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互いに認め合う天才、武豊騎手とフランキー・デットーリ騎手のエピソード

平松さとしライター、フォトグラファー、リポーター、解説者
2012年のシャーガーCで顔を合わせたじゃれ合う天才2人

世界中で顔を合わせる2人の天才騎手

 1月5日に開幕した今年のJRAの競馬も3週目を終えた。この時点で武豊騎手は12勝。リーディング争いの3位に立っている。この3月には51歳となる大ベテランだが、衰えは全く感じさせない。

 昨年、そんな日本の伝説的なジョッキーがフランキー・デットーリ騎手と食事をする際、誘っていただいた事があった。また、デットーリとは夏にイギリスでゆっくりと話をさせていただく機会もあった。いずれの席でもイタリア人ジョッキーの口から日本のナンバー1騎手をリスペクトする言葉を聞く事が出来た。今回はそのほんの一部を紹介しよう。

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 昨年、エネイブルによる凱旋門賞3連覇こそならなかったものの、G1を19勝。先出のエネイブルによるキングジョージ6世&クイーンエリザベスS(G1)やクリスタルオーシャンによるプリンスオブウェールズS(G1)、アナプルナやロジシャンを駆ってのオークス(G1)、セントレジャー(G1)などなど、ビッグレースを勝ちまくり相変わらずの存在感を見せつけた。

 そのデットーリと、昨夏、イギリスのグッドウッドでゆっくり話をさせていただいた。久しぶりに来日し、短期免許で騎乗する事が決まっていた彼は「ユタカと乗るのが楽しみ」と語っていた。

 「ユタカとは毎年、世界のどこかで必ず顔を合わせている。この前もロイヤルアスコットで会っているし、この後も凱旋門賞やブリーダーズCで一緒に乗るだろう。ジョッキーとしてのレベルはもちろんの事、人としても見習うべきところが沢山あるので、彼に会うのはいつも楽しみなんだ」

2019年のロイヤルアスコット開催で顔を会わせ、すぐに挨拶をかわした2人
2019年のロイヤルアスコット開催で顔を会わせ、すぐに挨拶をかわした2人

 デットーリをフランキーと呼ぶ武豊も異口同音に語る。

 「フランキーとは不思議と世界中どこの競馬場でもジョッキールームのロッカーがすぐ近くなんです。フランスのドーヴィル競馬場では隣あっています。もちろん常に気になるジョッキーなので、会えば必ず言葉をかわします」

 才能はどれだけ多くの経験にも勝ると思われるが、溢れんばかりの才能に満ちた2人が世界中で未だに経験を積み続けているのだから、相変わらず他をけん引しているのも当然という事だろう。

2008年、イギリスでの2人
2008年、イギリスでの2人

2人だけが知る共通点

 この2人とのエピソードでよく覚えている事がある。2013年の話だ。トルコの競馬場で行われた騎手招待競走で2人は共に世界選抜チームとして組んだ事があった。その晩、競馬場の近くで食事をした際、デットーリが珍しく愚痴ともとれる言葉を口にした。当時の彼は長年蜜月関係にあったゴドルフィンとの専属契約を解消したばかり。勝ち鞍もデビュー以来最低の落ち込みようで、時に唇を噛み、時に小首を傾げつつ、言葉を紡いだ。その食事会が終わり、デットーリと別れた後、武豊と共に「フランキー、元気がなかったね。大丈夫かな?」と共に話したのだ。

2013年のトルコ。チームを組み団体戦で優勝した際の2人(後方)
2013年のトルコ。チームを組み団体戦で優勝した際の2人(後方)

 今回、そんな話をデットーリ自身にぶつけてみた。すると、答えつつ、逆に武豊に質問を投げてきた。

 「確かにそんな時期もあったね。ジョッキーをやっていると色々ある。ユタカだって常にトップを維持しているわけじゃないだろう?! 僕の場合、妻に叱咤激励されて立ち直れたけど、ユタカはどうなんだい?」

 これに対し武豊は「応援してくださる人達の存在が大きかった」と言い、更に続けた。

 「苦しい中でも勝つと喜んでくれる人が沢山いました。そういった人達のためにも頑張ろうと思えました」

 思えば1度、地獄を見たという点でも2人の天才ジョッキーには共通点があった。そういえば昔、こんな言葉を聞いた事があった。

 “チャンピオンの座につく事は難しい。チャンピオンの座を守る事はもっと難しい。1度陥落したチャンピオンの座に舞い戻る事は最も難しい”

 最も難しいその行為をもやってのけた2人には、彼等だけに通じ合う何かがあるのかもしれない。果たして今年はサウジアラビアでの招待競走が初顔合わせとなるのだろうか。いずれにしろどちらか1人を欠いた片肺飛行となるよりも、2人が揃って世界中で名勝負を見せてくれる事を願いたい。

24日発売の月刊優駿での対談シーン
24日発売の月刊優駿での対談シーン

*なお、この2人の対談を進行させていただき、まとめた記事を24日発売の『月刊優駿』2月号にて記しています。どうぞご高覧ください。

(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)

ライター、フォトグラファー、リポーター、解説者

競馬専門紙を経て現在はフリー。国内の競馬場やトレセンは勿論、海外の取材も精力的に行ない、98年に日本馬として初めて海外GⅠを制したシーキングザパールを始め、ほとんどの日本馬の海外GⅠ勝利に立ち会う。 武豊、C・ルメール、藤沢和雄ら多くの関係者とも懇意にしており、テレビでのリポートや解説の他、雑誌や新聞はNumber、共同通信、日本経済新聞、月刊優駿、スポーツニッポン、東京スポーツ、週刊競馬ブック等多くに寄稿。 テレビは「平松さとしの海外挑戦こぼれ話」他、著書も「栄光のジョッキー列伝」「凱旋門賞に挑んだ日本の名馬たち」「世界を制した日本の名馬たち」他多数。

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