金正恩の「神格化」を「死んだ将軍様」が邪魔している
北朝鮮でしばしば出される「替え歌禁止令」。最高指導者や体制を称賛するプロパガンダソングの歌詞を面白おかしく変えて歌い笑い飛ばす、虐げられた人々の諧謔だが、体制を揺るがしかねないとして禁止しているのだ。
だが、咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えてきたのは、それとは全く逆の話だ。国が正式に行った歌詞の変更に、国民が従わないのだという。
(参考記事:金正恩命令をほったらかし「愛の行為」にふけった北朝鮮カップルの運命)
その歌のタイトルは「愛そうわが祖国」という。
朝日が燦爛たるわれらの祖国は
人民が主となった幸せの国
愛そうわが祖国、限りなく慈悲深き懐よ
愛そうわが祖国、永遠に輝かしめん
先月30日のことだ。清津(チョンジン)市内の工場の職盟(朝鮮職業総同盟)の学習講演で、委員長がこの歌の学習しようと呼びかけた。その場にいた人々が歌い始めたが、歌詞が違っていた。このサビの部分だ。
愛そうわが祖国、金正日将軍様の懐よ
この曲は、1995年に発表されたもので、故金正日総書記を称えるものだったが、2021年にこの部分の歌詞が変更された。これは、金正恩総書記の神格化を推し進めるために、故金日成主席と故金正日氏の存在を薄めるプロジェクトの一環と見られる。
だが、人間はそう簡単に変わらない。特にこの歌は、思想学習や「歌の集い」、その他の様々な催しで頻繁に歌われてきたため、いくらテレビやラジオでヘビロテで放送しても、北朝鮮の人々は依然として、昔の歌詞で歌い続けているのである。
「50〜60代の年配の人のみならず、若い人も昔の歌詞で歌っている。青年同盟などで行進訓練や歌唱行進を行うときにも、依然として『金正日将軍様の懐よ』と歌う人が多い」(情報筋)
国は、新しい歌詞を歌うように誘導しているが、旧歌詞禁止令といった強行措置は取っていない。その理由は定かでないが、チュチェ年号を廃止したり、故金日成氏の生誕記念日の名称を「太陽節」から「4.15名節」に変更したりするなどの一連の措置が、国民に混乱や戸惑いをもたらしていることが背景にあると見られる。
(参考記事:「異常な女性遍歴」が原因か…実は「父親嫌い」だった金正恩氏)
あるいは、新歌詞を押し付けることで、「危険な替え歌」が流行ってしまうことを危惧しているのかもしれない。
合唱する時に、旧歌詞と新歌詞が入り乱れてしまい、歌の流れが乱れてしまうような状況になっているとのことだ。