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空や宇宙から捉えた「不自然な雪のライン」、アメリカで珍現象が相次ぐ

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
カンザス州に現れた不思議な雪のライン (NOAA提供の画像に筆者加筆)

ずぶ濡れになって出社したAさん。興奮をおさえきれない様子でこう言いました。

「すごかったんだよ。どしゃ降りのなか自転車をこいでいたら、交差点で信号にひっかかってしまって。そしたら向こう側の道は雨が降ってなかったんだ。雨の境ってほんとにあるもんなんだな。」

大変極端ではありますが、『夕立は馬の背を分ける』ということわざがあります。馬の背の片方は雨でも、もう片方は降っていないというように、雨が局地的に降る例えとして使われます。

先週、このことわざを彷彿とさせるような面白い現象が、アメリカで立て続けに起きました。

「馬の背を分ける雪?」

飛行機に乗ったレイ・マーツさんが、ふと窓に目をやると、見たことのないような光景が広がっていました。カンザスの大草原が広がる大地に、延々と続く白い一直線のラインが現れたのです。下の写真が、その時撮ったものです。

目を疑うような不自然さで、雪が積もっているではありませんか。ちなみにタイトルに載せている衛星写真にも、北西から南東に向かって伸びる明瞭な雪のラインが捉えられています。

雪の幅は何キロ?

雪の幅はどれほど狭かったのでしょうか。

気象局によると、その幅は16~24キロほどで、その範囲に最大33センチの雪が積もったといいます。

この距離は大雑把に言うと、東京~川崎間、神戸~尼崎間、名古屋~犬山間くらいです。こんな近距離で天気が違うのですから、天気予報が難しいことがよくわかります。

「消化ホース雪」

一般に、極細ライン状の雪は珍しいのですが、アメリカの五大湖辺りでは発生することがあるようです。

先月28日にも、ニューヨーク州で直線状の雪が降りました。最大で1メートル超の雪が降って、交通事故が多発するなど、住民のイライラが募りました。しかし雪以上に人々の反感を買ったのが、地元のテレビ局でした。

一体何が起きたというのでしょう。

事の発端は、CBSニュースが「非常に珍しい現象『消火ホーススノー (Firehose snow)現象』が発生した」と伝えたことにあります。

消火ホースから一直線に勢いよく出てくる水のように、ライン状に降った大雪をよく表しているように聞こえます。

しかし実際は、「消火ホーススノー」なる言葉は存在しないし、そもそもこうした現象は全く珍しくないそうなのです。結果CBSは、気象関係者や地元の人々などから、消火ホースのように次々と厳しい非難を浴びる始末となりました。

天気に関する極端な表現は、ことわざに任せておく方がいいようです。

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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