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ダイキン工業淀川製作所の労働者から高濃度PFOA検出

幸田泉ジャーナリスト、作家
PFASの血液検査によって職業曝露の状況が徐々に見えてきた=筆者撮影

 身の回りの製品に幅広く利用されながら人体への有害性が明らかになっているPFAS(ピーファス、有機フッ素化合物)。PFASの一種であるPFOA(ピーフォア、ペルフルオロオクタン酸)を製造していたダイキン工業淀川製作所(大阪府摂津市)の労働者が血液検査を受けたところ、高濃度のPFOAが検出されている。大阪では2023年、京都大学大学院医学研究科の予算で「大阪府民1000人血液検査」が行われ、実施団体として「大阪PFAS汚染と健康を考える会」(大島民旗代表)が設立された。摂津市内で血液検査の呼び掛けをした「大阪・摂津市PFAO汚染問題を考える会」(清水信行代表)は、「ダイキン工業淀川製作所の労働者で血液検査を受けたのは、会が把握しているところではまだ数人にとどまる。もっと広範囲の血液検査、健康影響調査が必要だ」としている。

「白い粉」を洗い落とす職場で労働

ダイキン工業淀川製作所で約10年働いた女性が血液検査を受けてみると、PFOA濃度が100ng/mlを超えていた=筆者撮影
ダイキン工業淀川製作所で約10年働いた女性が血液検査を受けてみると、PFOA濃度が100ng/mlを超えていた=筆者撮影

 ダイキン工業の協力企業に就職し、2023年末までダイキン工業淀川製作所で働いていた摂津市在住の女性(50代)は、「縦横高さが50センチぐらいのプラスチック容器を洗ってきれいにする仕事をしていた」と話す。女性によると、プラスチック容器は「白い粉」を25キロ詰めて出荷され、空になったものが返却されて来るという。「中に残っている白い粉を掃除機で吸い、スポンジで洗って汚れを落とす。その後は機械に入れて、洗浄、乾燥させる。白い粉はフワフワしているものもあったし、ザラザラしているものもあった」

 会社から「白い粉」が何なのか説明は受けておらず、「同僚がPFASを取り上げたインターネット動画を見つけ『ここで扱っているのはこれではないか?』と教えてくれた。それがきっかけでPFAS汚染が問題になっていることや、ダイキン工業がかつてPFASの一種のPFOAのメーカーだったことを知った」と言う。地元の市会議員から「大阪PFAS汚染と健康を考える会」が血液検査を実施すると聞き、申し込みをした。

 昨年9月、検査を受け、今年1月、4種類のPFASの血中濃度が記された結果が郵送されて来た。PFOS(ピーフォス、ペルフルオロオクタンスルホン酸)4.1ng/ml▽PFOA 127.7ng/ml▽PFHxS(ペルフルオロヘキサンスルホン酸)0.5ng/ml▽PFNA(ペルフルオロノナン酸)1.9ng/ml。4種類の合計は134.1ng/mlだった。(ngはナノグラムで10億分の1グラム)

 アメリカの学術団体「科学・工学・医学アカデミー」は、血中のPFASの合計値が20ng/mlを超える人は、甲状腺疾患、肝機能障害、腎臓がんなどPFASと関連性が指摘されている疾患について、診察、検査を勧めている。女性の血中濃度はこの指針値の6倍以上。中でもPFOAの値が突出していた。

 女性は約10年、プラスチック容器を洗う職場に勤務していた。15人が同時に勤務するローテーションになっており、作業着、ヘルメットは標準装備だったが、マスクや手袋の着用は人それぞれで、「マスクを着けていない人も多く、口の周りが白い粉だらけになっている人もいた」と振り返る。

 

ダイキン工業は「PFOAではなくPTFE」

 ダイキン工業淀川製作所は「返却されて来たプラドラム(プラスチック容器)は、PFOAではなくPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)が入っていたものだ」と説明する。

 PFASのうち現在、日本で製造、輸入が原則禁止になっているのは、PFOS、PFOA、PFHxSの三種類。PTFEも炭素とフッ素を人工的に結合させた有機フッ素化合物だが、摂取しても体外に排出されるため、これまで人体への悪影響は指摘されていない。

 ダイキン工業淀川製作所では、かつてはPTFEを製造する工程でPFOAを使用していたが、2012年以降はPFOAの取り扱いはなくなった。「これまで、PFOAを白い粉の状態でプラドラムに詰めて製品として出荷したことなどないし、PTFEの中にPFOAが大量に混入していることはあり得ない」(同製作所)。ではなぜ、PTFE用のプラスチック容器を洗浄する職場の労働者から、高濃度のPFOAが検出されるのかについては、「分からない」とした。

血中濃度が「労災レベル」の労働者も

ダイキン工業淀川製作所で15年以上働いている人の血液検査の結果は、PFOA濃度が820.9ng/mlと突出して高くなっていた=筆者撮影
ダイキン工業淀川製作所で15年以上働いている人の血液検査の結果は、PFOA濃度が820.9ng/mlと突出して高くなっていた=筆者撮影

 2024年になってから「大阪PFAS汚染と健康を考える会」の活動を知り、血液検査を受けた男性(50代)は、PFOAの血中濃度が800ng/mlを超えていた。ダイキン工業淀川製作所で15年以上働いているという。血液検査の結果は、PFOS 2.4ng/ml▽PFOA 820.9ng/ml▽PFHxS 1.3ng/ml▽PFNA 1.8ng/ml。4種類のPFASの合計は826.4ng/mlだった。

 ダイキン工業淀川製作所では10年以上前からPFOAの製造、使用はしていないにもかかわらず、これだけの濃度でPFOAが検出されるのは、体内に取り込むと排出されにくい残留性の高さをうかがわせる。男性は「有害物質を摂取しているという認識は全くなく、危険手当も出ていない。知り合いから血液検査を勧められ、半信半疑で受けてみたら、医師から『あなたのPFOA濃度は労災レベル』と言われて驚いた。他の人も検査を受け、健康診断した方がいいのではないか」と話す。

 

 この男性のPFOAの数値について、「大阪PFAS汚染と健康を考える会」では、「職業曝露としか考えられない」と受け止めており、労災申請も視野に対応を検討している。

 「大阪・摂津市PFAO汚染問題を考える会」の増永和起・摂津市議(共産党)は、「どうして未だに労働者のPFOA血中濃度が高いのか、PTFEを扱う現場でなぜ労働者がPFOAを摂取することになったのか、ダイキン工業は調査しなくてはならないはず」と指摘する。「ダイキン工業は自社の社員にとどまらず、協力会社や下請けの会社の社員、元社員も含め、広範囲に血液検査をして、健康調査をする必要がある。摂津市にはダイキン工業との協議を開始するよう求め、ダイキン工業にも要望書の提出や懇談の申し入れをしていく」と話している。

ジャーナリスト、作家

大阪府出身。立命館大学理工学部卒。元全国紙記者。2014年からフリーランス。2015年、新聞販売現場の暗部を暴いたノンフィクションノベル「小説 新聞社販売局」(講談社)を上梓。現在は大阪市在住で、大阪の公共政策に関する問題を発信中。大阪市立の高校22校を大阪府に無償譲渡するのに差し止めを求めた住民訴訟の原告で、2022年5月、経緯をまとめた「大阪市の教育と財産を守れ!」(ISN出版)を出版。

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