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男子バレーボールがVNL初のファイナル進出!なぜ全日本男子は世界標準に近づいたのか?

市川忍スポーツライター
(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

全日本にとって旧ワールドリーグ時代も含めた初の決勝進出

『FIVBバレーボール ネーションズリーグ2022』予選ラウンド全試合が終了した。全日本男子は最終戦でブラジルに3―0で敗れたものの、前身であるワールドリーグも含めた大会史上初となる自力での決勝進出を果たし(※注1)、20日からイタリアで開催されるファイナルラウンドに駒を進めた。

以下は予選の最終順位

1位 イタリア、2位 ポーランド、3位 USA、4位 フランス、5位 日本、6位 ブラジル、7位 イラン、8位 オランダ、9位 アルゼンチン、10位 スロベニア、11位 セルビア、12位 ドイツ、13位 中国、14位 ブルガリア、15位 カナダ、16位 オーストラリア

※上位8チームが決勝に進出

石川、西田ら海外リーグ経験者がチームをけん引

ネーションズリーグでの日本の勝因は一つにしぼれないが、イタリアでプレーする石川祐希(ミラノ)、西田有志(ヴァレンティア※今季からジェイテクト)、高橋藍(パドヴァ・日本体大在学中)、ポーランドでプレーした関田誠大(ルビン※今季からジェイテクト)など海外リーグを経験した選手が終始、チームをけん引していたように思う。世界標準のバレーボールに、日本のバレーボールが追いつくために、彼らの存在が色濃く影響を与えた。

これまでは「例え世界はそうであっても日本では無理」「我々日本人には合っていない」「体格で劣る日本には難しい」と否定されてきたスタンダードが日本の当たり前になったことが、ここ数年の日本チームの強化に大きく影響していると考える。

「サーブミスは悪」の時代からビッグサーブ革命へ

そのうちの一つがサーブの力だ。

予選ラウンドではサーブ決定本数で石川が2位、西田が3位と上位に顔を見せている。

以前まで日本では「サーブミスは悪」「ミスするくらいなら確実に入れていけ」という意見が圧倒的に多かった。数々の国際大会でも、サーブミスが出るたびに会場はため息に包まれた。田中幹保監督が率いた全日本が2004年、最終予選で敗れた際にその論調は強くなり始め、徐々に悪化。大きな国際大会ごとにサーブミスの多い選手がSNSなどで批判を浴びるようになっていったと記憶している。

しかし近代バレーでは、安全なサーブを打っていては相手の得点を上回れない。世界では強く、ポイントを奪えるサーブを正確に、しかも何本も連続で打つのが当たり前なのだ。そして例えば1~2点ビハインドの場面で、強力なサーブで得点を奪える選手にサーブが回れば、あっという間に逆転することもできる。

柳田将洋が観客に植え付けた「サーブの重要性」

その事実を日本のバレーボールに浸透させてくれたのが、プレーヤーでは柳田将洋選手(※今季よりジェイテクト)ではないだろうか。

2019年ネーションズリーグでの柳田選手
2019年ネーションズリーグでの柳田選手写真:YUTAKA/アフロスポーツ

そして、テレビ解説者の力も欠かせない。

地上波でバレーボールの国際大会がまだ生中継されていた当時、「サーブミスはするな」と語る解説者が圧倒的に多い中で、相手の守備体系を崩すサーブの重要性を地道に説いていたのが山本隆弘氏と大山加奈氏だ。

山本氏と大山氏は解説者になりたての頃から、ベンチレポートなどのわずかな時間を使って、強力なサーブを打つことの戦略的な意味や、それにより相手に与える心理的プレッシャーの大きさなどを説明してきた。

そういった地道な活動に並行して現れた柳田、石川、西田のようなビッグサーバーの存在によって、サーブで勝負する重要性は一気に日本の若い競技者や、ライトなバレーボールファン層に広まったのだと思う。

今となっては当たり前のプレーだが……

他にも、今となっては日本で当たり前となっている世界標準のプレーや戦略の一例が以下だ。

・攻撃では相手ブロックに数的優位な状況を作るために、バックローのアウトサイドヒッターも必ず助走に入ること。(bick攻撃は以前まで「どうせ1セットに1本くらいしか打たないのに、なぜそれほど重視しなければいけないのか」などという関係者もいた)

・レセプションはセッターに正確に返すことを心がけるよりも、失点を防ぐために「真上に上げる」ことを優先するようになったこと。

・一人のアタッカーに偏ることなく、ミドルブロッカーも含めたすべてのアタッカーに、なるべくまんべんなくセットすること。

こうした「思考の進歩」が海外チーム経験者や、Vリーグにやってくる海外で経験を積んだ選手、指導者によってもたらされたことで、日本のバレーボールが世界と対等に戦えるようになったのではないかと考えている。

どれだけ数的優位な状況を作れるか

石川祐希、西田有志、高橋藍ら稀代のプレーヤーが同世代に集まった奇跡も、彼らの台頭を邪魔するような環境のままでは、ここまで日本代表は強くならなかったかもしれない。

ファイナルラウンドには当然だが、世界の強豪ばかりが集結している。ただし、オフェンスでは相手に数的優位な状況を作ること。ディフェンスでは力強いサーブで相手に数的優位な状況を作らせないことを徹底すれば十分勝機はある。

ミュンヘン五輪以降、世界に追い抜かれ、その後ろ姿ばかり見ていた全日本が、やっと世界に追いつこうとしている。世界の強豪国相手にどのような戦いを見せてくれるのか、その姿に期待したい。

(※注1)2008年、日本は予選3位で敗退したものの辞退国があり、国際バレーボール連盟の主催者推薦(ワイルドカード)により決勝ラウンドに進出した過去がある。

スポーツライター

現在、Number Webにて埼玉西武ライオンズを中心とした野球関連、バレーボールのコラムを執筆中。「Number」「埼玉西武ライオンズ公式ファンブック」などでも取材&執筆を手掛ける。2008年の男子バレーボールチーム16年ぶり五輪出場を追った「復活~全日本男子バレーボールチームの挑戦」(角川書店)がある。Yahoo!公式コメンテーター

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