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作家・今村翔吾さんのシェア型書店「ほんまる」がオープン、そこで本人が語った決意とは…

篠田博之月刊『創』編集長
「ほんまる」テープカット後、挨拶する今村翔吾さん(筆者撮影)

 4月27日は朝から神田神保町の一角がにぎわった。作家の今村翔吾さんがシェア型書店「ほんまる」をオープンさせ、オープン記念のテープカットやトークイベントなどを行ったからだ。「ほんまる」前には朝から新聞・テレビなどマスコミが取材に訪れ、棚主となった人たちを含めて数十人が集まった。大手出版社などの花輪も店の前に飾られた。

 11時半になると今村さんの挨拶が行われた。

「出版業界は今大変ですが、決してあきらめない、その反撃の拠点が『ほんまる』として、本の聖地である神保町にできたことを、まず喜びたいと思います。オワコンだと言われても僕は本をあきらめずにやっていきます。出版不況と言われていますが、僕が全国を回る中で、助けてくれるファンがこんなに多い業界だというのを実感しましたし、そういうファンたちの声を結集し、つなげて輪にするという意味でも『ほんまる』という名前にしました。きょうここから、出版の灯を絶やさないための反撃に出ようと思っています。今日1日を歴史の1ページになるように僕もがんばりますのでよろしくお願いします」

 その後、「ほんまる」をサポートしたクリエイターの佐藤可士和さんが祝辞を述べた後、おふたりと棚主らによるテープカットが行われた。

テープカットに挑む(筆者撮影)
テープカットに挑む(筆者撮影)

 シェア型書店といってもまだなじみのあまりない人もいるかもしれない。書店内に棚をたくさん設け、それを棚主に貸し出す。月ぎめで契約した棚主はそこに自分の好きな本を置いて、お客に見てもらい気に入ったら買ってもらう。神保町では少しずつ増えている書店の形式だが、「ほんまる」は作家の今村さんの書店として、この間、注目されてきた。

 今村さんは挨拶にもあったように、出版・書店業界を何とかしよう、その道筋を作ろうといろいろなことを提案しており、この「ほんまる」をめぐってもセミナーを開いて、書店をオープンしたいと考える人を支援する仕組みなどを作ろうとしている。

 出版不況が深刻化し、街の書店が次々と姿を消しているなかで、今村さんがどんなことを考え、「ほんまる」をオープンさせたのか。過日、インタビューした内容から、関連部分を以下、紹介しよう。

「ほんまる」全景。お祝いの花が並ぶ(筆者撮影)
「ほんまる」全景。お祝いの花が並ぶ(筆者撮影)

シェア型書店の3つの可能性

――今村さんは大阪と佐賀で実際に書店を経営し、出版・書店業界を何とか盛り上げようといろいろな発言もされてきましたが、今度のシェア型書店をというのは、そういう取り組みをしている過程で考えられたのですね。

今村 そうですね。シェア型書店って僕たちが調べただけで今、全国に50店舗ぐらいはあるんですが、様々な形でやっていて、ある意味でルールが整備されていない。法人でやっている書店もあれば個人事業主とか、趣味でやっている書店もあります。ただ僕はここにちょっと可能性というか、今の地方の書店が抱えている苦しいところを改善する可能性があるんじゃないかと、1年間ぐらいずっと研究してきたんです。

 その可能性というのは大きくは3つなんですけれど、書店が潰れていってる一方で、自分で書店をやりたいという若者はいっぱいいるんです。段階を踏まずにいきなり書店を始めて失敗しちゃってるケースも多いので、そういう自分の棚を持ちたいというニーズにまずは応えたいと思います。

 また地方の出版社で、書店に棚を確保できてないところは多いんです。出版社が3000社ぐらいある中で、出版した本が書店に安定的に並んでいるのは100社ぐらいじゃないですか。魅力あふれる本を作ってるのに置く棚がないという現実があるようなので、出版社にとっても僕は、これはよくないんじゃないかと思います。

 逆に都市部の大手と言われる出版社でも、例えば僕の場合なら『塞王の楯』を、滋賀で展開したいなとかキャンペーンを張りたいなとか、滋賀のシェア型書店に棚を借りたい時だってあるだろうと思います。だから、都市部と地方の小出版社の往来というか、つなぐ役割にもなるんだろうと思うのです。

 もう一つは、僕が47都道府県、日本全国を回ってる中で、やっぱり出版って多くのファンがまだいっぱいいるんです。特に企業の社長さんとかが、「僕はこの本に救われてこの会社を立ち上げて成功したから出版界に恩返ししたいんだけど何をしたらいいの?」とか、「応援したいんだけど何ができるの?」と相談する窓口がないんですね。

 だからそういう方々にとって、自分たちの企業が、フリーペーパーを出すより安い価格で告知宣伝してもらいつつ出版界に一緒に関わりたいと思ってくれている企業さんとのパイプにもなるんじゃないか。現に今「ほんまる」の申し込みの中で、出版と直接関係のない、塗装業の方とか、あとはIT企業とか、そういうところから棚を持ちたいという申し込みもあるので、やっぱりパイプが必要だったのだなという実感があります。こういう方々に支えられたり、書店として一番きついのは家賃と人件費代という固定費なんで、そこの足しになれば、街の書店が再生する可能性はあるんじゃないでしょうか。

 例えば「ほんまる」が鳥取にできたら、地元の書店をなくしたくないという鳥取の企業に、景気の良い業界から入ってきてもらうとかもできます。出版界の中だけで解決は難しいのではないかと思うので、大いに外の業界の人たちにも協力してもらってやっていく。その中で、また新たな知見とか、新たな知識も入ってくると思うんです。そういうパイプになるのがシェア型書店かなと思っています。

シェア型書店について1年間調べてきた

――「ほんまる」は去年ぐらいから準備してたんですか。

今村 土地は探してたんですけど、まずはシェア型書店というものを勉強せないかんということで、1年間ぐらいやっていました。今回は、行政なんかも棚を持ちたいと言ってくれてるんです。僕の地元の大津市さんも、大津をPRしたいと入ってくれたんです。例えば今、大河ドラマ『光る君へ』で大津が出てくるので、それをPRしたいといったことですね。こういう行政とのつながりもできるんじゃないかと思っています。逆に行政や上場企業とかが入ってきてくれるとなると、法的な整備も必要になってきます。

「ほんまる」の店内(筆者撮影)
「ほんまる」の店内(筆者撮影)

 シェア型書店って正直グレーな運営という面もあるんですよ。グレーと言っても別に犯罪とかということじゃなくて、例えば出版業界には再販制度の維持というのが、是非はともかくとして存在するのは間違いない。再販制度の維持に関してはシェア型書店はすごい課題やろうなと思ってたんです。詳しい弁護士さんとかにも何度も相談しつつ再販制度を維持しながらシェア型書店としてやっていける道というのを整備してきました。

「ほんまる」は店舗自体はそんなに大きくないんですけど、棚は全部で364あります。3カ月とか6カ月だけPRしたいという人もおられるので棚主の出入りはあるのです。そういう意味では、ちょっと興味あるなという方は申し込んで、体験してもらえたらと思います。

――シェア型書店のシステムについても、いろいろ考えておられるのですね。

今村 例えばお客様が本を買っていただいたら棚主の人にメールが行くようなシステム、「今この本が売れました」というメールがいくシステムも作っています。また個人の方がこの本を売りたいという時に、一応どんな本でも基本的に置いていいんですけど、お子様とかに良くないものではないかとか、こちらでチェックさせてもらうということもやります。シェア型は古本も扱うので、古物商の免許も必要なんですね。

――それは思った以上に大変ですね。

今村 意外と大変です。1年間準備してきたのも、システムとか法律とか、あとはホームページとか内装とかも含めてです。

 今回、佐藤可士和さんというクリエイターを迎えたのは、全国どこの地域に行っても愛されるようになってほしいから、日本中にブランドを広げている可士和さんに力をお借りできたらと思って、ダメ元で手紙を13枚書いたんです。めっちゃ熱意を込めて書きました。檄文というか、メールで送るより自分の思いを伝えられると思って手紙を書いたのです。

業界全体が厳しいなかでまずは挑戦あるのみ

――そうやって棚を貸して、しかもそこから独立して書店を開きたいという人が出てきたら応援しますということですね。

今村 まずは書店についての知見とかを教えるセミナーみたいなものが必要だと思います。例えば出版社、取次、書店とか、いろんな方を講師にお招きして、書店を開きたいという若者たちに知識を教えられたらいいなということですね。そういうのは既にやっている団体もあると思うんですけど、僕らの場合は、例えば書店を開くにはお金がかかるので、セミナーに参加した人たちには、まず融資を受けるお手伝いからしてもいいし、僕たちも会社として融資もできると思っています。皆さんに支えていただいて利益が出たら、それを今度は新たな書店のために投資していけるような形です。書店を既に2軒やりましたけど、正直、お金がかかりますからね。

 僕は、今考えていることが正解なのか、どこまでいけるのか、正直まだわからない。ただ、わからないからやめようというのでなく、これからは何でもやってみて挑戦しないと、この悪い流れは変えられないんじゃないかと思ってるんです。まずは行動あるのみと思っています。

 確かに今、業界全体が厳しいですよ。書店さんの中で、苦しんでおられてインターネット上で月末になると助けてくださいとかいう呼びかけもあるんですね。だから文化として残していかなあかんという思いと同時に、業種として成り立つような仕組みをもう一回、再構築していかないと駄目だと思っています。武士は食わねど…といえど、やっぱり食べなあかんので、食べられるような状態を作っていく。さらに、もしもお金が儲かるということになったら、そういう目的で入ってくる人がいてもいいと僕は思うんです。本来伸びてる業態ってそういうもんですから。

先輩の作家たちも応援すると激励を

――書店業界は厳しいけれど、本が好きで何かそういうことに関わりたいという人は多いわけですよね。

今村 そうです。そこの力を結集していくことが必要なんです。僕は歴史作家なのでこういうたとえをしますが、昔は大名がいてそこに領地があってという中で、毛利元就が国人たちを結集して連合を作った。そういう傘連判状みたいな感じで力を結集する。地場の他の企業や行政、あるいは、近隣の県の人といろんなところから協力して書店を盛り上げていくという形も、ひとつのやり方としてありかなと思っています。

――特に地方だと何らかの形でサポートしないと書店がどんどん厳しい状況になっていますよね。

今村 そうなんです。富山県の立山町とか、書店開業に行政が補助金を出しているところもあるんですけど、あれもすごく良い取り組みだとは思うんですが、やっぱり書店って実際動かしてみると日々のお金が大変なんで、開店後に継続して支援していくような仕組みを作らないとだめかなと思っています。

――書店が生き残る道は何なのか。今は袋小路の状態なので、何かやらなきゃいけないという気持ちは多くの人が持っていますよね。

今村 そうですね。何かやらなあかんねんけど、何をしていいかもわからない。

 僕がいろいろなことをやってて気づくのは、出版社の人は、営業さんとかはともかくとして、書店の現実を知らない人も多いし、書店で出版社や図書館とか取次の苦しみを知らない人も少なくない。……まあ全部一緒なんですよ。同じ出版界にいながら互いの苦しさをあんまりわかっていない。

 だから同じ業界内でも出版社がどうとか取次がどうとか、いがみ合ってることが多いんですけど、とてもそんなことやってる余裕はないんで、手をつないでやっていくしかないなと思いますね。

――今のような厳しい状況の中で、今村さんのように声を大にして言ってくれる方ってすごくありがたい存在だと思います。

今村 そう言っていただけたらありがたいですし、僕は先輩の先生方とかにお叱りを受けるかなと最初思ってたんですけど、実際には「応援してる」とか「俺にできることがあったら何でもするよ」とか、北方謙三さんとかも言ってくれます。自分たちが活躍していた時代と、今の出版界は変わっているということは、先輩方もみんな気づいていて、応援してくださってるというのがありがたいですね。

 今、書店がどんどん少なくなっているし、出版不況も深刻化している。その危機を何とかして突破しようといろいろな動きも出始めているのだが、今村さんの様々な場での発言もそのひとつだ。今回のインタビューはそのほか、大阪と佐賀の書店についても聞いているが、スペースの都合で全文は月刊『創』6月号にに載せる。

 まずはオープンした「ほんまる」が順調に行くことを期待したい。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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