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NBA16年目のベテランが見せる「いぶし銀プレー」を支えるもの

林壮一ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属
2/9のHeat戦では39分30秒プレーし、21得点5アシストをマークした(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 NBAでは大抵の場合、Tip Off75分前にロッカールームの扉が開き、記者たちが選手からコメントを引き出す。ただ、試合開始のギリギリまでストレッチをしていたり、体幹トレーニングをしていたり、マッサージを受けていたりと、試合への入り方は、各々のやり方がある為、取材を受け付けない選手も少なくない。勝つことに集中しているのだから、こちらも文句は言えない。

 私が見る限り、ポートランド・トレイルブレイザーズで最も念入りに自らの定めたルーティンワークをこなしているのは、背番号8のトレヴァー・アリーザである。

 1985年6月30日生まれの34歳。NBAで16年目のシーズンを迎えた大ベテランだ。今年の1月20日に、トレードされてサクラメント・キングスからポートランドにやって来た。プロ入りしてから9つのチームを渡り歩き、2009年には先日亡くなったコービー・ブライアントと共にロスアンジェルス・レイカーズの一員としてNBAチャンピオンとなっている。

 身長203cm、体重101kgのアリーザは、NBA選手のなかでかなり細身だ。その彼は、まだ観客がアリーナに入って来ない時間帯からコートに現れ、黙々とシュート練習を繰り返す。

 2月9日のホームゲームにおいてもそうだった。3ポイントライン5箇所から、それぞれ5~8本シュートを放つ。コート左端のコーナーから、3本連続でシュートを外した時だけ、誰に対してでもなく「オワー」と声を上げた。

 アリーザが何十万回とこのトレーニングを重ねて、現在の己を築き上げたことが伝わって来る。自身の感覚を確かめていた。

 一通りシュート練習を終えると、センターのハッサン・ホワイトサイドに対して何度かブロックを試み、ファンが待つ通路に移動する。そして求められるままサインに応じた。物静かで真面目な人柄が伝わって来る。

 その後、控え室でアリーザにマイクを向けた。

 「まだ私が赤ん坊だった頃に母がバスケットボールをプレゼントしてくれ、気が付いたらやっていました。試合で活躍するようになり、クッキリとNBAを目標に掲げたのは、高校2年くらいでしたね」

 生まれはフロリダ州マイアミだが、小学4年生の時にカリフォルニア州ロスアンジェルスに引っ越す。高校時代に注目を集め、名門UCLAに入学。

 「中、高時代はフットボールやベースボールもやりました。様々な競技の経験は、必ず自分が選んだスポーツにもプラスになります。バスケをやりながら、ベースボールの打球を捌いたことや、フットボールの体のぶつかり合いなどが役立つなと感じたものです」

 大学では1シーズンのみプレーし、2004年のドラフトで、2巡目43番目にコールされてニューヨーク・ニックスに入団。同チームの最年少記録である19歳4カ月と4日でNBAデビューを飾った。

 「プロになりたいという夢を持った時から今日まで、毎日シュート練習を欠かしたことはありません。自分の武器が何なのか。今の自分にはどんなモノが必要なのか。それを理解し、練習すること。持続と繰り返しが大切です。学生時代は、どうすれば自分がNBAから呼ばれるかも考えました。トップレベルでやっていくには、他人には絶対に負けないモノを持たないと。

 

 私は第三者の目で自分自身のプレーを疑ってみることが不可欠だと考えています。そうすることで、日々の課題が見えますよね。自己の研究と反省、そしてトレーニングの量と内容が技術を向上させましたし、強い精神力も作ったように思います。

 キャリアを振り返ると……、2009年にNBAチャンピオンになった時に最高の喜びを感じました。でも、まだ1回だけなんですよ。逆に最も悔しかった思い出は、チャンピオンになる前々年、ファイナルでボストン・セルティックスに敗れたことです」

 2月11日現在、トレイルブレイザーズは西地区の9位。西も東も15チーム中8位までがプレイオフに出場できるNBAルールにおいて、苦戦を強いられている。

 「必ずプレイオフに出てみせます。まだ、このチームに入って十分な時間があったとは言えません。でも、日に日に良くなっています。ゲームをこなせばこなすほど課題が見えますから、それを克服する作業を全員で続けますよ。

 私は他人と自分とを比較しようと思ったことはありません。自分が出来うる最大限の努力をして、ベストな自分を作ることが肝心だと信じています。バスケ選手としてだけでなく、人間としてもそうです。<いつもベストな己を築く>ことを目標に生きています」

 私がトレヴァー・アリーザをインタビューした日のマイアミ・ヒート戦、背番号8はいぶし銀のプレーを随所に見せた。Tip Offからの2分44秒でトレイルブレイザーズは8得点を挙げたが、全てがアリーザのシュートだった。

 トレイルブレイザーズは東地区4位のヒートを115-109で下し、シーズン成績を25勝29敗とした。8位のメンフィス・グリズリーズとは目下2.5ゲーム差。アリーザの言葉通り、彼がチームにフィットすればプレイオフ進出の可能性は十分にあるように思えた。

 このベテラン紳士が、今後どんな働きを見せるか、非常に楽しみである。

ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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