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ドイツ・バイエルン州の聖なる4週間 よみがえったクリスマスマーケットと伝統や風習を体験する旅 その1

シュピッツナーゲル典子在独ジャーナリスト

キリストの降誕を記念するクリスマスまでの聖なる4週間、アドベントは(待降節)は、ドイツが一番輝く季節です。灰色の空、夕闇も早く訪れるどんよりとした街中に、クリスマスマーケットの輝きが2019年のようによみがえりました。

通常は日本からの訪問客が一番多いドイツ・バイエルン州のクリスマスマーケット、伝統や風習を体験する旅に出ました。

旅はバイエルン州の州都ミュンヘンから出発し、G7開催会場として注目を集めた「シュロスエルマウ」、冬季スポーツの聖地ガルミッシュ=パルテンキルヒェン、レーゲンスブルクを経由し、再びミュンヘンに戻るルートです。現地発クリスマスマーケットの様子と共に3回にわたりご紹介します。

(画像はすべて筆者撮影。トップ画像はミュンヘン・新市庁舎前マリエン広場クリスマスマーケットにて)  

G7開催地「シュロスエルマウ」へ

シュロスエルマウは、バイエルン州のガルミッシュ=パルテンキルヒェンとミッテンヴァルトの間にある自然保護区にあり、絵のように美しい高台の谷にひっそりと建っています。

ミュンヘンから南へ約100km、標高1000mのヴェッターシュタイン山脈の麓に位置し、完全な静寂と自然の牧歌的な風景を楽しむことができます。この高級ホテルには、専用の有料プライベート道路を通らなければ行くことができません。

独メルケル前首相と米オバマ元大統領が会談した図書室(本館)
独メルケル前首相と米オバマ元大統領が会談した図書室(本館)

シュロスエルマウは、ドイツが議長国を務めた2015年と2022年にG7 (ドイツ、フランス、イギリス、イタリア、日本、アメリカ、カナダ) サミット会場として各国の首脳の会談や会議に魅力的な舞台を提供した5つ星スーぺリアリゾートホテルです。

高さ数メートルのフェンスで谷全体を封鎖し、ヘリポート、移動式司法センター、大勢の警察官が数日間にわたってエルマウ城を厳戒態勢で守りつつ、客室からは、山々の素晴らしい景色を眺めることができる点が会場になった大きなポイントです。

新館のリトリート入口にて
新館のリトリート入口にて

2015年に行われた初のG7会議を前に、誕生したのが新館「リトリート」です。本館ホテルから歩いて2分程離れた場所にあります。

新館内の様子
新館内の様子

それ以後は2つのホテル(本館ハイダアウェイと新館リトリート) 、1つのリゾートを看板に掲げています。大人用と家族用の専用エリアとプールを備えた時代を超えた美しい6つのスパ、優秀なセラピスト、持続可能な薪で温める屋外インフィニティプール、本格的なオリエンタルハマムや日本の温泉プール、さらに広々としたリラクゼーションルーム、塩水蒸気浴、サウナでリラックスできます。

最初に目についたのはソファーやデコレーションのあちこちの像のモチーフです。シートクッション、アームチェア、タペストリー、石の彫刻など、いたるところに象が描かれています。

新館ロビー
新館ロビー

背景には現3代目オーナー、ディートマー・ミュラー=エルマウ氏が幼少期をインドとアメリカで過ごしたことに起因するようです。ちなみに象は判断力と記憶力を表すそうです。

新館客室プレジデンシャルスイート
新館客室プレジデンシャルスイート

さらに驚いたのは本館にあるホテル併設とは思えない程広大なコンサートホールです(200-250人収容)。ワールドクラスの音楽家を迎え入れるコンサートに出向くだけでも価値のある場所でしょう。ちなみに新館には小ホールもありました。

コンサート大ホール
コンサート大ホール

小ホール
小ホール

アルプスの麓の家並みを飾るフレスコ画アーティスト

アルプスの麓、バイエルン州の道路を走ったことのある人なら、建物に描かれた大きな、時には古くて色あせた壁画に気づくでしょう。これらの絵は「リュフトルマレライ」と呼ばれ、家の壁に塗られた生石灰の漆喰に、フレスコ画の特殊な技法で絵が描かれています。

何世紀にもわたって、リュフトルマレライはオーバーバイエルンの多くの村や町で町並みを特徴づけてきました。すべてが古いわけではなく、新たに描かれたものもあります。

ベルンハルト・リーガー氏・自宅前にて
ベルンハルト・リーガー氏・自宅前にて

夢のような空間シュロスエルマウを後にして、フレスコ画アーティストのベルンハルト・リーガー氏の工房を訪ねました。

ベルンハルトさんの自宅横にあるアトリエ兼ショールームで、彼の数多くの作品を鑑賞。絵画のほか、ポップアート風のキャンバス画や、彼のレーベル「Alpenterieur」の家具や装飾品も展示されています。

フレスコ画、漆喰、ポップアートについて「古い作品を大切にしながら、独自のモチーフで刺激的なアクセントを加えています。これをLüftlmalerei(リュフトルマレライ)と呼びます」と、ベルンハルトさん。

常に家、住む人、その周辺、地域と向き合い、それをデザインに反映させ、昔のリュフトルアーティストたちのように、彼は人生から物語を解釈しているそうです。

オリンピックスタジアム・ガルミッシュ=パルテンキルヒェン

1936年 はスポーツの歴史がガルミッシュ=パルテンキルヒェンに刻まれた記念すべき年となりました。第4回冬季オリンピック大会がこの地で開催されたのです。

ジャンプ台の頂点は霧に隠れて見えません
ジャンプ台の頂点は霧に隠れて見えません

「Four Hills Tournament」の一環として、最も有名なトップレベルのスポーツイベントの1つであるニューイヤー・スキージャンプは、現在もこの街のオリンピック・スキー・スタジアムで開催されます。2万人以上のウィンタースポーツファン、そして世界中の約1億人のファンとともに、テレビ画面の前でスキージャンプの最高の瞬間を分かち合う理想的な環境がここにあります。

トーマス・シェックさん
トーマス・シェックさん

ガイドのトーマス・シェックさんの案内で地上149mのジャンプ台最高地点まで歩き、オリンピックの空気を吸ってみました。残念ながら当日は、霧が立ち込め視界は遮られてしまいましたが、競技選手たちの勇気と畏敬の念を抱いた瞬間でした。ガイドツアー見学で一度ここの雰囲気を味わってみたいものです。

意外だったのは、なんとジャンプ台の赤ラインは、赤キャベツを利用して引いているのだとか。また地元民のボランティア活動も活発で、競技会では人手は充分あるとのことです。

ジャンプ台の頂点からは着地点が見えない
ジャンプ台の頂点からは着地点が見えない

スキージャンプの後継者育成にも困っていないそうです。ガルミッシュ=パルテンキルヒェンと近郊オーバースドルフ在の子供達は、5歳から無料でジャンプの練習ができます。メンバー費として年間200ユーロ支払うそうですが、競技会でボランティアとして活動すると、200ユーロも戻ってくるという、主催者側と協力者側の両者にメリットのある取り組みを行い、地域を活性化させています。

左は5歳から、右は14歳以上が練習できるジャンプ台
左は5歳から、右は14歳以上が練習できるジャンプ台

松明で巡る自然の驚異「パルトナッハ渓谷」 

ガルミッシュ=パルテンキルヒェンと言えば、ドイツ最高峰のツークシュピッツェ山への登山口として知られます。今回はこの街のもう一つのアトラクション、パルトナッハ渓谷を巡るツアーに参加しました。ツアーの道のりは約700m、岩壁の高さは80mです。

午後5時過ぎ、ツアースタート地点へ向かいました。外はもう真っ暗です。松明を手に岩壁沿いの細い道を歩くと、岩壁を流れる荒々しい滝や勢いよく流れる急流など大自然の驚異を体感でき、まるで異世界にいるようです。

この渓谷の形成は、数百万年前、雪解け水と岩屑が硬い岩をくりぬいてでき、残ったのは、ガルミッシュ・パルテンキルヒェンのパルトナッハという狭い渓谷だったのです。1912年には天然記念物として公開されるようになりました。1930年には、冬でもアクセスできるようになり、冬の渓谷で見る価値のある氷の造形にアクセスできるようになりました。

現在、パルトナッハはバイエルン・アルプスで最も印象的な渓谷の一つであり、毎年20万人以上の観光客が訪れています。

11月1日から3月31日までは、パルトナッハ渓谷で松明を使ったハイキングが許可されており、ガイド付きツアーを提供しています。

まるで絵本の世界・パルテンキルヒェンのルードヴィッヒ通り  

ガルミッシュ=パルテンキルヒェンのパルテンキルヒェン側の歴史地区にあるルートヴィッヒ通りは、市庁舎前広場から北東方向にセバスチャン教会まで続きます。ショッピングを楽しめるメインストリートで人気ですが、この通りを有名にしているのは、建物の壁に描かれた壁画です。

セバスチャン礼拝堂を境に、1811年以降に建てられた農家が軒を連ねる街並みが特徴的なこの通り、そのほとんどが2〜3階建ての漆喰の切妻屋根を持つ家屋です。素晴らしい中世の壁画があちこちの家の外壁に見られ、まるで屋外美術館のようです。

ドイツには各地にご当地ならではのソーセージがあります。バイエルンを代表するのは、ミュンヘンで生まれた白ソーセージ。早朝に作られ、市場やパブで甘いマスタード、プレッツェル、小麦のビールと一緒に食べるのが伝統的な食べ方です。

かつて冷蔵庫がなかった時代は、出来立てを午前中にしか食べませんでした。その名残りで、多くのレストランでは今も午前中に提供しています。

バイエルンの雰囲気をたっぷり楽しめるガルミッシュ=パルテンキルヒェンのレストラン「フラウンドルファー」でいただきました。

アルゴイ地方ゾントホーフェンで伝統と風習を体感

冬季スポーツや夏にはハイキングのメッカとして有名なアルゴイ地方のゾントホーフェンへ向かいました。

ここで現在6代目のビール醸造マイスターとして家族経営のヒルシュブロイを経営するキリアン・シュテュックラ―さんにお話を伺いました。

350年以上の歴史を誇る老舗「ヒルシュブロイ」醸造責任者のキリアンさんは、両親から醸造所を受け継げるようにと強制されることはありませんでしたと明かしました。

かつて銀行員として勤務し、海外に出た同氏は、自分の意志でビールを知るためにマイスターになろうと思い、ミュンヘンのマスターブルワリーとして修業するため帰独したそうです。

彼のビール造りへの情熱は、数メートル先にある伝統的な家庭料理を提供するレストラン「shandwerk」のオーナー、ウリ・ブランドル氏と結びついているのです。

キリアンさんが考案したビール「ローテ・ペルレ(赤い真珠)」は同レストランでしか飲むことができません。

レストラン到着後まもなく、何事かと思う驚くような大きな音が店内に響き渡りました。毛皮や角を身に着けた恐ろしい形相のクラウゼントライベン(悪霊退治をする人達)でした。ゾントホーフェンにはクラウゼンクラブがあり、特別に演出してくださったのです。

冬の邪気を払うとされる古くからの風習クラウゼントライベンを演ずる人達は、力強い動物の皮と動物の角のついた仮面をつけています。重いカウベルをベルトから吊り下げ、歩くたびに鳴り響き、手には棒を持って武装し、集団で音や奇声を出しながら走り回ります。

伝統によれば、鞭の打撃は生命の恵みを広め、豊穣をもたらすとされているとも言われているそうです。

クラウゼントライベンは、約1000年の歴史があり、古代ケルト人の習慣に遡り、アルプス地方特有の風習です。聖ニコラスの日(12月6日)には、クラウゼントライベンがアルゴイ地方の集落を練り歩きます。

ゾントホーフェン・クラウゼンクラブの2代目会長であるマティアス・ヘヒト氏によると、同クラブに加入できるのは、16歳から26歳の未婚の地元若者たち。そしてドイツパスポート(ドイツ国籍)を有することが基本的な条件だそう。

ちなみにマティアスさんは既婚ですが、特別イベントで披露する場合は問題ないそうです。同クラブがゾントホーフェンを練り歩くのは、12月5日と6日の夜8時から10時まで。その間、クラブメンバー3人はクラウゼンが行き過ぎないように配慮しているそうです。

衣装は、クラブ員自身が制作するそうです。基本は頭からつま先まで毛におおわれ、腹にはカウベル、頭には角がついています。衣装の重さは25になることも。また衣装にかかる費用は2000~3000ユーロにも上るそうです。

ゾントホーフェンのクラウゼンクラブの皆さんが登場した12月5日夕方、106人のクラウゼンが恐ろしい衣装で、耳をつんざくような鐘の音を響かせながら街の中心部を歩きまわり、人々を追いかけまわした動画を是非ご覧ください。

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翌日はロマンチック街道の街ネルトリンゲンと世界遺産の街レーゲンスブルクへ向かいました。タイトルに挙げたクリスマスマーケットをたっぷりその2でご紹介します。

在独ジャーナリスト

ビジネス、社会・医療・教育・書籍業界・文化や旅をテーマに欧州の情報を発信中。TV 番組制作や独市場調査のリサーチ・コーディネート、展覧会や都市計画視察の企画及び通訳を手がける。ドイツ文化事典共著(丸善出版)国際ジャーナリスト連盟会員

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