることができる中で、ふとしたものを手にするということで視野が一気に広がったりする経験というのは、やはり本屋ならではの持ち味ではないかと思っています。ウェブと図書館と本屋さん、この3つが持ち味を生かしながら共存する。それがベースではないかと常々思っているんですけど、その中で本屋さんだけがどんどん減っていくということでいいのだろうか。
私は赤坂の衆議院の宿舎に平日はいるわけですけれど、ついに周辺に本屋は1軒もなくなってしまった。全国4分の1の市町村で本屋が一軒もないという、こういう事態は本当にいいのでしょうか。
経産大臣に着任したものですから、本屋さんがどんどん減っていく現状に対して何かできることがあるんじゃないか、ということでプロジェクトチームを立ち上げました。皆さんから虚心坦懐にいろいろお話を伺って、それで何をすべきか考えていきたい。このプロジェクトには、経産省の中でもしっかりした人たちをメンバーに揃えていますので、これから直接いろいろお話をしていただけることもあると思っています。
実はこのプロジェクトチームを立ち上げてから様々なところから反響がありまして、やはり皆さん問題意識を共有してるんだなと強く感じました。経産省がなにか政策をぽんとやれば書店がみんな元気になって…とそんな単純なものでなくて、やっぱり本を愛する多くの人たちが、国民の皆さんが、みんなで盛り上げていくということが大事だと思っています。
今日こうやってマスコミの皆さんにもたくさん来ていただいているのは、そういう意味でも非常に良い効果があるんじゃないかと期待しています。いろいろな反響をいただいた中で、なんと上川外務大臣も、このプロジェクトチームの活動に強い関心をお持ちで、本当は今日参加したかったということですけれど、外遊と重なったために参加できないということで大変残念がっておられました。それでぜひメッセージを読んでほしいということで、お預かりしていますので、外務大臣と経産大臣がコラボしてやるという意味で読んでいただければありがたいなと思います》
齋藤経産大臣に続いて外務大臣のメッセージも
続いて外務大臣のメッセージが読み上げられた(一部略)。
《本日の車座会合には出張のため参加が叶わず大変残念です。私は海外出張時には可能な限り現地の書店を訪問しています。これまで14カ国の書店を訪れました。私が海外の書店訪問を重視している理由の一つは、日本の書籍や文化がその国にどのような形で受け入れられているかを知ることができる点です。タイ、ヨルダン、韓国、ポーランド、フィンランド、オランダ、カナダ、トルコ、パナマで訪問した書店では、日本のアニメや漫画の特設コーナーがあり、また、古典から現代の作品まで、日本の書籍が幅広く並べられていました。日本の活字文化が世界で受け入れられ、評価されていることを実感しました。
書店はその国の歴史や文化、人々の関心が凝縮しており、外交推進の手がかりを得る上で大変重要な拠点です。日本においても、書店を日本文化の発信拠点、そして多文化が行き交う文化交流拠点として一層大切にしていきたいと思っております。
外務省による翻訳を通じた日本文化紹介も実績を上げており、日本の書籍および作家の海外への紹介や、日本の書籍の外国への翻訳、出版の支援等を実施しています。これからも皆様の貴重なご意見を伺いながら、様々な形で日本の書籍や書店の魅力を海外に発信していきたいと思います。本日の会合が書店振興のための有意義な機会となることを祈念いたします。外務大臣・上川陽子》
書店や業界団体からの報告・提案も
その後、書店関係者から一人ずつ、今、書店がどういう状況に置かれており、自分たちはどんな取り組みをしているかが報告された。
例えば金高堂書店の亥角社長は、地域における書店の役割を強調、地域とのコラボレーションとして行われているイベントや図書館・学校との連携などが説明された。
啓林堂書店の林田社長は、書店に併設された本に向き合う空間として昨年12月に開業した「書院SHOIN」について説明。同社が考える「これからの書店の役割」を披露した。
久美堂の井之上社長は、2022年に鶴川駅前図書館の指定管理を受託した経験をもとに公共図書館と地元書店の関係や改善点について語った。
大垣書店の大垣会長は、書店業界に今後求められるのは現状への補填ではなく未来に向けての投資だとして、書店創業支援や書店員のリスキリング支援などの取り組みが紹介された。
JPICと日書連からも幾つかの提言がなされたが、特にJPICの近藤理事長は、書店支援は書店業界だけでなく出版社も含めた業界全体がまとまることが必要だと強調した。
その後、齋藤大臣を含めてフリーディスカッションが行われた。車座ヒアリング自体は1時間で終了し、その後、大臣はマスコミの囲み取材に対応した。初めての機会なのでそこで何かが決まるということではないのだが、大臣が直接書店を訪れて関係者と意見交換することは、書店をめぐる厳しい現状に対して行政が関心を寄せていることを示すアピールになったことは間違いない。
当日の様子は新聞・テレビでも報じられたが、マスコミの取材申し込みが多かったため、写真や動画撮影などは急きょ代表取材となった。
車座ヒアリングについては多くのマスコミが報じ、この問題についての認識を広めたことはひとつの前進であると言える。ただ報道が断片的であるし、誤解が生じている面もある。
本当は主宰者側が動画を公開したほうがよいと思うのだが、その予定は今のところないようだ。私の手元には全体を録音したテープがあるが、全文を文字化するのは大変な作業になる。
ここでは業界団体代表として出席した、JPIC近藤敏貴理事長と日本書店商業組合連合会(日書連)矢幡秀治会長の最初の発言を紹介しよう。
●JPIC近藤敏貴理事長
JPIC(一般財団法人出版文化産業振興財団)理事長の近藤です。この業界には今日出席しておられる書店商業組合、それから出版社の協会、それから私が会長をやっている取次協会があるんですけれど、それぞれ今までバラバラで何事も進まなかったというのが実は数年前までの状況でした。JPICは私が理事長をしていますが、副理事長にそれぞれの団体がいるという、唯一の業界横断型の組織なんです。本当に今深刻な出版業界の問題を、それぞれの業界団体できちんと議論しようということで、いろんなことを始めています。
書店議連との窓口もしていますが、今回、斎藤大臣に言われたのは、いろいろ支援していくけれども、その前にまず業界としてまとまりなさいよと、バラバラじゃ何もできませんよと。確かにそういう状態だったのを、今少しずつまとめつつある、そういう方向に向かっています。
ただ、まだまだ遅れている状態で、今回の書店支援プロジェクトも、やっぱり書店さんだけではできないんですね。出版社も、我々取次も入らなきゃ駄目だという立場で、このプロジェクトをお手伝いしたいと思っています。
私は取次のトーハンの社長と取次協会の会長もしていますが、これはいわゆる出版界の物流のインフラですから、書店支援をちゃんとやってかなきゃいけないと思っています。
先ほど、雑誌の返品を現地で古紙化するようなインフラを作るという提案がありましたが、今、全国の書店さんの在庫を、一般顧客、それから図書館に開示をして来客を促すとか、あるいは無人書店を作る、こういった取り組みをやっています。インフラを整備することで経済産業省さんと一緒にお手伝いができればと思っていますので、よろしくお願いします。
●日書連・矢幡秀治会長(調布市・真光書店)
日本書店商業組合連合会会長を務めています矢幡でございます。今回のように政府の方々にで話を聞いていただく機会というのはこれまでなかったことなので、画期的なことと喜んでおります。
私も東京都調布市で書店を経営しておりますけれど、残念ながら売り上げ減少により今、縮小をしているところではありますが、きょういろいろな書店さんの話を聞いて、元気をもらいつつ、これからもやっていきたいなと思っているところです。
本当に出版界はこれまで、出版社も取次も書店もまとまって何か提案をする機会がなかった。そうしているうちにどんどん書店がなくなっていく。書店がなくなるということに対して、出版社、取次も、やっぱり書店がなくなっちゃいけない、そうでないとこの業界は成り立たないよということに気づいてくれて、それが広がった結果が今日であると思っております。
書店がなぜ大切かというと、例えば東日本大震災の時、書店が流されてしまったわけですが、その後再び書店が開いた時に、多くの人がそこに行きました。あるいは、コロナ禍でも書店を開けてるところもあって、そこにも多くの人が行きました。
図書館でも本は読めますが自分のものにはなりません。ネットでも本が買えますが、先ほど大臣がおっしゃられたように、いろいろな本に出会うことができない。我々が扱っている紙の本は、脳科学者も言ってるように、我々の頭に馴染み、知識知恵を作り上げていくために重要であるというのは、これはもう証明されていることです。
その大切な紙の本を書店が売っているわけで、これは単に我々の利益のためだけでなく、今残っている書店は心からそう思っています。今日はいい機会を与えていただきました。やっぱり厳しい現実がありますし、経済的にも助けていただきたい、支援していただければと思っています。
翌18日には国会議員による議連総会も開催
そして翌18日、衆議院議員会館で「街の本屋さんを元気にして、日本の文化を守る議員連盟」の総会が開催された。この議連は、2017年の設立当時は約40名だったが、いまや登録議員150名という規模となった。自民党議員のみという構成や、これまで具体的な活動が外から見えなかったため、書店支援の原動力となるかについては冷ややかな見方も少なくなかったが、今回は前日に引き続いての取り組みで、挨拶に立った齋藤経産大臣を始め、熱意も感じられた。書店業界の代表も参加し、文部科学省や文化庁などから具体的な取り組みの説明もなされるなど、意見交換や議論も交わされた。
2日間にわたる行政や政治家の取り組みは、これといった新しい施策がまとめられたわけではないのだが、書店界をめぐる厳しい現実について社会の関心を以前よりも高める効果はもたらしたといえよう。
全国無書店自治体調査で示された深刻な実情
ここで、2日間の取り組みの中でJPICが発表した「無書店自治体調査」について紹介しよう。
前回は2022年9月に調査データが公表され、全国に「無書店自治体」つまり書店が1軒もない市町村が26・2%に達したとして大きく報道された。今回の調査データによると、無書店自治体はさらに増えて27・7%になっている。
そのことももちろん深刻なのだが、今回公表された詳しい調査データで注目されるのは、無書店だけでなく1書店以下の自治体の比率がどう拡大しているかだ。例えば北海道は無書店自治体が前回76で無書店率が42・5%だった。今回もその数字は同じなのだが、1書店以下の自治体の比率を見ると70・9%から72・1%に上がっている。つまり、書店ゼロの市町村は変わらないものの、書店が1つしかないところが増えているというわけだ。その意味で、事態は深刻さを加速しているといえる。
今回公表されたデータを子細に検討すると、全国で街の書店がいかに危機的状況に追い込まれているかがわかる。現状はとても深刻だ。
これまで月刊『創』(つくる)で何度かにわたって「街の書店が消えてゆく」という特集を掲載し、近々それらを別冊にまとめたものを出版予定だが、その危機自体はさらに深刻さを増していると言える。しかし、一方で、この間、そうした現状を何とか打開しようという様々な動きも広がっている。
今年も秋へ向けて「BOOK MEETS NEXT2024」など、いろいろな取り組みが動き始めている。書店の苦境は、出版社にとっても大きな問題だし、作家やジャーナリストにとっても他人事ではない。出版文化を守るためにも、現状を検証し、社会的議論を深める必要がある。
2024年4月27日に東京神田神保町に、作家・今村翔吾さんのシェア型書店「ほんまる」がオープンしたが、今村さんはこれによって3軒の書店の経営者になった。その経験を踏まえて、幾つかの提案もしているが、この今村さんの取り組みも貴重なものだ。
今村さんの「ほんまる」とそこで検討されている取り組みについては、下記の記事を参照いただきたい。
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/f9eff1b6a98eec9b5a6c5a46688c8e8c91b10fd2
作家・今村翔吾さんのシェア型書店「ほんまる」がオープン、そこで本人が語った決意とは…