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リニューアルしたなでしこリーグがいよいよ開幕。女子サッカー変革の年、「WEリーグ」との関係は?

松原渓スポーツジャーナリスト

 なでしこリーグが、3月27日(土)、28日(日)に開幕する。

 今季は、プロ選手主体の「WEリーグ」(日本女子プロサッカーリーグ)が9月に開幕する。一方、日本女子サッカーの発展を32年にわたって支えてきたなでしこリーグは、これまで通り、アマチュアのトップリーグとして存続する。

 WEリーグは9月から5月までの秋春制で、複数年は降格がなく、参入審査によってチーム数を増やしていく。なでしこリーグは例年通り、3月から10月までの春秋制で行われるが、WEリーグの運営が安定した後には、両リーグをつなげて秋春制に統一されることも予想される。

 穏やかな春の陽気に包まれ、桜のシーズンを迎えるこの時期にリーグの開幕が重なるワクワク感は、現行のシーズンならではだ。コロナ禍で制限はあるが、しっかりと感染対策をした上で、スタジアムに足を運びたい。WEリーグの創設により、なでしこリーグも再編成を経てリニューアルしており、これまでになかった地域同士の対決も実現する。

 3月22日にオンラインで行われた開幕記者会見では、1部に参加する12チームのキャプテンが登場し、意気込みなどを語った。

【参加チームの顔ぶれが大きく変化】

 なでしこリーグはこれまで、1部10チーム、2部10チーム、チャレンジリーグ(3部)12チーム(東西6チームずつによるリーグ戦)の3部制で行われていたが、今季は1部12チーム、2部が8チームの2部制に再編された。いずれも、ホーム&アウェイ方式による2回戦総当たりだ。

 1部は、3月27日から10月10日までで、全22節。参加チームは、WEリーグに入らなかったセレッソ大阪堺レディースと伊賀FCくノ一三重、愛媛FCレディースに加え、2部からは昨季優勝のスフィーダ世田谷FC、3位のオルカ鴨川FC、4位のニッパツ横浜FCシーガルズ、6位のASハリマアルビオン、7位の大和シルフィード、9位の日体大FIELDS横浜の6チームが1部に加わる。またチャレンジリーグから、総合2位のアンジュヴィオレ広島、同3位のコノミヤ・スペランツァ大阪高槻、同4位のNGUラブリッジ名古屋の3チームが1部への挑戦権を手に入れた。

 なでしこリーグ2部は、4月10日から10月10日までで、全14節。参加チームは昨季チャレンジリーグ総合優勝のJFAアカデミー福島、チャレンジリーグEASTからは3位の静岡SSUアスレジーナ、4位のノルディーア北海道、5位のつくばFCレディース、チャレンジリーグWESTからは3位の福岡J・アンクラス、5位の岡山湯郷Belle、6位の吉備国際大学Charme岡山高梁が参加。また、昨季なでしこリーグ2部10位のバニーズ京都が、関東女子サッカーリーグ1部7位の群馬FCホワイトスターに移管される形で、「バニーズ群馬FCホワイトスター」として、今季は2部で戦う。

 リーグ再編成に伴って昨季は昇降格がなかったが、今季は再び復活する。1部最下位チームが2部に降格、2部優勝チームが昇格し、1部11位チームと2部2位チームによる入替戦を実施。2部最下位のチームは、地域リーグや都道府県リーグから、「2部入れ替え戦予選大会」を勝ち上がった3チームとの間で入替戦を行い、1位になったチームが2部に残留または昇格する。

 YouTubeの「なでしこリーグチャンネル」で、全試合が実況付きでライブ配信される。

【優勝候補は?】

 今季の優勝チームを個人的に予想するとしたら、昨季なでしこリーグ1部昇格直後のシーズンで4位と、旋風を巻き起こしたセレッソ大阪堺レディースが最有力候補だろう。育成力に長け、WEリーグの日テレ・東京ヴェルディベレーザや浦和レッズレディースと並んで多くのタレントを輩出してきたチームだ。今季キャプテンになり、開幕記者会見に登場したDF筒井梨香は、「初めて1部に昇格した時(2018年)は自分たちらしいプレーができませんでしたが、去年は自分たちでボールを保持して得点できるセレッソらしいサッカーが上位チームにもできて、しっかり戦えたという手応えがあります」と話す。初年度のWEリーグ参加を見送ったため、主力の多くがWEリーグのチームへの移籍や海外移籍などでチームを離れた。それでも、16歳でなでしこジャパン候補入りを果たしたFW浜野まいかを筆頭に、有力な若いタレントが雨後のタケノコのように現れてくるのがC大阪堺の強みでもある。今季の登録メンバー23名の平均年齢は18.9歳。生え抜き選手たちの阿吽の呼吸をベースに、竹花友也監督の下で鍛え抜かれたパススピードやハードワークは、今季も輝きを見せてくれるだろう。

C大阪堺(左・筒井梨香主将)は、開幕戦でASハリマ(小池快主将)を迎える
C大阪堺(左・筒井梨香主将)は、開幕戦でASハリマ(小池快主将)を迎える

 伊賀FCくノ一三重も、優勝候補の一角だ。伊賀は今年創設45年目を迎え、1995年と99年(当時のチーム名はプリマハムFCくノ一)には1部でタイトルを獲得した古豪でもある。現在、チームを率いる大嶽直人監督が6年ぶりに復帰した2018年には圧倒的な強さで2部優勝を果たし、1部で2シーズンを戦い抜いてきた。高い位置からボールを奪って相手ゴールに襲いかかる、強度の高いサッカーは迫力がある。精度の高いキックや豊富な運動量でチームを支えるMF作間琴莉は、「始動してからフィジカル強化に取り組んできましたし、昨季よりもさらにパワーアップしていて、順調に仕上がっていると思います」と、開幕に向けた仕上がりに手応えを示した。移籍などで昨季から主力メンバーの入れ替わりがあったが、明確なコンセプトの下で着実に積み上げてきたものがあり、更なる進化が期待できそうだ。

伊賀(左・作間琴莉主将)は開幕戦でコノミヤ(宮地明日翔主将)と対戦する
伊賀(左・作間琴莉主将)は開幕戦でコノミヤ(宮地明日翔主将)と対戦する

 昨季2部で優勝したスフィーダ世田谷FCは、これまで選手の入れ替わりがあった中でも継続して目指してきた強度の高い守備や、縦に速く攻めるスタイルが実った。シーズン中にGKの負傷が相次いだ中、ラスト4試合でゴールを守り優勝に貢献したGK野村智美は、「特に終盤の優勝争いではGKの出番が少ないぐらい鉄壁の守りだったので、今季も1戦1戦積み重ねることで、目標である1部リーグ優勝につなげたいと思います」と、堅守に自信を見せる。今季は神川明彦新監督が就任。スフィーダは地域色が打ち出しにくい都市部で、地域と積極的に交流し、女子単体チームとして育成と普及に力を入れ、下部組織からトップチームに昇格する選手も多い。

スフィーダ(左・野村智美主将)は、大和(濱本まりん主将)を迎える
スフィーダ(左・野村智美主将)は、大和(濱本まりん主将)を迎える

 WEリーグはJリーグの男子チームを持つクラブが過半数を占めているが、なでしこリーグは大半が女子単体チームで、選手が運営に携わったり、ファン・サポーターとの交流を大切にしてファミリーのような一体感が生まれたりと、手作り感が感じられるチームも多い。

 オルカ鴨川FCは、地域密着に力を入れてきたチームだ。元日本女子代表選手だった北本綾子GMの下、人口3万人強の鴨川市で、地元の人々に愛される人気チームになり、発展を続けている。なでしこリーグ2部では19年、20年と優勝争いを演じ、昨季は3位だったが、リーグ最多得点チームとなった。今季は小川貴史新監督を迎えた。3年目のMF正野可菜子は、「攻撃的なサッカーは去年と変わらず、それにつながる守備に新たに取り組んでいます」と、昨年のスタイルを進化させていくことを明かした。スタンドが青いユニフォームで染まるホームゲームは必見だ。

オルカ(左・正野可菜子主将)とF日体大(李誠雅主将)が開幕戦で激突
オルカ(左・正野可菜子主将)とF日体大(李誠雅主将)が開幕戦で激突

 愛媛FCレディースは、J2の男子トップチーム同様、しっかりとボールを繋ぐサッカーを、2011年のチーム創設以来貫いてきた。昨季は1部昇格初年度で失点が多く、最下位に終わったが、2点取られても3点を取り返しにいく果敢なチャレンジを見せた結果でもある。会見で、MF松本苑佳は昨季を振り返り、「はじめは相手のスピードなどに慣れなくてうまくいかないことも多かったのですが、リーグを通して主導権を握れる時間も増えましたし、相手ゴールに迫ることができて、自分たちのサッカーに自信を持つことができました」と語った。昨年までの主力の多くが移籍や引退などでチームを離れており、先発の顔ぶれはガラリと入れ替わりそうだが、4年目の赤井秀一監督の下、引き続き「ボールを大切にするサッカー」を体現する。

愛媛(左・松本苑佳主将)の開幕戦は広島(本藤理佐主将)と激突
愛媛(左・松本苑佳主将)の開幕戦は広島(本藤理佐主将)と激突

 個性が光るプレーヤーは、各チームにいる。テクニックとハードワークで攻守をコントロールするMF杉田亜未(伊賀)、快足を生かし、大物感あふれるプレーを見せるFW浜野まいか(C大阪堺)、最終ラインから正確なパスでゲームを組み立てるMF筬島彩佳(愛媛)。強くて速く、アグレッシブなプレーが印象的なFW大竹麻友(スフィーダ)、球際の気迫と、疲れ知らずのハードワークで観客を魅了するMF深澤里沙(オルカ)、クレバーなプレーと多彩なスキルで攻守の起点になるMF小須田璃菜(ニッパツ)。高い身体能力を生かした躍動感あふれるプレーが魅力のFW千葉園子(ハリマ)、スピードあふれるプレーで、大学生主体のチームをストライカーとして導くFW李誠雅(日体大)、随所にセンスを感じさせるプレーで攻守のキーマンとなるMF濱本まりん(大和)。正確なボールタッチや予測力が光るMF神田若帆(広島)、パワフルなプレーで鉄壁の守備の要となるDF宮地明日翔(コノミヤ)、堂々としたプレーでチームを落ち着かせるMF三浦桃(名古屋)など、近年の各チームを支えてきたキープレーヤーたちに注目してみると、それぞれのサッカーの強みや魅力が見えてくるかもしれない。

ニッパツ(左・小須田璃菜主将)は名古屋(三浦桃主将)を迎える
ニッパツ(左・小須田璃菜主将)は名古屋(三浦桃主将)を迎える

【WEリーグと二人三脚で変革の年に】

 伊賀と大和は、初年度のWEリーグ入りに申請したが、要件を満たせず参入は叶わなかった。だが、引き続きWEリーグ入りを目指す方針を明らかにしている。このように、なでしこリーグには将来的にプロ化を目指しているチームもあれば、プロのキャリアを選択しない選手の受け皿になり、育成や普及に力を注ぎつつ、アマチュアクラブとしての存在意義を大切にしているチームもある。また、アマチュアリーグではあるものの、プロ同様の条件でプレーしている選手もいる。

 WEリーグは北海道、九州、四国にはチームがない。一方、なでしこリーグは2部も含めると、北は北海道から、南は福岡まで全国的にチームがあるため、普及という観点からも、WEリーグと協力しながら女子サッカー界の発展を担っていく。

 女子サッカー界にとって、2021年は変革の年となる。白熱したピッチ上の戦いはもちろん、各ホームタウンの特色や魅力が感じられるような発信、楽しいスタジアムイベントなど、各チームのアイデアにも期待しながら開幕を楽しみにしたい。

※写真はすべて筆者撮影

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のWEリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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