正露丸のラッパ音商標出願の審査が長引いている件
マリオがコインを取ったときの「チャリーン」という効果音を任天堂が音商標として出願したことがちょっと話題になっています。この効果音は、単なるゲーム内の音というだけでなく、任天堂CMのサウンドロゴとしても使われていますので、商標登録出願するのはうなずけます。
さて、音商標と言えば、昨年2015年の4月から出願の受け付けが始まったわけですが、その時点での代表的な音商標のひとつとして、大幸薬品の正露丸のCMで使われている軍隊ラッパの音楽(「食事」というタイトルで古くから使われているものです)がありました。実際、音商標の受付開始初日(4月1日)に出願されています(関連過去記事)。
しかし、この出願は現時点でもまだ審査中です。同日に出願された同社の「クレベリン」の音商標は2015年11月に既に登録されているにもかかわらずです。
特許とは異なり、商標の場合には審査経過書類(業界用語でいう「包袋」)をJ-PlatPatでは閲覧できない(どのような書類がいつ出たかはわかりますがその中身はわからない)ため、別途料金を払って閲覧請求を行なう必要があります。気になってしょうがないので自腹(と言っても600円ですが)で閲覧請求を行なってみました。
2015年8月13日に匿名の第三者から刊行物等請求書(俗称、情報提供)が提出されています(情報提供は匿名で行なうことが認められています)。3条1項6号(需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標)、および、4条1項7号(公序良俗違反)にあたることが主張されていますが、その根拠とする内容が軍隊ラッパに関する多数の文献を引用したもの凄いもので、到底、素人が書けるレベルのものではありませんでした。提出者が匿名なので、軍事マニアなのか競合他社なのかはわかりませんが、この軍隊ラッパ音楽を特定企業に商標として独占させまいという強い意思を感じます。審査が長引いていたのはこの情報提供の検討があったからではないかと思います。
そして、2月5日に拒絶理由通知(暫定拒絶)が出されていますが、そこでは、3条1項6号のみが拒絶理由として挙げられています。特許庁審査官は4条1項7号には該当しないと考えたことになります(第三者の情報提供はあくまで参考なのでそれに従う必要はありません)。仮に情報提供がなくてもありものの楽曲を音商標として出願しているので同じ結果になった可能性が高かったと思います。3条1項6号については、大幸薬品が使用により識別力を確保したこと(いわゆるセカンダリーミーニング)を立証できれば拒絶を回避することができます。消費者の認知度調査や広告予算等のデータを提出することになるでしょう。よくあるパターンではありますが、今頃、大幸薬品の代理人はてんてこまいなのではないかと思います。
自分は利害関係者でも何でもないので事実関係を述べるのみに留めておきますが、あっさりと登録されるかと思っていたのに結構大変そうだということがわかりました。