ドイツ・バイエルン州の聖なる4週間 よみがえったクリスマスマーケットと伝統や風習を体験する旅 その2
キリストの降誕を記念するクリスマスまでの聖なる4週間、アドベント(待降節)は、ドイツが一番輝く季節です。灰色の空、夕闇も早く訪れるどんよりとした街中に、今年はクリスマスマーケットの輝きが2019年のようによみがえりました。
ミュンヘンから出発したバイエルン州を巡る旅。前回に続き、今回はロマンチック街道沿いの街ネルトリンゲンで有名な猫職員や、ミシュラン星1つを保持するコックとの出会い、さらに世界遺産の街レーゲンスブルクへ。(画像はすべて筆者撮影)
市城壁に囲まれた中世都市ネルトリンゲン
ロマンチック街道のネルトリンゲンは、完全に市城壁で囲まれた円形城郭都市。「進撃の巨人」のモデルの街として、また市内の名所ダニエル塔の猫職員や300以上の豚のオブジェが出迎えるユニークな中世都市です。
この街があるのは、今から1500万年前の隕石の衝突によって生じた直径25kmのクレーターがリース盆地となったことに起因するようです。
中世の頃と同じように今も、旧市街には5つの城門からしか入ることができません。旧市街をぐるりと囲む城壁2,7kmの上を歩くこともできるので、一部だけでも歩いて、上から街を眺めてみるのもいいでしょう。
旧市街に入ると市内の中ほどに聳え立つダニエル塔が最初に目に入ります。高さ90メートルのこの塔は、聖ゲオルク教会の横にあり、塔の上から息をのむような景色を見渡せます。
早速塔を上りました。塔の番人ロベルト・ゴットハルドさんと猫職員「ウェンデルシュタイン」が出迎えてくれました。入場料は塔の入り口ではなく、ここで支払います。(大人4ユーロ) 現在番人は2人いて、交代で勤務しているそうです。
かつてダニエルの塔は、街にとって非常に重要な役割を担っていました。火事や敵から住民の安全を確保するために、 2人の見張り番が交代で昼夜問わずここから街を監視したのです。すべての衛兵が持ち場につくように、暗くなると「ゾー、クゼル、ゾー(So, G‘sell, so)」、「さあ、仲間たちよ」の意」と東西南北に呼びかけたそうです。
今日でも、当直の見張り番人は、ダニエル塔の上から午後10時から深夜まで30分ごとに呼びかけています。番人の仕事は観光客の対応が中心になっていますが、中世からの伝統を受け継ぐ大切な業務も担っているのです。
そこでひとつ街のアイドル「豚」オブジェにつながる言い伝えをご紹介。
1440年、ある女性が夫のためにビールを手に入れようとしたそうです。すでに城門は門番によりすべて施錠されているはずでした。ところがレプシンガー門で、暴走した雌豚が後ろ足をゲートにこすりつけているのを目撃した彼女は、門がしっかり閉まっていないことに気がつきました。
レプシンガー門は交易路として重要な城門です。不信に思った女性は、憤怒の叫びをあげ、不忠実な門番を非難します。すると彼らは、エッティンゲン伯爵が武装した一団を率いて街を征服するために、夜間に門を開けておくように賄賂を贈られたことを告白したとか。こうして、一匹の雌豚がネルトリンゲンを救ったのです。
この言い伝えは事実かどうか誰も知りませんが、その後2人の門番が反逆罪で処刑されたのは事実だそう。以来、街を救った豚は幸運を呼ぶオブジェとして飾られています。
この街でもクリスマスマーケットが再開されました。歴史ある街を背景にしたロマンチックなマーケットは、歩行者専用道路とマルクト広場で開催され、賑わっていました。
ミシュラン1つ星レストラン「マイヤーズ・ケラー」へ
いつもはネルトリンゲン旧市街を見学して次の旅先へ行くため、観光スポット以外のネルトリンゲンを知りませんでした。今回、この街で2009年からミシェランの1つ星を一貫して獲得している人気レストランがあると聞き、行ってみました。
レストラン「マイヤーズ・ケラー」は、母親から1984年に引き継いだヨックル・カイザー氏が妻のエヴェリンさんと共に一流のガストロミーへと導いた店です。かつてここはビール醸造所だったそうです。家族経営の3代目ヨックル氏のお手前を拝見することができました。
同レストランの人気の秘訣は、ロールキャベツ、マウルタッシェン、ウィンナーシュニッツェルなど伝統料理とグルメ料理、そして持続可能性を融合させて客に食べる楽しみを伝えているからです。
妻エヴェリンさんはサービス部門の責任者であり、ワイン鑑定家であり、オープンな目と耳と大きな心を持ち、ヨックル氏を支援しています。ビアガーデン料理をメニューから外し、屋外スペースを360席から70席に縮小したそうです。こうしてモダンでサスティナブルなコンセプトを開発し、大成功を収めました。
「Wirtshaus」(小規模な飲食店の意)を何度も口にしたヨックル氏。気取りのない、誰でも気軽に足を運べるレストランとして、彼は地消地産、スローフードをポリシーに掲げています。
ヨックル氏が調理する上で、心がけている3点を教えてくれました。
1)伝統、ノウハウ、クラフトマンシップ、これらなしでは成り立ちません。
2)絶え間ない発展のために好奇心と情熱、良い食材。
3)私たちはチームの仲間と共に、来客のために料理をします。双方向の誠実なつながりが、私たちの仕事の基本です。
次回ネルトリンゲンを訪れた時に、また行きたいレストランです。クラシックメニューは23ユーロから、6コースメニューは89ユーロ。ミシュラン星メニューは、3コース85ユーロから7コース189ユーロまで幅広く提供中。
自然の驚異ドナウ渓谷
思い残すことなくネルトリンゲンを後にして、次は世界遺産の街レーゲンスブルクへ向かいました。途中、ヴェルテンブルク近郊のドナウ峡谷にたちよりました。
レーゲンスブルクの南西約25kmに位置するドナウ渓谷の狭い区間は、ヴェルテンブルク・ナローズと呼ばれています。高さ70mにも及ぶ岩肌の間を、約5kmにわたってドナウ川が流れています。特に朝、霧が立ち込める時間帯は、息を呑むほど美しい自然の光景が広がります。
ギネスブック登録の世界最古のゲストハウス「レェール」
レーゲンスブルク市内に入る前、近郊の街アイルブランにあるギネスブックに「家族経営の世界最古のゲストハウス」として登録されている「レェール」でランチを食べました。
築1000年近いレストランの建物は、遠くから見ても歴史的な趣が伝わってきます。室内の木製の調度品はそのほとんどが19世紀につくられたものだそう。
2006年に11代目経営者として引き継いだムック・レェール氏。2010年11月、「世界で最も古いレストラン」の称号をギネスより授与されたことを大変誇りに思う」と、笑顔で語ります。
このレストランは、今も周辺の射撃倶楽部や婦人たちなど、多くの常連の集会所として人気を集めています。夏は隣接するビアガーデンが大賑わい。一緒に座って食べておしゃべりして意見交換をしたリと地元民に愛され続けているレストランです。
世界遺産の街レーゲンスブルクで活躍するアーティスト
曲がりくねった路地、パステルカラーのファサード、石畳、そして中央の大聖堂。「世界で最も美しい都市のひとつがバイエルン州の東部の中心都市であるレーゲンスブルクです。宗教的建造物群や、対岸にあるシュタットアムホーフの旧聖カタリナ慈善病院などの歴史的建造物は世界遺産に登録されています。
レーゲンスブルクで活躍するアーティスト、アンドレ・マイヤー氏と一緒に市内を散策しました。ロシアのベルラーシ出身の彼は、壁画家で動物のモチーフが大好きだそう。祖父がレーゲンスブルク出身で、彼自身もすでに10年この街に住んでいるといいます。
カラフルなファンタジーの世界で飾り、市内のあちこちに絵を描いているそうです。ただし、「ユネスコの世界遺産であるこの街は、当然ながら特別な保護下にあります。だから、通路か中庭しか壁画は描けません」と、アンドレさん。
最近のもっとも優れた作品は、5階建てのホテル「ミュンヒナーホーフ」の壁に女性の肖像画。中世の鎧を身にまとい、犬を抱いた女性が何かを語っているようです。
「この女性にレーゲンスブルクを重ね合わせました。鎧は中世を象徴し、小犬は市が大切にする私たち住民を表しています」(アンドレさん)
もう一人、素敵な職人に出会いました。小さなビーズで大きなアートを生み出すクラウディア・フリューゲル=エバーさん。2013年 、ローマ時代の文化財「ポルタ・プレトリア」の向かいに、小さなカフェとアンティークショップを併設したお店「カラケス」を開業し、ご主人と共に経営しています。
ここではユニークなジュエリー、チョーカー、ブレスレット、ニットビーズバッグの製造と販売をしています。特にクラウディアさんが注目されているのはおそらくバイエルン州で最後と言われるビーズバッグの編み手だからです。ビーズは日本製を直輸入し使い、編み針は象牙製を使っているそうです。
「制作プロセスは、まずパターンやアイデアが必要です。そしてサイズを決めて、ビーズを選ぶという流れで、色は事前に考えています。小さなビーズバックで約70時間、普通のサイズで約140時間、平均して3万個のビーズを編み込みます。年間3袋を何とか編んでいます」とクラウディアさん。
市内最古のクリスマスマーケット・ノイプファール広場
レーゲンスブルクに到着。計5つのクリスマスマーケットが開催されており、早速そのうち2つを訪ねました。
まず旧市街の真ん中ノイプファール広場の「クリストキントマルクト」。市内最古で一番賑わっているマーケットです。200年以上の歴史があり、クリスマスギフト、装飾品、手工芸品、そして美食の屋台が、訪問者を迎え入れてくれます。
トゥルン・ウント・タクシス城の庭で開催プライベートクリスマスマーケット
もう一つは、いつかは訪問したいと憧れていたこの街の伯爵トゥルン・ウント・タクシス家の城の敷地で開催されているプライベート・クリスマス・マーケットです。
約130の露店が並ぶ広大なマーケットでは、美術品や工芸品、美食などを楽しむことができます。池田理代子さんの漫画「オルフェウスの窓」の舞台となった城として有名です。さらにこの城には華麗な装飾が施されたサロンや居間、社交室など500にもおよぶバロック、ロココ、古典様式の部屋があり、ロンドンのバッキンガム宮殿より広いそうです。
公園のような城郭庭園は、ガイド付きでしか入れません。クリスマスマーケットの場合、入り口で入場料金を支払いますが庭園は自由に見学も可能です。
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次回はバイエルンの森散策とミュンヘンのクリスマスマーケット訪問をお届けします。