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岐路に立つ日本代表。方向性を決めるのは誰? 欧州組のエリート選手が協会組織の犠牲になる恐れ

杉山茂樹スポーツライター
森保一監督(写真:岸本勉/PICSPORT)

 柏レイソル対川崎フロンターレ戦を視察した森保一監督はその試合後、来年1月に開催されるアジアカップに臨むチーム編成についてこう述べたという。

「FIFAの規定にしたがって選手を招集するつもりだ」

 各クラブは、代表チームを管轄する各国協会から所属選手に招集の要請があった場合、五輪など一部を除き、それに応じなければならない。アジアカップ(大陸選手権)も例外ではない。

 たとえばブライトンは、日本サッカー協会から三笘薫を招集したい旨の要請を受ければ、交渉の余地はあるものの基本的にノーと言える立場にはない。

 森保監督は強気にも、代表メンバーをその規定にしたがって選ぶと言うわけだ。さらに森保監督は「先輩たちは厳しい状況を乗り越え覚悟をして代表チームにきてくれていた。今回もアジアカップの経験が成長に繋がるという思いで招集させてもらうつもりだ」とも述べている。

 突っ込みたくなる台詞である。

 まず、これまでアジアカップに臨んだ“先輩”たちを引き合いに出している点である。彼らは“覚悟”して代表チームにきてくれたと言うが、シーズン中に所属クラブを1ヶ月以上離れれば、その間にポジションを奪われる可能性は少なくない。選手にとってアジアカップに参加することは大きなリスクになる。

 そこを我慢し、アジアカップに出場した代表チームの先輩たちに倣えと言うわけだ。

 だが、以前の日本代表と現在の日本代表とはチームの事情が違う。以前の日本代表はいまほど強くなかった。アジアカップの各試合は競った好勝負になる確率が高かった。代表強化に相応しい一大イベントだったのだ。優勝目指し高いモチベーションで一丸となれる大会だった。

 前回大会(2019年)まではそうだった。代表チームを取り巻く状況はその後の5年間で一変する。2022年カタールW杯でドイツ、スペインに勝った。ドイツには今年の9月にも大勝している。額面どおりに受け取るべきでないと兜の緒を締めたくもあるが、世界のトップグループに接近していることは事実。我々はいま、初めて見る景色を堪能することができている。

 欧州組の総数は、この5年間で倍増した。100人に届こうとしている。欧州カップ戦(チャンピオンズリーグ、ヨーロッパリーグ)に出場している選手も今季は10数名にのぼる。日本代表は経験したことがない新しいステージに突入している。

レアルソシエダ所属の久保建英(写真:岸本勉/PICSPORT)
レアルソシエダ所属の久保建英(写真:岸本勉/PICSPORT)

 そのタイミングで迎えるアジアカップが、かつてほど魅力的な大会に映らないのは当然か。サッカーは番狂わせの多いスポーツなので優勝確実とは言わないが、少なくともブックメーカーからは大本命に推されるだろう。大会のレベルと日本のレベルとの間には、大きな隔たりが生じている。

「アジアカップの経験が成長に繋がるという思いで招集させてもらうつもりだ」とは冒頭で紹介した森保監督の言葉だが、アジアカップのグループリーグで対戦する相手が、欧州のカップ戦を戦っている選手には「2部リーグ」以下に感じられるだろう。レベルが低すぎる相手と戦って、勝利を収めても得るものは少ない。成長には繋がらない。森保監督にはその理屈がわからないのだろうか。先輩たちを例に挙げ、覚悟を持ってと選手に迫る時代ではなくなっている。向き合い方を変える必要がある。

 同じ大陸選手権でも、ユーロやコパアメリカなら森保監督の主張も筋が通る。ユーロではフランスやイングランド、コパアメリカではブラジル、アルゼンチンあたりが優勝候補になるだろうが、下との差が接近しているのでグループリーグから接戦が予想される。開きがあったとしても、せいぜい1部リーグの上位と下位ぐらいの関係だ。選手はそこで一皮剥け、成長して所属クラブに帰ってくる可能性がある。

 アジア勢との戦いでそれは期待できない。下手になって戻ってくる可能性がある。怪我の心配もある。所属チームとしては、できれば出したくないはずだ。

リバプール所属の遠藤航(写真:岸本勉/PICSPORT)
リバプール所属の遠藤航(写真:岸本勉/PICSPORT)

 アジアカップではなくユーロに参加したい。アジアから抜け出さないとレベルアップを図れない。11月からスタートするW杯アジア予選に至っては、枠がこれまでの4.5から8.5に倍増。予選落ちする確率は1%もないだろう。日本は実力と枠の関係で、世界で一番緩い環境に身を置いている。

 低レベルのアジアカップやアジア予選の戦いを通して、日本が強くなるとは思えないのだ。選手それぞれに所属クラブで頑張ってもらう方がよほど代表強化に繋がる。欧州カップ戦は、アジアカップ決勝(2月11日)の3日後(2月14日)に決勝トーナメントがスタートする。

 両方に出場することは日程的にタイトすぎる。どっちに出場した方が代表強化に繋がるか。答えは見えている。次回2026年W杯でベスト8を目指そうとすれば、日本は従来とは全く異なるコンセプトで臨むべきなのだ。

 しかしその判断をするのは監督ではない。本来は技術委員長の仕事だ。しかし、技術委員長の反町康治氏はカタールW杯が終わってほどなくすると、代表関連の仕事から手を引いた。あるいは引かされたのか。経緯は定かではないが、森保監督との相性が原因ではないかと推察される。退任会見もない、信じられない問題が起きたにもかかわらず、巷では大きな騒ぎにならなかった。代わって「代表チーム付き」になったのは山本昌邦氏。ナショナルチームダイレクターという肩書きが付けられているが、実際どれほどの責任があるのか。明らかにされていない。こちらも就任会見は開かれていない。

 冒頭に記した森保発言を聞いていると同監督が全権を握っているようにさえ見える。日本代表が、歴史上最大の岐路に立っているというのに、サッカー協会は組織として満足な対応ができずにいる。そのしわ寄せが欧州組に及んでいる。これでいいとは思えない。

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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