糸魚川市大規模火災は「自然災害」~被災者生活再建支援法と自然災害債務整理ガイドラインも適用対象に
糸魚川市大規模火災は自然災害なのか
12月22日、新潟県糸魚川市駅北で起きた火災(糸魚川市大規模火災)は、144棟を焼失・焼損させ、焼損面積は4万平方メートルに及んだ。120世帯224名が被災者となった(糸魚川市災害対策本部)。政府は同日「災害救助法」を発動している。
被害拡大の原因は、異常な強風と、山を越えてきた風が吹き下ろす際に乾燥と気温上昇を引き起こす「フェーン現象」によるとされる。発火後は、20m/sを超える強風が吹き、気温は18.4℃と高温だった(糸魚川市消防本部観測)。
12月27日、内閣府(防災担当)は与党災害対策特別委員会において、火災という人為的な要因であり、自然災害を前提とした被災者支援制度の適用は困難である旨説明をした。議員らは、強風とフェーン現象の発生などを述べ、内閣府に対して自然災害と認めるよう再検討を促した。なお、これに前後して、複数野党からも今回の火災を自然災害と認定するよう内閣府に申し入れがあった。
自然災害であれば様々な支援制度が使える可能性
自然災害であれば、被災者の再建にとって有益な制度が使える。特に重要なのが「被災者生活再建支援法」と「自然災害債務整理ガイドライン」である。
「被災者生活再建支援法」は、一定数の住宅が全壊するなどの「自然災害」(暴風、豪雨、豪雪、洪水、高潮、地震、津波、噴火その他の異常な自然現象により生ずる被害)があった場合に適用される。住居全壊の場合、まずは基礎支援金として、最大100万円の現金支給がある。使途に制限はない。ここから一歩を踏み出すためには貴重な現金支援である。その後も住宅再建などの際に加算支援金として、最大200万円が支給される。
「自然災害債務整理ガイドライン」は、災害救助法が適用される「自然災害」によって、住宅ローン等を借りている「個人」や事業性ローンを借りている「個人事業主」が支払困難になった場合に、破産などの法的手続によらず、金融機関と一定のルール(ガイドライン)に基づき債務減免の合意をするための仕組みである(各種要件はあるので留意)。その際には、先の被災者生活再建支援金などの差押禁止財産や、保険金等を含む相当程度の現金や必需財産を手元に残せるなどメリットが大きい。信用情報登録(ブラックリスト)などのデメリットもない。
糸魚川市大規模火災が「自然災害」と認定されるまで
12月27日の与党災害対策特別委員会後の動きをまとめておく。政治主導と専門家の提言が良い結果を生んだものと評価したい。
12月28日、新潟県弁護士会は「糸魚川大規模火災に関する会長声明」により「深刻かつ重大な事態が生じたことには、22日午前10時過ぎ以降、数時間に及んだ糸魚川市内の強風(最大瞬間風速27.2メートル。数時間にわたり10数メートルないし20数メートル)が大きく起因しています。ついては、行政や金融機関など今後の災害復興支援にあたられる各関係機関におかれては、震災や水害などと同様、糸魚川大規模火災を「自然災害」として事態を把握、対応し、最大限の支援を尽くされるよう強く求めます。」とし、糸魚川市大規模火災の自然災害性を訴えた。
同じく、12月28日、新潟県と糸魚川市は、政府調査団に対して、火災の規模の大きさや強風で被害が拡大した点を踏まえ、「自然災害」と見なして財政支援を行うよう政府に要望した(読売オンライン2016年12月28日「大火で政府調査団視察、新潟県・市が支援要望」など参照)。
12月29日、日弁連は「糸魚川大規模火災に関する会長談話」を緊急発表。「火災被害がこのような甚大な結果となったのは、火災発生時以降数時間に及んだ糸魚川市内の異常な強風とフェーン現象に起因しているとされており、この火災被害は自然災害というべきものです。したがって、糸魚川大規模火災の被災者の皆様については、自然災害による被災者の債務整理に関するガイドラインや被災者生活再建支援法等の適用により、生活及び事業の再建が図られるべきです。」と具体的に法令や制度を示して適用を訴えた。談話は新潟県弁護士会の声明と合わせて地元議員等へも送付された。
2016年12月30日、再び与党災害対策特別委員会が開催された。政府は、「強風によって延焼し、通常の火災とは異なる」として、被災者生活再建支援法の適用対象とすることを明らかにした(2016年12月30日NHKニュースウェブ「糸魚川火災 被災者生活再建支援法の適用対象に」など参照)。実際には、先述の被災者再建支援法が適用される「自然災害」のうち「その他の異常な自然現象」に発火後の強風とフェーン現象をあてはめたものと思われる。火災を自然災害と認める政府判断は初である。
今後は支援金とガイドラインの周知徹底を
今後は県と国の間の手続きを経て、正式に被災者生活再建支援法の適用が決定されることだろう(※追記:12月30日のうちに糸魚川市への被災者生活再建支援法の正式適用が発表された。なお法律上の支援金額のみならず県による独自の上乗せ支給もなされる)。金融機関も今回の判断を受けて体制を整えていくはずだ(※追記:2017年1月4日付で関東財務局及び日本銀行が金融機関に対して被災者へのガイドラインの周知徹底を要請)。そうした場合、自治体や金融機関の窓口による徹底した「周知活動」が重要となる。被災者自身に伝わっていなければ、第一歩を踏み出すことはできないし、不安を和らげることも叶わない。
自治体においては、支援漏れがないように「被災者台帳」を十分に活用し、プッシュ型の情報提供支援ができるようにしてほしい。すでに「罹災証明書」は発行が始まっているが、追加で「被災者生活再建支援金」の支給がはじまることを、改めて周知しなければならない。新潟県弁護士会の無料法律相談をはじめ、多くの専門機関が相談窓口を開いているが、すべての被災者を把握しアプローチできるのは自治体以外にない。糸魚川市で開かれた被災者説明会では、今後の住まいとして、民間住宅を借り上げる等して災害救助法上の仮設住宅とする「みなし仮設」候補が多数提示されている(12月27日及び28日被災者説明会資料「住宅の入居等について」)。みなし仮設は、避難所と比較すると環境は良いが、コミュニケーションや情報共有は後退するという課題がある。
金融機関においては、契約者である個人債務者に対して、ダイレクトメールを発信するなどして「自然災害債務整理ガイドライン」の周知を図ってほしい。東日本大震災では、金融機関自身にも制度の周知が行き渡らず、減免ではなく単なる返済条件変更(リスケジュール)による対応が頻発してしまったという苦い経験もある。中長期の目線で地域の経済復興を考えれば、自然災害債務整理ガイドラインの適用の可否をまずは検討してほしい。
参考文献
・Yahoo!ニュース個人・岡本正「災害後に生活を取り戻すために~『熊本県弁護士会ニュース』(第1弾・2016年4月21日版)発行」
・岡本正「『自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン』の実務対応」JA金融法務(2016年7月1日 No.547)
・岡本正「災害復興法学」(2014年9月 慶應義塾大学出版会)